逃走と闘争
明けましておめでとうございます
新年1発目。小話にするか悩みましたが、本編を進めることにしました
今年も宜しくお願いします
「よし、始めよう」
作戦決行日、つまり御影杏子の処刑の日。俺達は処刑台の前に居た
何で公開処刑にするんだろう。個室で殺したりすればいいのに。まぁ、今俺達には好都合だからいいけどさ
「直也と和光。準備は?」
「できてる」
「同じく」
最終確認を済ませて、俺達は広場から姿を消した
まぁ、モカが前に使っていた姿を隠す魔法だ。案外簡単に使える
「散開。持ち場に」
「「応!」」
3人別々の方向へと向かう。俺は処刑台の後ろ
和光は近くの建物の屋根。直也は退路の確保
人数が少ないので、1人1人やることが多い
まず直也は退路の確保と万が一の為、住民に結界を張る役。後は怪我の治療か
和光は御影杏子の手錠を狙撃して破壊。それに邪魔者の排除
俺は手錠を外した御影杏子の確保及び街の外への逃走。壁に穴を開けてそこから出る。それと、モカを止めることだ
3人なのでやれる事はこれぐらい、だと思う。まだ高校生だし、あんまり頭良くないからこれぐらいしか思い浮かばなかった
全て、出来るだけバレずに速やかに行う事。これを徹底していきたい
◇◆◇◆◇◆
「これより!罪人、ミカゲアンコの処刑を始める!」
ついに始まった。これを止められなければ、俺達はここに来ていないことになり、またあの無駄に思える人生を送らなければいけなくなる。それは阻止したい
タイミングを伺っていると、台の上の御影杏子がこちらを見た。気のせいでもなく、俺をしっかりと認識している
待ってろ、俺は声に出さずに口を動かした
そして、それは確かに伝わったようで、御影杏子は微笑んだ、待ってる、と口を動かして
さぁ、この世界で最初の使命、と言っとこ。何かカッコイイし!
中二病?……ち、違うし
「では、処刑人。前へ」
2人の男が剣を持って御影杏子の左右に立つ。2人で首を落とすのだ
「死ぬ前に、何か言いたいことはあるかね。ミカゲアンコ」
「そうだねぇ。ウチは、もっと生きたい」
その言葉で、俺達は行動を始めた。事前に決めていた通りに御影杏子の言葉で他の2人も動いていた
パリンッ!
「「「なっ」」」
処刑人と司会?と言えばいいのかな。そんな感じの人が驚いている。和光の遠距離狙撃で2人の剣と御影杏子の手足枷を撃ち抜いたのだ
混乱のスキに俺は体裁きと速度を生かして、人目につかないよう御影杏子を攫った
恐らく、殆どの人には突然消えたように見えただろう
それを見て直也と和光も即離脱。もしもの為に結界を張る役を作ったが、必要なかったな。緩い警備でよかった
「負担はあると思うが我慢してくれよ?」
「大丈夫だよぉ。そのまま、走ってぇ」
お言葉に甘えて、俺は壁に向かって走る。その途中には、かなりの広さを誇る丘がある。木も生えていない、本当にただの丘。そこに、恐らくいるだろう
ーーーーーだよなぁ
「思ったより、早かったな」
モカはそう言って、剣を抜いた
「通しては、くれないですよね」
「無論だ。ワタシは任務でここにいる。放棄することは認められない。……君こそ、彼女を置いて普段の生活に戻るという選択は?」
「無いです。聞いていたでしょう?俺は、まだこの世界を楽しんでいない」
「そうか。では、剣を抜くといい。ワタシの決意は力で押し通す。君の決意は、ワタシの決意に勝てるかな」
予想通り、こうなるよなぁ。残念だが、決着をつけねばならない
御影杏子には、下がっていて貰う
「少し早いですが、卒業試験を受けるとします」
「うむ。全力で来い。ワタシも全力をもって君を止めると約束しよう」
最後の難関。これを超えなければ、この先のことはやっていけない。他の最上位冒険者や、国の騎士。ましてや国なんて夢のまた夢になる。それではダメだ
「俺は今日、貴女を超える」
ふたりの姿が消えたと思った次の瞬間、2人が立っていた位置のちょうど真ん中で、剣を打ち合っていた
超高速の剣舞、周りには何もなく、聞こえてくるのは剣が空を切る音と、相手の呼吸。そこは二人だけの空間だと言えた
「どうした!顔がにやけているぞ!」
「モカこそ、笑ってますって!」
ふたりの顔には自然と笑みが浮かぶ
しかし、勢いは留まるどころかなお激しさを増していった
剣の一振りで地面を抉り、刃に触れずとも肌を傷つける。互いに少しずつ傷を増やし、それでもなお勢いが収まることは無い。己の決意の為に
背後からの突きを避け、そのまま体を捻りカウンター気味に袈裟斬りを入れる
モカはそれを剣で受けた、その時
パリッーーー
モカの剣が、欠けた
あれだけ激しい打ち合いだ。普通の剣であれば刃こぼれしてもしょうがないだろう。しかし、俺の剣は壊れない木剣。欠けることは無い
「はぁ!」
俺はモカ目掛けて剣を振る。彼女がこれぐらいで止まるわけがない
「はぁあ!」
欠けた剣を魔法で強化して受け流す。やはり止まらなかった。しかし、その一撃で剣は壊れた
「剣が壊れたら、拳がある!」
懐に潜り込み、鳩尾を狙った掌底を放たれる
「ぐっ!」
何とか左腕で受けることが出来たが、回復するまでは使い物にならないだろう。衝撃も殺しきれず、体に少し抜けている
