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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第二部
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109/232

#102「心のうち」【タキ】

#102「心のうち」【タキ】

  

「協力しますけど、手短に済ませてくださいね」

「はい。それでは、さっそく質問させていただきますね。まずは、お名前とお年を」

「小林十三。小林は小さい林、十三は漢数字の十三。今年で三十四歳」

 小林が、黒いリクルートスーツを着た若い女性に、面倒臭さを含む気だるげな声でアンケートに回答している近くで、万里と伊丹は、昼食を摂りつつ、雑談している。

「一昨日はシフトが休みだったものですから、寿くんと一緒に、バレンタインのお返しを買いに、ケーキ屋さんに行ったんです。ちょうど、パティシエの娘さんが厨房から出てくるところだったんで、お礼かねがね、ホワイトデーのオススメを聞いたり、チョコレートについて、いくつか質問したりして」

 そう言うと、万里はブロッコリーに胡麻ドレッシングをかけ、それを箸で口に運ぶ。伊丹は昆布茶を一口啜ってから、万里に言葉を返す。

「へー、そう。それは良かったわね」

 小さい子が一緒だと、買い物に出かけるのも楽しいわよね。房枝が小さいときは、あちこち連れて行ったっけ。もう、三十年近く前の話になるわね。

 伊丹が心の中で往時を懐かしんでいると、小林がカツカツと神経質そうな足音を立てながら、その側に寄る。万里と伊丹は箸を止め、小林のほうを見る。

「あら、小林さん。何か、ご用かしら」

「いえ。鶴岡さんではなくて」

 小林は、視線を伊丹のほうに向ける。

「私かい。保険に加入する気なら無いよ」

「僕も保険には、端から興味がありません。そうではなくて、ただ」

 小林は小さな咳払いを挟み、話を続ける。

「渡したいものがあるので、帰る前に事務所に寄って欲しいだけです。よろしいでしょうか」

「良いよ。渡したいものっていうのは」

「それは、渡すときに言います。それでは、くれぐれもお忘れなく」

 小林は踵を返し、食堂から立ち去る。

 まぁ、もったいぶっちゃって。何を渡したいか、だいたい想像つくけどね。

  *

「ご要望通り、呼び出しに応じましたよ。それで、何を受け取れば良いんだい」

「あぁ、その。これを、房枝さんに渡してほしいのです」

 そう言って、小林は伊丹に、百貨店のロゴがプリントされた小さな紙袋を渡す。伊丹はそれを受け取り、一度視線を下に向けて袋の隙間から中を覗きこみ、再度視線を上げて小林に質問する。

「爆弾や劇薬の類じゃないだろうね」

「断じて違いますので、ご心配なく」

「じゃあ、中身は何なんだい。何が入ってるか分からないものを、大事な一人娘に渡せないよ」

「えぇーっと。中身は、ベルギー産チョコレートの詰め合わせです。先月のお返しに」

 律儀だこと。この朴念仁がデパ地下に並んでる姿を想像すると、失笑ものだね。恥ずかしかっただろうなぁ。

「あぁ、そう。貰った以上は返礼をしないと、義理を欠くからねぇ」

「いや、そういうことではなくて、相手が房枝さんだからで。あっ」

 両手で口を覆う小林。

 おやおや。思わず本音が飛び出したようだね。可哀想だから、聞かなかったことにしようか。

「えっ、何だって」

 耳に掌をあてる伊丹。

「何でもありません。僕からは以上です」

「そうかい。それじゃあ、房枝に渡しておくよ。おつかれさま」 

 伊丹は、足早に事務所をあとにした。


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