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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第二部
135/232

#128「計算通り」【吉川】

※後半は、女主人公のタグに反する男同士の会話です。


#128「計算通り」【吉川】


「近くで見ると、すっごく大きいわね」

「あぁ、すごいな」

 モノトーンのチェックのシャツに山吹色のペイズリー柄のスカート姿の小梅と、ボーダーの臙脂のティーシャツにインディゴ染めのジーンズ姿の吉川が、丹塗りの鳥居を見上げて立っている。

「厳島。あぁ厳島、厳島」

「それは松島よ、吉川くん」

 あれ、そうだっけ。偉大さで声が出ないのは、同じ気持ちだと思うけどな。

  *

「チャラ男のくせに意気地の無いな。このまま卒業して良いのかよ。当たって砕けろって。駄目元でも」

 吉川が重厚な佇まいに似つかわしくない軽薄な話題を振ると、ストライプの若草色のシャツにベージュのチノパン姿の山下が反論する。

「昨日の話の続きかよ。吉川が半端なところで寝落ちしたものだから、気になってなかなか眠れなかったんだからな」

 俺のせいにするなよ。虫の居所が悪いな。

  *

「作った饅頭は、その場で食べても良いらしい。俺の分まで食べるなよ、松本」

 水玉模様の菫色のワンピースにオフホワイトのカーディガンを羽織った英里が、口を尖らせて吉川の発言に異を唱える。

「失礼ね。そこまで食い意地張ってないわよ」

 それは、どうだか。

「ねぇ、吉川くん。あの二人、うまくいってると思う」

「どうだろうな。山下には発破をかけておいたけど」

「私も、小梅ちゃんには、山下くんが好意を寄せてることを匂わせておいたけど」

「あとは、本人たち次第だよな」

「そうね。なるようになれ、ね」

「そうそう。それより、これからのことを考えようぜ。広島名物、もみじまんじゅー」

 往年のコメディアンよろしくの身振りをする吉川。

「恥ずかしいから、やめて」

 二人を乗せたロープウェイは、なおも新緑の中を優雅に進む。

  *

「どうだったんだ、山下」

「お互いのことを知るために、お友だちからということになった。遠回しなお断りだな」

 フェリーの柵に腕を乗せ、細波立つ水面を眺めつつ、吉川と山下の二人が、潮風が吹かれながら会話を交わしている。 

「勝手に諦めるなよ。まだチャンスがあるって」

「部外者の吉川に、何がわかる」

「わかるんだな、これが。考えてみろよ。これで鶴岡は、山下が自分を異性として意識してるとハッキリ知ったわけだろう。そうなれば鶴岡のほうだって、山下のことを、ただの男子生徒エーとして見ていられなくなるじゃないか。なっ。これからだよ」

「腑に落ちないな。うまく丸め込まれてる気がする」

「今のは英里の受け売りでもあるんだ。所詮、男子と女子は別の生き物だぜ。そう、自分のものさしだけで早合点するなよ。希望を持て」

 そう言って吉川が山下の背中を叩くと、山下は俄に表情を曇らせる。

「あまり、俺を刺激しないでくれ。酔いを、堪えてるんだ」

「オッと、それは悪かった。もうすぐ着くから、我慢しろ。吐いて楽になるのは、それからだ」

 吉川は、片手で山下の背中を撫で摩る。

 本音を腹に溜め込む癖を治さないと、そのうち胃に穴が開くぞ、山下。

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