#132「ダブル挙式」【竹美】
#132「ダブル挙式」【竹美】
五月十二日、土曜日。大安吉日。天気は、私たちをお祝いしているかのように、雲ひとつ無い、いや、三つほど綿雲が浮かんでる五月晴れ。
「月日が経つのは、早いわね。このあいだまで、黄色い帽子と赤いランドセル姿だった竹美ちゃんが、もう結婚するんだもの」
慣れた手つきで竹美の髪に鋏や櫛を入れたりピンで留めたりしながら、謙は鏡に向かってトークを繰り広げている。
もう。謙伯父さんは、いつも同じことを言うんだから。
「来年の春には大学を卒業するんですよ、謙伯父さん」
「あら、気に触ったかしら。ごめんなさいね。可愛いお嬢さんが、綺麗なお嫁さんになったものだと思って、つい」
つい、が多いのよ。まぁ、悪気がないのは、重々承知してるんだけど。
「可愛いものと綺麗なものが好きよね」
「当然よ。だって、素敵じゃない。――さて。こんな感じで、どうかしら」
謙は、ウエストに提げた腰袋に鋏と櫛を差し、側に畳んで置いた鏡を取り上げ、竹美の後頭部で広げて見せる。
鋏を持つとオネエ口調になるのは気に入らないけど、腕前は確かなのよね。
「編み込んで、アップにしたのね」
「そうよ。せっかく、ここまで伸ばしたんだから、バッサリ切るのは勿体無いでしょう。だから、毛先をチョコチョコっと揃えるだけに留めたの。それに、ここの流れを魅せたほうが良いと思って」
そう言いながら、謙は鏡を持っていないほうの手で、竹美のネープラインを優しくなぞる。竹美は、くすぐったそうにしながら笑みをこぼす。
「フフッ。見慣れないせいか、何だか別人みたいで落ち着かないわ」
「そうね。純白のドレスに、こんな手の込んだヘアスタイルなんだものね。でも、これからメイクもあるのよ、竹美ちゃん」
「あぁ、そうだった。だけど、これ以上変身したら、ベールを上げた次郎さんが、戸惑わないかしら」
竹美が悪戯っぽく微笑むと、謙は微笑みを返し、鏡を畳んで置き、化粧筆とパレットを持つ。
「あら。向こうだって、真っ白な燕尾服でビシッと決めてくるのよ。こっちだって、これくらいしなきゃ。この際だから、うんとめかし込んで、驚かせてやりましょうよ」
それも、そうだわ。それにしても。
竹美は、壁に掛かっている時計をチラリと見て、鏡越しに謙へと話しかける。
「遅いですね、金子さん」
「本当ね。どうしちゃったのかしら」
二人の後ろにある衣装ラックには、シャーベットピンクのドレスが掛けられたままになっている。
おおかた、仕事がおしてるんでしょうね。土壇場になって逃げるような人じゃないものね。




