#115「新学期」【小梅】
#115「新学期」【小梅】
「山下、山下。三年は、山下も二組だぞ」
クラス替えの紙を指差しながら、吉川は満面の笑みで山下のブレザーの袖を引っ張った。
「見ればわかる。制服が傷むから、離せ」
山下は、しかめっ面で吉川の手を振り解く。
「何だよ。もっと喜べよ。嬉しくないのか」
バシバシと山下の背中を叩く吉川。
「落ち着きのない、騒々しいクラスになりそうだと思ってさ」
「賑やかで楽しくなるぜ」
「俺は、静かに過ごしたい。それじゃあ」
先に教室へ向かおうとする山下を、吉川は後ろ襟を掴んで引き止める。
「まぁまぁ、そう慌てるなって。あっ、松本だ。おーい」
吉川は、人ごみの向こうに居る英里に向かい、大きく手を振った。
*
新しい担任の名前は、斧塚由紀というのか。何かの都合で、着任は来週になるらしいけど、どんな先生なんだろう。
「放送部員、熱烈歓迎でーす。先着一名、もれなく副部長になれます。いかがですかー」
校庭に集まる人ごみの中で、大橋は新入部員歓迎のビラを配っている。
二年生になっても変わらないわね、放送部長。あっ、生徒会長に追いかけられてる。無許可だったのか。
「見て見て、小梅ちゃん。私たち、また二組よ」
クラス替えの紙を指差し、英里は小梅に屈託ない笑顔を向ける。
「えっ。あぁ、本当。これで三年間一緒ね」
吉川くんも一緒か。良かったわね、英里ちゃん。
「今年度もよろしくね、小梅ちゃん」
「こちらこそよろしくね、英里ちゃん」
握った両手を軽くシェイクしながら、英里と小梅がお互いに喜びを共感し合っていると、小梅が人ごみの向こうで手を振っている人物に気付く。
「向こうで、吉川くんが呼んでるわよ、英里ちゃん」
振り返り、吉川の姿を認める英里。
「あっ、本当だ。山下くんも一緒みたい」
ホント。何か文句を付けてるみたいだけど、何を言ってるのかしら。
英里と小梅が、人混みを掻き分けて吉川の近くへ行くと、先に吉川が声を掛ける、英里がそれに応じる。
「おっ、鶴岡も一緒だったのか。仲が良いですな、お二人さん」
「当然よ。私と小梅ちゃんは、同好の士なんだから」
入学してすぐ、輪に入り損ねてた私に声を掛けてくれたのは、他でもない英里ちゃんだったのよね。あのときは、ホント助かったわ。
「今度は、山下くんも同じクラスなのよね。よろしくね、山下くん」
小梅が山下のほうを向いて声を掛けると、山下は視線を泳がせながら答える。
「こちらこそ、一年間よろしく。のわっ」
山下が言い切るか言い切らないかのタイミングで、吉川は山下と肩を組み、歩き出す。
「よーし。挨拶も済んだところで、教室へ行くぞ」
歩き出した二人のあとを、英里と小梅もついて行く。
うーん、迷惑だったかしら。吉川くんと仲が良いから、私も仲良くしてもらえたらありがたいと思ったんだけど。