休む間もなく、右脚の蹴りが顔面に向かってきている
俺は剣を投げて、右手で足を上に打ち上げる
そこから左脚を狙って蹴りを出すが、流石に入らない
しかし、右脚に少しダメージが入ったようで、違和感があるようだ。まぁ、決定打にはなり得ないんだけど
左腕が痛むが、そんなことを気にしている場合ではない。ダラリと下げたまま、構える
モカも調整が終わったようで、既に構えていた
会話も無く、再開
モカが真っ直ぐ、そして速く跳んだ
「っ!」
辛うじて見えていた俺は、突き出す腕を掴み、勢いを利用して地面に叩きつけた
「がはっ!」
轟音と共に地面にヒビが入る
追撃で胸を狙い拳を打ち込む
少し浮いた体が、もう一度地面へと叩きつけられた
モカは、立ち上がらなかった
俺の、勝ちだ
◇◆◇◆◇◆
〜モカ視点〜
身体中が痛む。そう、ワタシはタクミに負けたのだ
手を抜いた訳では無い。ただ単純に、強かった
……体が動かない。ははっ、最上位冒険者になってから、こんなに清々しい負けなど無かったな
ワタシは、目の前に立つ勝者に賛辞を送る
「……おめでとう。君の、勝ちだ」
「えぇ。勝ちました」
そう無邪気に笑う笑顔に胸が高鳴る。あぁ、やっぱり、ワタシはもう彼に心から惚れている。ここで立ち塞がらなかったら、彼についていってこの街を抜け出していたら、楽しかっただろうな……
この道を選んだ後悔と再確認した感情は、ワタシに涙を流させるには十分だった
頬を涙が伝う
そんな涙を、指で拭った彼は言った
「どうしたんですか?泣かないで。さぁ、一緒に行きますよ!」
一瞬、何を言っているのか分からなかった
一緒に、行く?立ち塞がったワタシと?
そう聞くと、彼は頷き、「勝ったら、モカは俺の物」と、あの日交わした約束を持ち出してきた
「モカも、俺達を手伝って!6人じゃあ、神様は止められない」
手を差し出して来る彼。その手を取れば、ワタシは幸せだろう。国を裏切り追われる身となっても、それは変わらない
でも、その資格はあるのかと悩んでしまう
……そして、ワタシは決めた
「しょうがない、な。微力ながら、力になろう。愛する君のためなら、ワタシは悪魔にも魂を売るよ」
少し恥ずかしいが、言わなきゃいけない
「その代わり、ワタシを幸せにしてくれないか?」
彼は驚いた。でも、すぐに笑った
この選択は、きっと後悔しないだろう
「全力で、幸せにするよ」
そう言った彼とワタシは、唇を重ねた
◇◆◇◆◇◆
驚いた。モカが交換条件として「幸せにしてくれないか?」と言うとは思わなかった
でも、嬉しかった。俺からだけではなく、彼女からも求められて。恥ずかしくもあるけど、それより今は嬉しい
衝動的にキ、キスまでしちゃったし!
あぁ、唇、柔らかかったなぁ
「トリップしてるとこ悪いけど、追手が来てるよぉ」
少し、頬を染めつつ拗ねたように言う御影杏子
そうだ、今は逃げなきゃならない
「モカ、立てるかい?」
「すまない、肩を貸してくれ」
俺は肩を貸す、のを止めてモカをお姫様抱っこする
「なっ!こら!肩を貸してくれれば走れる!」
「俺がしたいからしてるの!杏子さんは背中乗って!」
「はいはーい」
真っ赤になっているモカを無視して(堪能して)
御影杏子が背中に乗ったのを確認すると、背中と腕の中の柔らかさを堪能する暇もなく走った
壁はすぐそこだ
◇◆◇◆◇◆
「村氏!こっち!」
「何で抱えてんのw」
直也と和光が呼ぶ声がする
「お、あそこか」
既に穴を開けていたようで、かなりの大穴が見える
その向こうに4人と、他にも何人かいるのが見えた
「駆け抜けろ!」
言われた通りに穴の外へと駆け抜けると、4人がかりで穴を埋めていた
そんなに大穴開けなければよかったのに
しかし、俺達は逃げ切った。とりあえず一休みできそう、という訳もなくすぐさま隣国まで逃げる。追手を撒くのと、宿を取れるところを探すのだ
お尋ね者になったと思われる俺達は、これから逃亡生活を送らねばならない。頑張るぞ!……はぁ
そういえば、ここには誰がいるか確認してなかった
「秋人。ここには誰がいる?」
移動中に一人一人確認する元気は無いので、纏めて守っていた秋人に聞く
「えっと、まず俺ら5人な。モカさんと御影さん。マールちゃん。後、女子生徒が1人」
女子生徒?誰だろ
「何か、和光に気があるみたいだったぞ」
へぇ……そっかぁ(ニヤリ
ま、これから進展して欲しいね
「あぁ、それと……」
秋人が何か言う前に、俺の背中に衝撃と柔らかさを感じた
「いってぇ!な、なんだ!?」
「拓にぃい!心配……したんだよ」
抱きついてきたのは、ハクアだった
「ハ、ハクア!痛い!痛いから!」
「ぅあ…ごめん……でも、ホントに…心配した…」
泣きそうになりながら謝るハクア
「落ち込まないで。心配してくれてありがと」
ハクアの頭を撫でる。嫌がるかと思ったが、むしろ嬉しそうでよかった
「ハーレム作ってるよ村氏」
「くっそ、羨ましいなぁ」
後ろで直也と秋人がボヤいてるが、気にしない!
悔しかったら和光みたいに頑張れ
さて、先は長い。これからのことを相談もしないといけないし、その他のことも、な