#136「よどみ」【万里】
#136「よどみ」【万里】
大人の世界は、非論理的な矛盾と不条理に満ちている。子供は、反抗と諦観を以って、それを徐々に受け入れていくものだ。
「綺麗だったわね。花嫁も、内装も。司会の人の話も面白かったし、お料理も美味しかった。それに、欲しかった物も手に入ったものね。今日は良い一日だった。そう思わない、小梅」
万里と小梅が、ソファーに並んで座っている。嬉々としている万里とは対照的に、小梅は、どこか沈んだ表情をしている。
「そうね。竹姉は綺麗だったし、永井さんもカッコよかった。ローストビーフやフルーツケーキは美味しかったし、ビンゴでレコーダーが当たったのはラッキーだと思う」
「そうでしょう。だから、もっと楽しそうにしなさいよ」
「でも、誠叔父さんと金子さんのことは、納得行かないのよ。いくら寿くんと琢くんが仲良くやっていけそうだからって、パズルのピースみたいに簡単にくっついて良いものなの」
「簡単かしら。あぁ見えて、入院中は長々と悩んだらしいわよ」
「どうだか。結婚って、もっと大切なもので、かけがえの無いものじゃないわけ。一生を左右する大事なことなのに、いともアッサリと決めちゃってさ。何だか、汚らしいわ」
おやおや。思春期特有の潔癖性が出てきたわね。
万里は、しばしムスッとして口を噤んだ小梅の顔を覗きこみ、目線が合うと、ふと顔を背け、しみじみと何かを思い出すような口調で語る。
「ママも、小梅くらいの年頃には、やっぱり小梅と同じように考えてたわ。浮気や、不倫や、金銭ずくの肉体関係や何かは、ずいぶん不潔なものだと思っていたものよ」
「そうでしょう。それなら、ママも」
「待って、小梅。まだ、続きがあるの。良いわね。――今は、まだまだ共感できないでしょうけど。……そうね。これから色んな人と出会って、いっぱい恋愛して、結婚して、子供を産んで、その子が結婚するくらいになれば、きっと、今日のさっちゃんや誠の気持ちが理解できるようになるわ」
「何なのよ、それ」
万里の言葉に、小梅は片眉を吊り上げ、口を尖らせて不満を顕わにする。
今は、分からないことばかりでしょうね。
「好きな子が出来たら、ちょっとは理解できるようになるわ。ねぇ、小梅。修学旅行から帰ってきてから、前より身嗜みに気を配るようになったように思うんだけど、何か言われたんじゃなくて」
そう言って万里が小梅のほうを向くと、小梅は視線をあさっての方角に向け、早口で言う。
「別に、何にも無いわよ。ママの気のせいでしょう」
「あら、そうかしら。何か、心変わりするようなことがあったのかと思ってたんだけど。たとえば、同じ班の男子から思いを告げられた、とか」
万里が言った途端、小梅は一瞬ビクッと肩を強張らせ、側にあったクッションを抱きしめると、俯いて顔を押し当てる。
図星だったようね。へぇー。私の知らないあいだに、そんな甘酸っぱい経験をしてたのか。これは親として、真相を把握しておかねばなるまい。
このあと、男の影があることを察して矢継ぎ早に問い詰めた万里によって、小梅は山下のことを洗いざらい白状させられてしてしまったのであった。




