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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第二部
147/232

#140「三人目」【金子】

#140「三人目」【金子】


「妙に胃の下あたりがムカつくと思ったら、悪阻だったってわけ」

「どういうことだ」

「私に聞かれても困る。産婦人科の先生には『医学的には、何とも説明できません。ただ、おめでたいことであることは、確かです』って言われただけだもの」

「いやまぁ、そりゃあ、子供を懐妊したことに関しては、めでたいさ」

 誠と金子が腑に落ちない顔で話し合っているところへ、琢と寿が駆け寄り、疑問をぶつける。

「何だ、何だ。何が、めでたいんだ」

「かいにんって何」

 金子は誠に視線を送り、誠が二人に説明する。

「幸のお腹の中に、赤ちゃんがいる。懐妊ってのは、お腹の中に赤ちゃんを授かることだ」

「えっ、どこに居るんだよ。いつもの母ちゃんと変わらないぞ」

「うん。それに赤ちゃんって、コウノトリが運んでくるって言ってたよね」

 琢は金子に、寿は誠に疑わしげな視線を向ける。誠は金子に視線を送り、金子が続けて補足する。

「コウノトリが運んでくるのは、まだ赤ちゃんとして小さいうちなの。これから来年の春まで十ヶ月あまりで、この中で少しずつ大きくなっていくのよ。産まれるときの赤ちゃんって、三キロくらいあるのよ。いくら力持ちでも、そんな重たいものを嘴に銜えて飛べないでしょう」

 金子は、自身の腹を撫で回しながら、二人に言い聞かせる。

「そっか。鳥が運ぶんだもんな」

「うんうん。大きくなってからじゃあ、運べないものね」

 首肯する琢と寿を見て、誠は胸を撫で下ろし、誠を見た金子は、呆れて溜め息を漏らす。

 どう説明したものかと首を傾げてないで、記者なら文才を生かしなさいよね。まったく。

  *

「向日葵と書いて、それいゆって読ませるのは、どうだろう」

「フランス語にすれば良いって話じゃないの。名乗るたびに恥をかくんだから、ちゃんとした名前を考えてよ」

 誠と金子が、リビングで額を集めている。テーブルの上には、メモや鉛筆、それから、漢和辞典や国語辞典、そして何故か、六法全書が置いてある。

「日本語が良いなら、さっきのモケミで」

「却下。もっと真剣に」

「へーい」

 げんなりする誠と、苛立たしげな金子の下へ、寿が封筒を持って現れる。

「郵便です。シゲお婆ちゃんからです」

「どうも、どうも。はて、何の手紙だろう。ハワイ土産の礼なら送ったし、結婚祝いなら電報で来てたよなぁ」

 誠は、寿の手から封筒を受け取り、封緘してあるほうを細く千切って開ける。すると、中から一枚の酸化した硬券切符が出てくる。

「あら、何か落ちた。何だろう」

「僕にも見せて」

 金子が切符を拾い上げ、寿は金子の背後に回って手元を覗き込む。誠は、同封されていた手紙を広げ、読み上げる。

「前略、から三行ほど飛ばすとして、……えぇ、懐かしい物が出てきたので、一緒に入れておきます。きっと、話の種になることでしょう。――本当に、懐かしいものが出てきたなぁ」

「何なの、これ。ずいぶん年代物みたいだけど」

「何とかから、何とかへ。あっ、こっちは、お母さんの名前だ」

「愛国駅から幸福駅への国鉄切符だよ。廃線になる前に、親子で北海道へ行ったんだ。そのあと、半年もしないうちに親父が亡くなったから、四人で行った最後の旅になったんだけどな」

 へぇ。そんな大事なものなのね、これ。

 金子は、切符を矯めつ眇めつ眺め、寿は、誠に疑問を投げかける。

「こくてつって何」

「それは、今のジェーアールのことだ。――愛の国、愛国、愛。亀山、愛。うん。響きは悪くないな」

 誠が小声で言った後半部を、寿は聞き逃さず、小首を傾げる。

「んっ。何が響いてるの」

 やれやれ。やっと、まともな候補が出てきたわね。


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