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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第二部
150/232

#143「山嵐の葛藤」【安彦】

#143「山嵐の葛藤」【安彦】


 基本的には素直で良い子なんだけど、ときどき意地っ張りになっちゃうんだよね。

 子供部屋のベッドサイドに、観音院と安奈が座っている。観音院が股を広げて深く腰掛け、そのあいだに安奈が観音院の胸に背中を預ける形だ。

「何で作楽ちゃんに、あんなことを言っちゃったのかな。いつもの、お利口な安奈らしくないよ」

 観音院が安奈の後ろ頭に優しく声を掛けると、安奈はポツポツと胸のうちをもらし始める。

「それは、その。……寿くんと、あんまりにも仲良くしてるから」

 女の子だなぁ。好きな男の子が、他の女の子と仲良くしてるのが気に入らなかったのか。

「それだけなのかい。琢くんも、作楽ちゃんと同じくらいか、むしろ、それ以上に仲良くしてると思うけど」

「だって、琢くんは、寿くんの弟だもの。寿くんが琢くんに付きっきりになってても、お兄ちゃんとして、ちゃんと面倒を見てるんだと思うだけよ」

 それは、一理ある。でも、それが作楽ちゃんに対するジェラシーを正当化する理由にはならないってことを、教えておこう。

「作楽ちゃんに対しては、そうじゃないっていうのかい」

「いや、それは」

 安奈は俯き、口篭ってしまう。

 お姉さんとしてのプライドが邪魔して、一緒に入れてって言えなかったんだよね。わかるよ、安奈。わかるけど、それで作楽ちゃんに辛く当たって喧嘩寸前になっちゃだめだよ。

 答えが返ってこないのを見て、観音院が囁くようなソフトボイスで語りかける。

「ねぇ、安奈。寿くんは、安奈だけのものじゃないんだよ。独り占めしたくて安奈の世界に閉じ込めたら、寿くんは淋しがるよね。だって、寿くんにしてみれば、自分の世界を奪われたことになるんだから」

 観音院は、安奈のウエストに腕を回し、引き寄せてギュッと抱きしめる。

「何がいけなかったのか、わかるよね、安奈」

「……わがまま言って、ごめんなさい。私、寿くんの気持ちを考えてなかったわ」

「良いんだよ。何が間違いか気付いて直せば、それで良いんだ。また一つ、レディーに近付いたよ。成長したね。偉い、偉い」

 観音院は腰に回していた腕を片方だけ解き、ポンポンと軽く頭をタッチする。安奈は緊張を解き、満足そうにニッコリと微笑む。

  *

「フーン。そんなことがあったのか。――これは、この箪笥で良いのか」

 織田が畳紙に包まれた着物を持ちながら観音院に訊ね、観音院は織田に指示を出す。

「そうなんだ。前より、打ち解けた気がするよ。――そうだね。入るなら、さっきと同じ段に入れといて」 

「喧嘩するほど仲が良いって言うからな。――これで良いか」

「それじゃあ、僕たちも喧嘩してみるかい。――それで良いよ。ご苦労さま」

「何だよ、その馬鹿みたいな提案は。まぁ、暴行罪で訴えないなら、拳で語るのも吝かでないが」

 箪笥の引き出しを、別の段が開かないよう慎重に閉めると、織田は観音院に向かってファイティングポーズを取る。

「力任せなのは、遠慮したいな。腕っ節で勝負するなら、目黒か赤城に代わってもらうよ」

「ケッ。これだから、生粋の坊っちゃんは、いけない」

 織田は手を開き、お手上げとばかりに両手を上に挙げる。

「育ったのは、この家だけど、生まれは、ここじゃないよ。大旦那さまも、実の父親じゃないし」

「んんっ。それは、どういうことだ」

「どういうことだろうね。不思議だよねぇ」

 織田が首を傾げるのを横目に、観音院は含みのある笑みを浮かべて部屋をあとにする。

「待てよ。気になるだろう。説明しろって」 

 織田は、慌てて観音院のあとを追い駆ける。


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