#135「最終決戦」【永井】
※恋愛の形の多様性を理解できないかたは、この話をスルーして#136へと移ることをオススメします。
#135「最終決戦」【永井】
どこで誰が誰と繋がってるか分からないから、どれほど厳重に緘口令を敷いたとしても、必ず、どこかで情報が伝わってしまうものだ。
白い燕尾服姿の永井は、目の前に立っている白いカクテルドレスを着た「女」と、向かい合う形で立ち、額に手をやりながら溜め息を一つこぼすと、やれやれといった口調で、ぶっきら棒に台詞を吐く。
「貴様に招待状を贈った覚えは無いぞ。どうやって調べたんだ、かまってハムスター。いや、鎌倉頌蔵」
「そこは、次郎さんを想う愛の力よ」
大学時代の知り合いを辿って嗅ぎつけたか、もしくは偶然、誰かの噂を小耳に挟んだというところか。この場に竹美が居ないのが、不幸中の幸いか。
永井が呆れて言葉を失っていると、その背後から長一が声を掛けつつ、永井の側に歩み寄る。そして、鎌倉の存在に気付く。
「次郎。お父さんが呼んで……。何しに来たんだい、君」
親父か。何の用なんだか。まぁ、こいつは好都合だな。
「待ったをかけに来たらしい。あとは、頼んだ」
「任せて」
「あっ。ちょっと、次郎さん」
永井が立ち去り、そのあとを鎌倉が追い駆けようとしたところで、長一は鎌倉を引き止める。
「君には、僕が相手しよう。決着をつけなきゃいけないみたいだからね」
*
「次郎にその気は無いし、これから起きることもない、いや、僕が起こさせない」
膝をカーペットにつき、鎌倉の両肘をつかみ、泣きそうになりながら、さらに嘆願を続ける長一。
「頼むよ、一生のお願い。諦めて、次郎の幸せを台無しにしないで。せっかく、暗く冷たい氷に閉ざされた長い冬が終わって、ようやく、明るく暖かい緑豊かな春が始まったばかりなんだ。勝手なことを言ってると思うかもしれない。君にとっては、僕はお邪魔虫だろう。でも、これだけは譲れないんだ。もう一度見たいんだよ。心から晴れやかに笑った顔を、生き生きと過ごしてる姿を、すべてがひっくり返る前と同じ次郎を」
鎌倉は腕を回して長一を振り解こうとするが、長一は手を離さず、揉み合いになる。
「放しなさい」
「約束するまで、絶対に放さない」
鎌倉は抵抗を止め、長一の目を見据えて言う。
「仕方無いわね。私の負けよ。他に好い人を探すわ。それでいいんでしょう」
「本当だね。出任せだったら、僕は君を、一生、許さないよ」
「くどいわ。『男』に二言無しよ」
長一は両手を肘から放し、そのまま鎌倉の右手を包み込み、そこへ目を閉じて額をつけ、祈りを捧げるように片膝を立てて言う。
「ごめん。でも、ありがとう。僕には、女装癖を馬鹿にするつもりも、同性愛を嫌悪する気も無いんだ。ただ、君には、次郎よりも、もっと相応しい人間がいると思うんだ。だから、次郎には拘泥しないで欲しいんだ。それだけなんだ」
一息に長口上を述べると、長一は両手を放し、立ち上がって半歩下がる。
「はいはい。どうぞ、末永くお幸せに。この、ブラコン野郎」
「あーあ。せっかく見直しかけてたのに。いい雰囲気が無茶苦茶だよ」
長一が不満そうに言うと、鎌倉は毅然とした態度で答える。
「それで結構よ。これは和解じゃなくて、策略的転戦だもの。そっちが私をヒール扱いするなら、こっちは悪の華として麗しく可憐に散る道を選ぶわ。それじゃあ、お元気で」
はっきり言い切ると、鎌倉は足をロビーに向けて歩き出した。
「……悪いことしちゃったかなぁ」
長一は、誰にともなく呟くと、先程の永井と同じ方向へ急ぎ足で向かった。




