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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第二部
137/232

#130「しない自由」【奈々】

※前半は、女主人公のタグに反する男同士の会話です。


#130「しない自由」【奈々】


 布団を取り払った掘り炬燵がある居間で、観音院と織田が録画したテレビ番組を視ている。天板の上には、二客の青磁色の湯呑みが並んでいる。

「五客で十万円だなんて、とんでもない。これは高麗の名のある茶器に、間違いございません。いい仕事してます。来客用にお使いとのことですが、疵や欠けや無いところを見ますと、よっぽど鄭重に扱われてるんですね。これからも、そのまま大事になすってください」

 観音院はリモコンを操作してレコーダーを止めると、何事もなかったかのように湯呑みを手に取り、織田に話しかける。

「という訳で、これは一客百万円の品なんだって」

「いやいや。何で、何気なく使ってんだよ。そんな大事なもの、納戸なり金庫なりにしまって大切にしておけよ」

「あのね。大事にするってことは、目の届かないところで、手の触れないようにすることじゃないんだよ。物には、希少価値の他に、使用価値があるんだからさ」

「ガキどもが割ったら、どうする」

「怪我が無いか心配するね。壊れたものに関しては、もう寿命だったと諦めるよ。それより、名のある品が混ざってると思えば、物を粗末に扱わなくなると思わないかい」

「あのなぁ。そんなロシアンルーレットみたいな楽しみかたするんじゃない。精神衛生に悪い」

「そうかな。君が、この前に着た小紋だけど」

「何だ。まさか、名品だったのか」

「人間国宝が丹念に織り上げた一品……」

「何だと」

 織田が狼狽して立ち上がると、観音院はクスクス笑い、口元を片手で押さえながら言う。

「と言ったら、どうする」

「嘘かよ。まぁ、嘘なら結構だけどさ。心臓が止るかと思った」

 織田は胸に片手をあて、どっかりと腰を落とした。

「応急処置なら任せて」

「お前が根源なんだよ。少しは自覚しやがれ」

「こんな面白いリアクションが見られるのに、やめられないよ」

  *

「真価を分かった上で、わざと低く見積もったんでしょう、安彦さん」

 ネグリジェ姿の奈々が言うと、浴衣姿の観音院は、悪戯っぽい笑みを浮かべて言う。

「分かるんだね」

「えぇ。『安彦は、本物を見抜く目を持っている』と。それが、大旦那さんの口癖でしたもの」

 その狐のような糸目に、そんな能力が秘められてることを見抜く大旦那さんも、安彦さん以上に凄い人物だと思いますけどね。

「当てちゃうと番組として面白くないと思って、五十年前に購入した当時の金額を書いたんだ」

 八百長もいいところね。盛り上がるでしょうけど。

 二人のあいだに、しばし沈黙が流れたあと、観音院が、それまでとうってかわって真剣な表情で語る。

「でも、僕が出品した湯呑みを通して伝えたかったことは、別なところにあったんだ。陶磁器造りは、朝鮮半島から伝来したものでしょう。近現代の政治的イザコザは置いといて、持ちつ持たれつ、仲違いせず、お互いさまで同時に歩み寄る姿勢が大切だと思ってね。そういうメッセージを込めてるって、由来についてコメントするところで織り交ぜたんだけど、編集で全部カットされちゃったみたい」

 面白くない、反論が怖い、関係ない。そうやって、無かったことにし続けているから、いつまでも偏見が消えないのだろう。

「ご近所付き合いって、難しいものよね」

 奈々の呟きは、観音院から反応されることなく、そのまま毛足の長い絨毯に埋もれて消えていった。


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