#103「ブルーム」【小梅】
#103「ブルーム」【小梅】
吉川くんは、英里ちゃんにお返しできただろうか。
ソファーでオレンジジュースを飲みながら、小梅はボンヤリと考えていた。リビングには他に、寿と安奈が居る。
「せっかくだから、お返しも手作りしたらって言われてね。材料を買って、パティシエールのお姉さんにレシピを教わって作ったんだ。ちょっと形が崩れちゃったんだけど、味は問題ないから」
興奮した様子で、嬉々として綺麗にラッピングされた小箱を渡す寿。安奈は、それを両手で大事そうに受け取る。
「ありがとう、寿くん。大事に飾っておくわ」
「食べ物だから早めに食べてよ、安奈ちゃん」
うーん。安奈ちゃんの真意は伝わらなかったみたいね。無理もないか。この調子だと、あと数年は友達のままだろう。
小梅はグラスの中身を飲み干すと、立ち上がってキッチンへと歩き出す。
*
「どうしたの、それ。重くない」
両手にグラスと紙パックを持ち、片足で冷蔵庫の扉を押しながら、小梅は、片手に大きな箱を抱え、反対の手に紙袋を提げている松子に問いかけた。
「足で閉めないの。――中身は、馬のぬいぐるみだから軽いわよ。こういうファンシーなグッズは似合わないって思ったんだけど、せっかく選んでくれたのに、無碍にする訳にもいかないでしょう。だから、受け取ってきたの」
そういうと、松子は箱と紙袋をテーブルの上に置いた。
世間的には年齢不相応かもしれないけど、ぬいぐるみの一つでもあったほうが、女子力に欠ける松姉には良いかも。
「そっちの紙袋は何なの」
テーブルにグラスを置き、小梅はジュースを注ぐ。
「ホワイトチョコレート。こっちは坂口さんからじゃなくて、目黒さんから。玄関先で、お母さんに渡して欲しいって頼まれたの」
「何で、目黒さんからママに」
「知らないわよ。バレンタインのお返しだって言ってたから、こっそり用意して渡してたんじゃないの。真相は、お母さんに聞いてみなきゃ分からないけど」
いつの間に、そんなことをしてたんだか。油断も隙もないんだから。
「ところで、小梅は誰かからもらわなかったの」
「誰にもあげてないんだから、返ってくるはずないじゃない」
「お返しだけとは限らないじゃない。イベントに乗じて、何かあるかと思ったんだけど、何も無かったのね」
「余計なお世話よ。お姉ちゃんだって、中学生のころは、何も無かったんじゃなくて」
「悪かったわね。女子からの分をカウントしなければ、ゼロよ。――ともかく、この袋の中身は、冷蔵庫に入れておいてちょうだい。マカデミアと間違えないように、付箋でも貼っておいてね。私は、部屋に戻って、この包装を解くから」
そう言って、松子は箱を抱え、二階へ向かった。
「……空きスペースがあったかしら」
小梅は紙パックを持ち、冷蔵庫の扉を開けた。




