#113「集結」【松子】
#113「集結」【松子】
玄関先に出ると、お母さんが男の子を連れていた。今度は二人だ。倍率ドーン。
「寿くん、と、その子は」
「甥っ子、パートツー」
上機嫌でブイサインをする万里に対し、松子は額に手を当て、うんざりといった調子で話す。
「サイコロトークみたいに言わないで。今日は冗談をハイハイと受け流せるほど、機嫌がよくないのよ」
……あれ。嘘を吐いてる割には、目線と小鼻に不自然な動きが無いわね。強がりでないとすれば、ますますリアクションに困る。
「ご機嫌斜めは、真っ直ぐに。冗談でした、ウッソピョーンと言いたいところだけど、これは本当よ。ごあいさつ出来るかしら」
「さっき練習した、自己紹介だよ」
寿が小声で囁いて助け舟を出すと、琢は松子に向かってハキハキと元気良く答える。
「かごめ幼稚園キリン組か、亀山琢です」
また亀山家の人間か。でも、誰の子かしら。
玄関先の賑やかさにつられて、松子の後ろから小梅が顔を出す。
「動物の名前ってことは、年中さんね。叔父さんの隠し子ってこと」
「違うのよ、小梅。この子はね」
「再婚相手の連れ子でしょう」
そう言って小梅の後ろから、リクルートスーツを着た竹美が姿を現す。
「あら、竹美。就活、おつかれさま。でも、帰る家が違うんじゃないかしら」
話がややこしくなってきたわね。竹美が問題を永井家で解決してくれれば、こうならなかったのに。
「今朝の新聞で分からないニュースがあったから、訊きにきたのよ。――知ってたの、竹美」
万里に説明したあと、松子は竹美に向かって言った。竹美は、松子に短く返事をし、その場にしゃがんで琢に視線を合わせる。
「半月ほど前に、市役所で会ったのよ。――覚えてないかしら。ほら、ムスッとした背の高いお兄さんも一緒にいたんだけど」
首を傾げる琢に対し、寿はまたアシストする。
「お父さんとお母さんが戻ってくるのを待ってるあいだ、ジュースをくれただろう」
「あっ、あの姉ちゃんか」
琢は、曇っていた表情をパッと晴れやかに変えた。
フムフム。やっと全体像が見えてきたわ。
「こんちはー。シロイヌミズホの宅配便で-す」
「笑いを取ろうとするな。ほぼほぼ初対面なんだから、普通にしろって」
万里の背後から、思春期特有の軽薄な声が聞こえてくる。万里が端によると、そこには、まったく同じ容姿の男が二人、図鑑を両手に抱えて立っていた。
あぁ、そうだ。今日は、木下家の双子も来ることになってたんだった。ものの見事に同じタイミングで集まったものね。
「兄ちゃんは、忍者なのか」
一平と成二を交互にまじまじと見つめながら、琢は疑問を呈した。
「あらまぁ。琢くんは、実際の双子を見たことが無かったのね」
「ふっふっふ、よくぞ見破ったな。これぞ木下流秘奥義その一、分身の術」
「調子に乗るな、一平」
成二は、琢の疑問に便乗してふざける一平の後頭部に、手にしている荷物を叩きつけた。
「いってぇな。図鑑で殴るんじゃない、成二。これから渡すんだぞ、それ」
「両手が塞がってたもので。足を踏みつけたほうが良かったか」
やれやれ。また、厄介なことになったものだわ。




