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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第二部
119/232

#112「遊戯」【竹美】

#112「遊戯」【竹美】


 人生が八十マスの双六だとして、二十二マス目には何が書かれているのかしら。

「ねぇ、竹美。私、思うんだけどさ。書類で提出するなり、エントリーフォームに入力してするなりね。さんっざん、名前や経歴や志望動機を書きまくって自己ピーアールさせといてさ。その上で、別途、履歴書を送る必要性に疑問を感じるんだけど。そこのところ、どう思うよ」

 黒のリクルートスーツを着た風華が、隣にいる竹美に話しかける。二人の左右には、コピーロボットのように二人と同じ格好をした人間が、一種の不気味な静けさを醸し出しつつ、列をなして並んでいる。

 こんな似たり寄ったりの中から選べといわれたって、採用する側だって困るわよね。でも、企業として望ましい理想像に従おうとすれば、どうしてもこうなっちゃうのよ。嫌になっちゃう。

「私だって、本音を言えば、封筒とクリアファイルと切手と通信費の無駄だと思うわよ。でも、こうしないと新卒採用されないんだから、仕方ないじゃない。社会人になるための通過儀礼だと思って我慢しなきゃ」

 その履歴書に貼るための写真を撮影する会場で、こういうことをいうべきじゃないんだろうけど、文句の一つも付けたくなる気持ちは、痛いほど共感できる。

「むぅ。書類を山ほど送って、それから小学生が解くような問題を大量に解かされて、挙句の果てに不愉快な面接を受けるくらいなら、どこかの火山島でバンジージャンプしたほうがましよ」

 たしかに、どちらも大人になるステップではあるけれど。でも、後者は男性限定じゃなかったっけ。

 風華のビジネスバッグから、スマートフォンのバイブ音が響く。

「風華、鳴ってる」

「えっ。あぁ、私か」

 風華はファスナーを開けて手を突っ込み、がさごそと探したあと、取り出したスマートフォンを操作し、やがて手を止めて小さく噴き出す。

「誰からだったの」

「中原先輩。彼、今日は誕生日でしょう。それで、永井先輩にバースデーメッセージを要求したら、これが返ってきたんだって」

 そう言いながら、風華はディスプレイを竹美に向ける。竹美は、映っている文字を目で追い、指でスクロールすると、風華と同じように笑った。

 この文面を、表情ひとつ変えずに打ち込んだろうな。いけない。想像したら、また笑いが込み上げてきた。

「次郎さんらしいわね」

「でしょう。撮影の準備で、今日がエイプリルフールだってこと、すっかり忘れてたけど、これで思い出したわ」

 画面には「実は、俺とお前は、前世で魔界を統べる魔王とその右腕だったんだ。黙っていてすまない。だが、二十二歳の誕生日に記憶喪失の術が解けるまで、教える訳にはいかなかったのだ。さぁ、再び悪の帝国を築き上げようではないか」そこから十行ほど空けて「以上は嘘偽りない出鱈目だ。誕生日おめでとう。これで満足か」と書いてある。

 ゲームの盤面は神のみぞ知る領域だというなら、神はサイコロ遊びをしないと答えようではないか。

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