#146「恩師の教え」【竹美】
#146「恩師の教え」【竹美】
故きを温ねて新しきを知る。温故知新。
「最後の授業、黒板いっぱいに白墨で国語万歳と書けば良かったかなぁ」
「今どきの中学生は、フランツ少年のように物分り良くないですよ、アメル先生」
「ホッホ。あぁ、うん。――それにしても、困った子だね。いくら成績優秀でも、勝手に塾のワークブックを解き進めるという態度は、あぁ、いかがなものだろう」
床の間のある六畳ほどの和室で、秋山と竹美は、座卓に対して斜向かいに座って話し合っている。座卓の上には湯飲みが二つある。
「きっと、背伸びしたい年頃なんだと思います。でも、このままだと孤立してしまいますよね」
「ウーム。気が合わないのに、無理矢理、仲良しこよしさせても、かえって逆効果だろうね。低レベルな問題は、解くだけ時間の無駄だという、その子の意見も筋が通ってなくもない。ただ、問題集は受験に役立っても、社会に出てからは何の役にも立たない。どっちかといえば、人生に役立つのは、クラスメイトと読み進めた教科書のほうだ」
そういえば、問題集は容易に手に入るから資源ゴミにして良いけど、教科書は出来の良さのわりに入手が困難だから、大人になるまで保管してなさいって言ってっけ。二十歳を過ぎて、試験や暗記から自由になってから読み返したとき、意外と質が高いと思ったのよね。
「多感な少年期を勉強漬けにするのは、もったいない。あぁ、それに気付かせるにも、あえてここで、うんと背伸びさせてみてはどうかな」
そう言うと秋山は、湯呑みを持ち、一口啜る。
うんと背伸びさせる。子供扱いしない。難問を解かせる。……そうだ。
「そうよ。二年生にしては、よく出来るけど、まだまだ子供に過ぎないって解らせれば良いんだわ」
パッと表情を輝かせながら言った竹美に、秋山は表情をほころばせ、満足気にゆっくりと頷いて言う。
「なにがしか、天啓にでも打たれたようだね。忘れないうちに、帰って準備に取り掛かりなさい。鉄は、熱いうちに打てというよ」
それを聞いた竹美は、勢いよく立ち上がり、傍に置いておいたトートバッグとレジ袋を持つと、深々と一礼した。
「ありがとうございます。先生のお陰で、糸口が見付かりました」
「なぁに。礼には及ばないよ。さっ、暗くならないうちに戻りなさい。それは、夕食の材料なんだろう」
「エヘヘ。それでは、失礼します」
そう言って竹美は、やにわに駆け出し、部屋をあとにした。




