#138「真紅の贈り物」【金子】
※前半は誠視点で進む、男三人の会話です。
#138「真紅の贈り物」【金子】
五月十三日、日曜日。晴れ。ところにより、息子たちが降ってくるでしょう。
「ねぇ、起きてよ。南蛮レンジャーが始まっちゃう」
目を覚ますと、いつの間にか枕と掛け布団が部屋の隅にクシャクシャになって追いやられており、大の字で寝転がる俺の腹の上に、琢が馬乗りになっている。
「何だ。鴨南蛮か」
「違うよ、お父さん。戦国連隊南蛮レンジャーだよ。七時から始まるんだ」
顔を右に向けると、寿が時計を指差して言った。そういえば、ジョニーズ俳優がレッド役を務める戦隊ヒーローがあったな。
「起きろ、起きろー。寝たら、凍え死ぬぞー」
琢は誠の両肩を掴み、自分と一緒に左右に激しく揺さぶる。
ここは、雪山じゃない。普通に起こせ。
誠は、ふらつきながらも琢の腕を払い退け、その脇の下に手を入れて持ち上げ、腰の上から降ろす。そして、おもむろに上体を起こす。
「起きる、起きる。ほら、起きた」
何で、幸じゃなくて俺を起こすかな。あぁ、そういうことか。
誠が、左手に寝ている金子のほうを向くと、枕元に「おこすなしばくぞ」と赤マジックで金釘流の殴り書きされたメモが置いてあるのを認めた。
これほど脅迫的な八文字があるだろうか、いや、無い。右上にあるマークは、十字路の交通標識、ではないよな。
「着替えるから、居間に行ってなさい」
「はーい。それじゃあ、お箸とお茶碗を出して待っておこうか」
「うん。二度寝するなよ、父ちゃん」
そう言うと、寿と琢は、パタパタと部屋を出て行った。
あぁ、式の前日に政治部と一面紙幅の取り合いで舌戦をした疲れが、今頃になってやってきた。忘れた頃に来るのは、ディザスターの天災だけで充分だ。
*
アメリカ南北戦争で、敵味方を問わず、負傷兵の衛生状態を改善するための活動を行ったアン・ジャービス。その娘が、亡き母を偲んで教会で記念会を開き、白いカーネーションを配ったこと。それが、母の日の始まりとされている。
「さて。男ども三人が出かけてるあいだに、晩飯を作ってしまわないとな」
金子は、冷蔵庫からボウルに入れてラップをしたハンバーグの種を取り出す。
「一昨日、この挽き肉を買ったとき、花屋はカーネーション一色だったな。真っ赤な花に、感謝の真心を込めてとか何とか。えぇっと、ここに何を入れるんだったかな」
金子はエプロンからメモを取り出し、レシピを確認する。
「小判型に成形したあと、フライパンで加熱する直前に、二センチ角くらいに切ったミルクチョコレートを入れます、か。冷蔵庫の一番上に入れておいたけど、盗み食いしてないだろうな」
金子は冷蔵庫を開け、最上段から赤い長方形の箱を取り出し、銀紙に包まれた中身を検める。箱の表面には黒のマジックで「たべたらめしぬき」と書かれている。
「一ブロックも減ってないな。よしよし。あれっ」
箱の裏面を見た金子は、しばし、そこから目を離せなくなる。心なしか、目が潤んでいるように見える。
「琢の母親でもあるけど、寿の母親でもあるんだよな、私は」
箱の裏面には、メッセージ欄が設けられており、そこにはボールペンで「おしごとおつかれさま。いつもありがとう、おかあさん」と書かれている。




