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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第三部
156/232

#146「恩師の教え」【竹美】

#146「恩師の教え」【竹美】


 (ふる)きを(たず)ねて新しきを知る。温故知新。

「最後の授業、黒板いっぱいに白墨で国語万歳と書けば良かったかなぁ」

「今どきの中学生は、フランツ少年のように物分り良くないですよ、アメル先生」

「ホッホ。あぁ、うん。――それにしても、困った子だね。いくら成績優秀でも、勝手に塾のワークブックを解き進めるという態度は、あぁ、いかがなものだろう」

 床の間のある六畳ほどの和室で、秋山と竹美は、座卓に対して斜向かいに座って話し合っている。座卓の上には湯飲みが二つある。

「きっと、背伸びしたい年頃なんだと思います。でも、このままだと孤立してしまいますよね」

「ウーム。気が合わないのに、無理矢理、仲良しこよしさせても、かえって逆効果だろうね。低レベルな問題は、解くだけ時間の無駄だという、その子の意見も筋が通ってなくもない。ただ、問題集は受験に役立っても、社会に出てからは何の役にも立たない。どっちかといえば、人生に役立つのは、クラスメイトと読み進めた教科書のほうだ」

 そういえば、問題集は容易に手に入るから資源ゴミにして良いけど、教科書は出来の良さのわりに入手が困難だから、大人になるまで保管してなさいって言ってっけ。二十歳を過ぎて、試験や暗記から自由になってから読み返したとき、意外と質が高いと思ったのよね。

「多感な少年期を勉強漬けにするのは、もったいない。あぁ、それに気付かせるにも、あえてここで、うんと背伸びさせてみてはどうかな」

 そう言うと秋山は、湯呑みを持ち、一口啜る。

 うんと背伸びさせる。子供扱いしない。難問を解かせる。……そうだ。

「そうよ。二年生にしては、よく出来るけど、まだまだ子供に過ぎないって解らせれば良いんだわ」

 パッと表情を輝かせながら言った竹美に、秋山は表情をほころばせ、満足気にゆっくりと頷いて言う。

「なにがしか、天啓にでも打たれたようだね。忘れないうちに、帰って準備に取り掛かりなさい。鉄は、熱いうちに打てというよ」

 それを聞いた竹美は、勢いよく立ち上がり、傍に置いておいたトートバッグとレジ袋を持つと、深々と一礼した。

「ありがとうございます。先生のお陰で、糸口が見付かりました」

「なぁに。礼には及ばないよ。さっ、暗くならないうちに戻りなさい。それは、夕食の材料なんだろう」

「エヘヘ。それでは、失礼します」

 そう言って竹美は、やにわに駆け出し、部屋をあとにした。 

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