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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第二部
112/232

#105「ステップ」【目黒】

#105「ステップ」【目黒】


 観音院家、二階。階段を上がってすぐの洋室は、目黒、真白、赤城、青葉の四人が使う使用人室になっている。

「わぁ。ありがとうございます、赤城」

 ネイビーブルーの包装紙と臙脂のリボンで包まれた小箱を受け取り、上機嫌の青葉と、照れくさそうにはにかむ赤城の二人が、机に向かって書き物をしている真白の背後にほど近い位置で立ち、向かい合っている。

「手作りでも高級品でもないから、引け目を感じるんですが」

「こういうのは、お返しをしようという気持ちが一番ですよ。箱の中は、チョコレートですか」

「はい。アーモンドが入った、ヌガーなんです」

「甘そうですね」

「苦手ですか、青葉」

「いえ。むしろ、歯が浮くくらい甘いほうが好きです」

「それなら、口に合いそうです」

 青葉と赤城が仲睦まじく会話をしているところへ、スタスタと静かな足音と共に目黒が姿を現す。二人は、話をやめて目黒のほうを向く。

「二人に仕事です。青葉は、作楽さまをお湯に入れてください。赤城は、お嬢さまをボイストレーニングの先生のところまで送るように」

「はい、承知しました」

「行ってきまーす」

 青葉は自分の机に小箱を置いてから、赤城は引き出しから鍵の束を取ってから、二人揃って部屋をあとにした。バタバタと階段を駆け下りる足音が遠のくのを耳にしながら、目黒は自分の机に向かい、引き出しからノートを取り出し、書き物に取り掛かった。

  *

「二人とも、返事は良いんですけどね」

 それぞれペンを走らせながら、真白と目黒が話を交わしている。

「行動が伴ってませんね。まぁ、気長に教え込むしかないでしょう」

「二人が一人前になるのと、私たちの寿命が尽きるのと、どちらが先でしょうね」

「不吉なことを言うものではありませんよ」

「あら。ここの四人は、みんな一度、社会的に亡くなってるようなものじゃありませんか。二度死なないわよ」

「図太いですね」

「逞しいといって。それより、ちゃんと渡してきたんでしょうね」

「ご心配なく。本人は不在でしたが、松子さまに託してきました」

「ふぅん。それで良いなら、良いんですけど」

「含みがある言いかたですね。そういう真白は、康成さまからチョコレートを貰いましたか」

「あげてもいない相手から、どうして貰えますか」

「真白が康成さまに特別優しいと、お嬢さまから聞いております。離婚は成立してるそうですし、作楽さまが懐いていらっしゃるのは良いことですが、必要以上に親密にならないよう、気をつけなさい」

「ご心配なく。この愛情は、母性に近いものですよ。私は、二回り近く離れている相手に手を出すような阿婆擦れじゃございません。――遅いですね、青葉」

 机から顔を上げ、時計を見る真白。目黒も同じほうを向く。

「そうですね。別の仕事でも頼まれたのでしょうか」

「前みたいに、のぼせてなきゃ良いんですけど。ちょっと様子を見てきます」

「お願いします」

 真白はノートを引き出しに入れ、部屋をあとにした。姿が見えなくなると、すぐにトントンと静かに階段を降りる足音がした。 


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