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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第二部
131/232

#124「世話ばなし」【風華】

※後半は、女主人公のタグに反する男同士の会話です。


#124「世話ばなし」【風華】


「でぃっ、くしゅん」

「ブレスユー。花粉症なんですか、中原先輩」

 クシャミをした中原に、風華は足を止めて声を掛ける。

「あぁ。今年は飛散量が少ないから平気かと思って、油断した。目も痒い」

「掻いちゃ駄目ですよ。目薬は」

「持ってない。あっ、そうだ。この先の薬局で買おう。まだクーポンが余ってるはずだ」

「クーポン」

 風華が小首を傾げると、中原は風華に説明する。

「そう。千円以上の買い物で百円分の割引なんだ。ついでに、何か軽く食べるものを買っていこう。笠置も何か買えよ。奢るぜ」

「やった。私、バランスカロリーのメープルとフルーツとチョコレート」

「チーズ以外だな。了解」

 中原と風華は、再び歩き出す。

 そういえば、先輩は昨日、永井先輩と会ってたんだっけ。ちょっと様子を聞いてみよう。 

  *

「遅かったな。レジが混んでたのか」

 永井は新聞を細く畳んでローテーブルに置き、中原のほうを見る。

「店は空いてた。帰りに、忠子さんの世間話に引っ掛かった」

「誰だ、そいつ」

「斜向かいの奥さんだよ」

「あぁ、小林さんか」

「ご主人のヘルニアが悪化したとか何とか、ひとくさり言われてさ。参った、参った」

「その愚痴を俺に言うな、マイケルジャクソン。だいたい、何でリュースケがフルネームを把握してるんだよ」

「途中で、伊丹タキさんっておばちゃんが加わったから。『お見合いおばさんはどこから沸くかと思ってたけど、まさか自分が娘の見合いを世話するとは』って言ってたから、縁談がまとまったんじゃないかな。ホワイトデーのお返しが決め手だったそうだ」

「そうか、そうか。それは良かったな。それで、その袋の中身は何だ」

 永井は、中原が持つ黒いレジ袋を指差した。

「いいから最後まで聞けよ、あわてんぼう。そのご主人は、製薬会社に勤めてるらしくてさ。クーポンを貰ったんだ。一枚やるよ」

「世間話を聞かされた迷惑料として、ありがたく受け取っておこう」

「何だよ、それ」

 不満げに口を尖らせる中原に対し、永井は素っ気なく答える。

「礼を言ったんだが、伝わらなかったか」

「前半が無ければ、どういたしましてと言えるんだけどな。――さて。お待ちかねの中身ですが」

「待ってない。勿体つけるな」

「同棲祝いに、こちらの小箱をプレゼントしまーす。夜の営みにお使いくださーい」

 中原は袋の中身を取り出し、恭しく永井に差し出す。

「おい。エイプリルフールは、今日じゃないぞ」

「いやいや、真面目に考えてさ。予行演習に必要だろう」

「余計なお世話だ。こいつを帽子を取った頭に引っ掛けてやろうか」

 永井は、ローテーブルに置いてあったアイスコーヒーを手に取った。グラスの底には、コースターが張り付いている。

「背筋が凍って身長が縮みそうだからやめてくれ」

 おどけてみせる中原に呆れ、永井はグラスをテーブルに戻し、視線を中原から逸らし、頬杖を付いてボソッと呟く。

「竹美の気分を追体験した気分だ。共感と同時に反省だな」

「ん。何か言ったか」

 中原は片手を耳にあて、永井に近付く。

「何でもない。つくづく、下種な野郎だったと思ってさ」

「いまさらだな、ジロー。ていうか、俺に対しては辛辣なままだろう。別に、気にしないけどさ」

「ふっ。まぁ、そうだな。――座れよ。リュースケの分のコーヒーを淹れてやろう」

「それじゃあ、遠慮なく。あっ、ガムシロップとラテは多めで頼む」

「はい、はい」

 永井が立ち上がり、キッチンへ歩き出すと同時に、中原はソファーへ飛び込んだ。

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