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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第二部
146/232

#139「悪夢と獏」【金子】

#139「悪夢と獏」【金子】


 何故にヒトは夢を見るのか学者に問えば、三者三様の答えが返ってくる。

「ごめんなさい。ごめん、なさい」

 草木も眠る、深夜二時過ぎ。誠は、布団の中で譫言を口走っている金子のただならぬ様子に気付き、咄嗟に肩を掴んで揺り起こす。

「幸。どうした。大丈夫か」

「誠さん」

「何を見たか、何を聞いたか。俺に残さず話してみろ」

「そんな、話すほどのことじゃない」

 金子は、誠の手を払い退け、俯いて視線を反対に逸らす。

「いいや、話すほどのことだ。隠すんじゃない」

 誠は、両手を金子の頬に当て、自分のほうへ振り向かせる。

「どんなに馬鹿げたことだろうと、笑わない。いくら現実離れしてようと、信じる。だから、ありのまま話せ」

 ずるい男だな。普段はオチャラケてナァナァで済ませてくれるくせに、こういう困ったときだけ見逃さないんだから。

「……わかったわ。実は、ね。高校時代から、今まで。ときどき、ある夢をみるのよ」 

  *

「なるほど。中絶した子の亡霊が、夢で少女の姿をして現れるのか」

「変な話でしょう。生きてれば十六歳だから、今夜は女子高校生の姿だったわ。私の身体を奪ったあなたを許さない。私の命を返せ。そう、何度も詰問してくるの。――話せって言うから話したけど、現実に被害があるわけじゃないから、聞かなかったことにして、さっぱり忘れてちょうだい。おやすみ」

 金子は布団をかぶって寝ようとしたが、誠はそれを遮り、金子の右手首を掴む。

「一人で話を終わらせるな。もう、幸は何も悩むこと無いことを、これから俺が照明してやる。良いか」

 誠は、両手で金子の右手を持つと、指を折って数えていく。

「中学時代、幸少女はヤンキーとして悪名を馳せました。高校時代、ふしだらな異性交遊で望まぬ子供を身篭り、中絶しました」

「何よ。悪いことばかりじゃない」

「ここから良くなるんだ。――成長した少女は看護師になり、多くの人の命を救いました。精神科医と結婚して琢を引き取りました」

 誠は、折った指を戻していく。

「結果として、最初の夫婦生活は、うまく行きませんでしたが」

 誠は、もう一度、指を折り、そして戻す。

「バツイチで子持ちの新聞記者と再婚し、幸せになりました。――ほら。過去の悪事は、その後の功徳で帳消しになってるだろう。だから、もう死んだ子の年を数えるな。屋根まで飛ぶシャボン玉もあれば、飛ばず消えるシャボン玉もあるさ。理解できたら、二度と名無し少女に執着するんじゃない。良いな」

「……えぇ。ごめんなさい」

「謝るなよ。そこは、ありがとうだろうに。まぁ、急に言っても無理かな。おやすみ。よい夢を」

 誠は荒々しく布団をかぶり、眠りに落ちる。金子は、誠の寝息を確認すると、おもむろに布団をかぶる。

 この夜以降、私が悪夢に魘されることはなくなった。


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