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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第三部
157/232

#147「ダウト」【竹美】

#147「ダウト」【竹美】


 策士、策に溺れる。才子、才に倒れる。

「なるほど。よく考えましたね。そういうことなら、問題と解答は、俺のほうで用意しましょう。インターネット上に、過去三年分の試験が公開されているはずですから」

「助かります」

「それは、こちらの台詞です。俺ひとりでは、そこまで辿り着かなかったでしょうから。それでは、来週五日間の午後は、昴くんのことをお願いしますね。おやすみなさい」

「はい。任せてください。頑張ります。おやすみなさい」

 竹美は通話を切り、スマートフォンをクッションの上に投げ、自身もソファーにお腹からダイブする。

「はぁー。これで、一段落かしら」

「大変そうだな」

 竹美が身体を反転させて仰向けになると、視線の先では、永井が両手にコーヒーカップを持って立っていた。

「あぁ、次郎さん。待って。ちょっと詰めるわ」

 竹美が起き上がって端によると、永井は竹美の横に座り、カップの一つをローテーブルに置き、一つは口元に運ぶ。

「粉が多かったか。――今度は、何を企んでるんだ」

 永井の問い掛けに、竹美はテーブルの上のカップを取り、一口啜ってから答える。

「本当だ。いつもより苦い。――実習先に、ちゃん付けしたり猫撫で声で話しかけられたりすると、子供扱いするなって反発する子がいてね。しかも、受験に関係ないことは、するだけ時間の無駄だって言うのよ」

「あぁ、いるよな。そういう小生意気なガキ」

「だから。いっそのこと、午後からワンツーマンで特別授業をすれば良いんじゃないかと思って、大学入試を解説することにしたの」

「おぉ。思い切ったことをするんだな。でも、小僧の鼻っ柱を折ってやるには、それくらいで丁度良いかもな」

「そうでしょう。井の中の蛙よ、大海を知るのだー」

 竹美が片手の人差し指を立てて腕を挙げ、高々と宣言すると、永井は呆れた調子で竹美の腕を下ろさせ、額に手を当てる。

「熱は無いが、酔ってるみたいだな」

「酔っ払ってなんかないわよ。それとも、リキュールか何か入れたの、これ」

 カップを持って抗議する竹美に、永井は素知らぬ顔で言う。

「よく眠れるように、バーボンを入れた」

「えっ。道理で苦いと思った」

 竹美が漆黒の液面を覗き込んでいると、永井はニヤリと口角を上げながら言う。

「と言ったら、どうする」

「えぇっ、あっ、嘘なのね。嘘なんでしょう」

「さぁな。でも、最近、やけに張り切りすぎてるようだったから、緊張を解さないといけないと思ったのは、本音だ」

 もう。この、チェシャ猫め。からかうのは、ハートの女王だけにしなさい。


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