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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第二部
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#096「繋がり」【竹美】

#096「繋がり」【竹美】


「環境しかり、組織しかり。無駄を減らそうという運動が言われて久しいけど、遅々として進まないところを鑑みるに、その運動自体が大きな無駄のように思えるわね」

 軍手を填めた手で物置に詰め込まれた品々を運び出しながら、松子はマスク越しにくぐもった声で呟いた。

 この春に、と言いながら今月中に引っ越すことになったので、土日を利用して物置を整理し始めた。お姉ちゃんが物置から廊下に運び出し、私とお母さんで捨てるものはゴミ袋へ、まだ置いておくものは段ボール箱へ入れている。そこまでは良かったんだけど、リサイクル可能かも判別できないような品がぞろぞろ出てきたので、難航を極めている。

「独身時代の博さんは、多趣味だったのよ。猟銃は、亡くなってすぐに警察署の生活相談課に持って行ったし、テニスのラケットやゴルフのクラブセットはリサイクルショップで換金したんだけど」

 それもこれも、お母さんが思い出話に花を咲かせて、一向に手を動かさないからである。かくいう今も、ハートを狙い撃ちされただの、芝のコートでラブが始まっただのと惚気ている。

「乗馬用の帽子とズボン、それから鞍と鞭は残ったままなのね。売却にも、譲渡にも、廃棄にも。いずれにしても困難を極めそうね」

 自転車のサドルのような形で、中に小学生が隠れられそうな大きさの鞄を出しながら、松子は溜息混じりに言った。

 まったく、その通り。専門性が高くて敬遠されそうだ。十年以上放置し続けたツケは、この埃と同じくらい堆く積もっている。

 続いて松子が二冊のアルバムを出すと、万里は急に大きな声を出した。

「あっ、そんなところにあったのね。赤いアルバムは、私と博さんの出会いから結婚までで、白いアルバムは、松子の妊娠から小学校入学までよ」

「それ以降は」

「竹美を身篭ったころからは、当時は高価で貴重だったんだけど、デジタルカメラにしたの。――ネガは出てこなかったの、松子」

「ここには無かったわ。仮にあったとしても、かれこれ二十年以上前のものだから、もう使い物にならないんじゃなくて」

「そうね。白いほうは、同じ写真を焼き増しして実家にも送ってあるはずだし。無くても良いかしらね」

 万里は、革の表紙を愛しげに撫でながら、自分に言い聞かせるように言った。

 大切な記録なのはわかるけど、感傷に浸るのは、作業が終わってからにしてほしいなぁ。

  *

 捗らなかった作業状況は、寿くんが安奈ちゃんと一緒に家に戻ってきてから一気に好転した。隠れ場所を探して二階に上がってきた安奈ちゃんは、物置を空にして廊下を段ボール箱で塞いでいる私たちから事情を聞き出すと、一言断って電話を掛けた。誰に掛けたのかと思っていたら、それから小一時間ほどして、観音院さんが目黒さんと一緒に現れたの。

 竹美と万里がリビングで寛いでいると、そこへ観音院が声を掛けた。立ち上がろうとする二人を観音院は片手で制し、事務的に述べる。

「実物を拝見してきました。ちょうどこういう品物を欲しがりそうな人間に心当たりがありますので、さきほどお話した通り、一度お預りしたいと思うのですが、よろしいでしょうか」

 万里は一瞬、竹美に視線を走らせ、無言で頷いたのを確かめてから、観音院に向かって返事をする。

「もちろんです。でも、あんな古い物を欲しがる人が居るんですか。あぁ、いえ。疑ってるわけでは無いんですけど、それほど保存状態が良い訳でも無いのに、と思いまして」

 不安の表情を浮かべる万里に対し、観音院は相好を崩して語りかける。

「たしかに、とても新品同様とは言えません。しかし、あの馬具は名のある品に間違いないと思います」

 観音院の破顔につられ、万里も思わず笑みをこぼしながら答える。

「そうですか。それでは、お願いします」

 取引、成立か。どんなに価値が無さそうな物にも、蒐集家がいるものだものね。蓼食う虫も好き好き。


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