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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第二部
138/232

#131「身を美しく」【中原】

#131「身を美しく」【中原】


 カーペットはマグマだから足を踏み入れてはいけないとか、洗面所に行こうとしたら、俺の行く手を遮って突然カバディーを始めるとか、謎の行動が多すぎて、こいつの思考回路が一向に理解できない。

「夜鳴き蕎麦のチャルメラが聞こえるくらいまでは頑張ってたけど、いつの間にか眠っちゃってて。朝のゴミ出し案内で、一度は目が覚めたんだけど」

「暖かくなったからって、夜更かしするなよ、笠置」

 大学に程近い国道沿いを、風華と中原が他愛もないお喋りに興じながら、並んで歩いている。二人は、コンビニのレジ袋を片手ずつ提げている。中に、おにぎりや紙パック飲料が詰め込まれているのが、袋口から伺える。

 明日は一限にリアス大先生の講義があるから、モーニングチャイムしてくれって言われて、わざわざ家まで行ってみれば、まぁ酷かった。玄関の鍵は無用心に開けっ放しで、部屋に上がってみれば、万年床の横でオーバーサイズのティーシャツ一枚だけを着て、フローリングにへばりついてるんだからな。一瞬、事件性を疑ったぜ。

「オッホン。諸君も周知の通り、この文献はカントの三大批判書を踏襲して書かれているのであって、うんぬん、かんぬん」

 リアスの真似か。それにしても、誰が命名したんだろうな、このアダ名。学生間での定着率は、ほぼ百パーセントだ。

「あの乱杭歯の教授にとっては周知でも、学生には初耳だって話だな。どうだった、講義室の出席率は」

「中原先輩の予想通りよ。連休明けで、ごっそり減ってたわ。四回生しか居ないんじゃないかしら」

 そこそこ楽して可を取るには、うってつけだからな。

「あの講義は期末試験が無いから、毎回出席して、何となく深いコメントを書いておけよ。そしたら、教授のほうで勝手に拡大解釈して良をくれるから」

「経験者は、かく語りき。でも、優はくれないのよね」

 優になるのは、毎回、最前列を陣取る法学科や医学科の首席童貞賢者だけだろう。訳の分からない教授のたわ言をつぶさに記録して、真剣な眼差しで頷きながら聞いてるんだからな。日本の法曹界や医療界の歪さを如実に物語る、いい例だ。

「単位をくれるだけ良いだろう。別に優の一つが、良の二つや可の三つに該当するわけじゃない」

「そうよね。――話は変わるけど、今度の竹美の結婚式、何を着て行ったら良いと思う」

 常識的に考えて自分で判断しろ、と言いたいところだけど、そんなことを言った日には、何を勘違いするか分からないからな。

「少なくとも、今朝の部屋に脱ぎ散らかされてた服の中には無いな」

「ちょっと。何を観察してくれてるのよ」

 見られたくなければ、きちんと畳んで仕舞っておくなり、玄関にチェーンロックするなりしておけ。よくもまぁ、今まで、強盗や強姦に襲われなかったものだ。いや、警戒心や羞恥心が希薄すぎて、逆にターゲットにされないのか。。何か裏があると思われても無理ないな。何もないけど。

「片付けないほうが悪い。帰ったら、真っ先に掃除から始めるからな」

「そう。頑張って。応援してる」

「笠置も参加するんだ。じゃなきゃ、こいつは俺一人で食べるぞ」

 中原は、取っ手を持ってるほうの手を上下に揺らし、ガサガサとレジ袋を鳴らす。

「えぇー。もう、しょうがないわね。手伝うわ」

 しょうがないのは、どっちだ。まったく。親の顔が見たいぜ。


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