#122「帰ろうか」【万里】
#122「帰ろうか」【万里】
家に帰るまでが遠足だとは、よく言ったものだわ。
「すみません。俺の、監督不行届きです」
万里と観音院に向け、深々と頭を下げる坂口。万里のそばには寿が、観音院のそばには安奈がいる。
三十人以上もいるのに、常に全員の行動を監視することなんか出来ないわ。まして、全員の体調をリアルタイムで把握することをや。
「頭を上げてください。無傷で見つかったんですから、良かったじゃありませんか」
万里が坂口に優しく声を掛けると、観音院もそれに加勢する。
「そうですよ。――あっ、目黒。安奈の無事を確認したので、捜索中止してください。どうぞ。……そう、寿くんも一緒だよ。だから、赤城にも伝えるように。以上」
電話の向こうのお相手は、目黒さんか。今、どの見当を捜してるのかしら。
観音院は、袂に携帯電話をしまうと、安奈に手を差し出し、一声掛ける。
「もう少ししたら、目黒が到着するよ」
安奈は観音院の手を握り、そっぽを向いたまま言う。
「ごめんなさい、お父さん。勝手な行動をして坂口先生にご迷惑を掛けてしまったし、レッスンだって休んでしまったわ」
観音院は一旦眉根を寄せ、やがて笑顔に戻って言う。
「たしかに、今日の安奈の行動は褒められたものじゃないね。だけど、ちゃんと自分が悪かった反省してるみたいだし、ちゃんと謝ることもできたから、それで帳消しだよ。それより、怖くなかったかい」
かぶりを振り、観音院のほうを向く安奈。
「寿くんが一緒だったから、平気だった」
「そっか。――ありがとう、寿くん」
観音院が寿に声を掛けると、寿は恐縮して万里の後ろに隠れてしまう。
寿くんったら、照れ屋さんなんだから。
「あらあら。褒められて、気恥ずかしいみたいね」
「ふふっ。そのようですね」
万里と観音院が微笑み合っていると、校内放送が流れる。
「坂口先生、坂口先生。至急、職員室までお戻りください」
「草津先生だ。――それでは、俺は、この辺で失礼します」
坂口は会釈をすると、その場から速やかに立ち去った。
「お忙しそうですね、坂口先生」
「いろいろあるんでしょうね。ところで、これから寿くんは、どちらの家に」
「私の家です。今日は、誠もサッちゃんも遅いので。琢くんも、小梅と留守番してます」
「それなら、一度で済むことですし、お送りしますよ」
「いえ、そんな。観音院さんも安奈ちゃんも、お暇では無いでしょう」
「遠慮なさらずに。――良いよね、安奈」
「もちろんよ。――今日はくたびれちゃったものね、寿くん」
安奈が万里の後ろを覗き込むと、寿が照れくさそうに答える。
「あぁ、うん。いっぱい歩いたからね」
「それじゃあ、ご好意に甘えて。いつも、すみません」
「お互いさまでしょう。――あっ、あれは目黒の車かな」
遠くのほうから、黒塗りの乗用車が姿を現す。
暮れなずむ空と相まって、何だかドラマか映画のワンシーンみたいに見えるわね。とても、これが日常の一コマだとは思えないわ。




