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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第二部
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#110「魅了」【安彦】

#110「魅了」【安彦】


 観音院家の菩提寺である円禅寺の住職曰く、納戸には座敷童が居るという。だから、小豆製品のお供えを欠かしてはいけない。怠ると、ポルターガイストが起きる。

「それじゃあ、ルールを説明するから、よく聞いてね」

 観音院は軽く手を叩き、客間に居る安奈、寿、作楽、琢の四人の視線を集め、続けて言う。四人は、各々手に小さなバスケットを握っている。

「このお家の一階と、その周りのお庭のあちこちに、こんな風にカラフルな卵が置いてあります。二階には一つも置いて無いから、勝手に上がらないようにね」

 同時に、袂からプラスティック製のイースターエッグを取り出す観音院。そのまま両手で二つに割り、中身を見せる。

「あっ、飴だ」

 これは、飴じゃなくてキャンディー包みになったチョコレートだよ、琢くん。他にも、グミやビスケットなんかも同じように包まれて入ってるからね。 

「こうしてケースを開けると、この通り、中にはお菓子が入ってます。でも、食べるのは後回しにして、まずは、籠の中にできるだけたくさんの卵を集めることに集中してね。

「一番たくさん見つけてみせるわ」

「いいや、一番は俺だね」

「いっぱい見つけようね」

「そうね。頑張りましょう」

 安奈と琢くんは競争で、寿くんと作楽ちゃんは協力するのかな。

「それじゃあ、エッグハント、スタート」

 観音院の掛け声と共に、四人は一斉に探索に乗り出した。

  *

「その書物、どこへ持って行くの、真白」

 観音院は、廊下の向こうから和綴じされた書物の束を持って歩いてくる真白に対して声を掛けた。そして真白は、その場に立ち止まり、上体を軽く右に傾げ、書物の山の向こうに居る観音院の姿を見ながら答える。

「今日は、雲一つない快晴ですし、空気も澄んでますから、紙類の虫干しをしようかと思いまして、こうして運び出してる次第です」

 なるほどね。たしかに、朝から晴れて乾燥してるから、絶好の虫干し日和だ。

「作業に取り掛かってるのは、真白ひとりかい」

「いいえ。赤城にも、掛け軸や巻物を持ってくるように言ってあります」

 二人掛かりなら、手伝わなくても良いかな。衣類は、冬のあいだに虫干ししておいたし、畳も、この前に畳表を張替えたばかりだし。うーん。他に出す必要があるものも無いか。

「引き止めて悪かったね。どうぞ続けて」

「失礼いたします」

 二人は廊下をすれ違い、真白は物干し場へ、観音院は階段へ向かう。

 何か言い忘れてる気がするんだけど、何を失念してるんだろう。


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