#133「第六感」【金子】
#133「第六感」【金子】
会いたくないと思ってる人間に限って、最も会いたくないタイミングで会ってしまうものだ。
「帰り際に柴田さんに捉まったおかげで、予定時間ギリギリだわ」
腕時計を見ながら小声で呟きつつ、ホテルのロビーを走っていた金子は、前を横切るスーツの男に気付かず、そのまま鼻からぶつかってしまう。
「イテテ。ごめんなさい、急いでるもので、あっ」
金子が鼻頭を押さえつつ顔を上げると、そこには見覚えのある顔があった。
何で、こんなときに、こんな奴に会わねばならないんだ。
「おや、こんなところで再会するとは。これは、アリアドネの悪戯かもしれませんね。相変わらず、そそっかしいことで。一息つくためにも、あちらのカフェでお茶でもいかがですか」
男の紳士的な誘いに対し、金子はムッと不機嫌な表情でピシャリと言い放つ。
「余計な気遣いよ。これから結婚式を挙げるっていう女が、よその男と茶をしばくと思ってるの」
「ほぉ。それは、いけませんね。早く準備をしなくては」
「言われなくても、急行するわよ。どうせ、医師会のプレゼンか何かが終わって暇になったところなんでしょうけど、お生憎さま。他を当たってちょうだい」
「残念ですが、致しかたありませんね。僕に言われるのは嫌かもしれませんが、ここは、おめでとうと言いましょう。今度こそ、誠の幸福を掴んでくださいね」
「どうも、ありがとう。招待状を送らなくてごめんなさいね、森宮直己さん」
そう掃き捨てるように言うと、金子は小走りで受付カウンターへと向かい、森宮は、カフェへと優雅に歩いていった。
*
「それは災難だったわね。でも、本番前に厄払いできたんじゃなくて」
せわしなく手を動かしながら、謙は鮮やかに金子の髪をセットしていく。
なるほど。そういう見かたもあるか。
「それなら良いんだけど。――ごめんね、竹美ちゃん。待たせちゃって」
金子は鏡越しに、背後に座っている竹美に話し掛けた。竹美は、それに答える。
「気にしないでください。私は平気ですし、司会のかたが機転を利かせて、間を持たせてくれてるみたいですから」
ホテルマンは、こういう不測の事態に慣れてるのかしら。マニュアルがあるのね、きっと。
「竹美ちゃんが良いなら、それで良いんだけど。そうそう。さっき万里さんから聞いたんだけど、男性陣も、予定より少し遅れて来たそうよ」
謙が努めて明るいトーンで声を掛けると、竹美が伏し目がちに呟きをもらす。
「へぇ。誠叔父さんが時間にルーズなのは、いつものことだけど、次郎さんが遅れて来たのは意外だわ。何かあったのかしら」
私も何だか、胸騒ぎがするわ。不吉なことが起きなきゃ良いんだけど。




