一旦の収拾と一抹の不安
俺とマリーは、犯人のいる小屋へ走る
かなりのスピードで走っているが、鍛えてるだけあってマリーも俺も余裕だ
ものの数分で、目標の小屋を見つける事が出来た。犯人はまだそこを動いていないようだ
「本当にここなのかしら」
「それは信じてもらうしかないな」
小屋の中をのぞき込むと、何やら口論する男と女がいた
男はうちの学生のようだ。制服から見て1年か
典型的な不良のような見た目、でもイケメン。ムカつくわぁ
女の方はフード付きローブが、足首まで覆っていて姿は分からないが、髪は水色。目は赤と黄緑のオッドアイなのは見えた。性別は声で判断した
ちょっと盗み聞きしてみよう
マリーを手で抑え、聞き耳を立てる
「何だと!?話が違う!金を出せばボクを優勝させてくれると言ったじゃないか!」
「……確かに言った。でもそれはあの化物が居なければの話。あんなのに来られたらウチもお手上げぇ」
「そ、それでは約束はどうなる!?ボクはもう親や周りにに優勝すると言ってしまったんだぞ!」
「?…そんなもの知らないよ。金は半額返す。それがウチのルールだからねぇ。…はい」
ドサッという音がした。こんな音するくらいの金が入った袋か何かを床に落としたのだろう
「し、知らないだと!?貴様はあのギルドでは一番強いのだろう!?命をかけて依頼を遂行するのが、ギルド団員の使命ではないのか!」
な、何言ってんのこの男
「何を言ってるんでしょうあの男は…」
マリーが小声でそう伝えてくる
ホント、よく分からん
「いや、ウチは命かける気ないしぃ。何、使命って。ウケるー」
ニヤニヤと笑う女に我慢ならなかったのか、男が剣を抜いた
「何がおかしい!馬鹿にしやがって!穢れた半魔の分際で!所詮闇ギルドの一員だ。殺しても罪には問われない、貴様は殺す。今すぐな!」
馬鹿かあの男!
「マリー!」
「仕方ないですね!」
俺とマリーは小屋の中へと飛び込んだ。間一髪、殺されてはいない。男がだけど
「な、なんだ貴様らは!」
「制服、2年が2人かぁ」
男は殺されかけていることに気がつかないまま、こちらに叫んでいる。早く逃げろや
しかし、勢いで飛び込んだはいいものの、どうするか
正直、この女の戦闘能力が分からない。まぁ、会ったばかりだし
「そこの男子生徒。ここは私達が請け負います。早く学園へ戻ってください。処罰はその後です」
「う、うるさい!見られたからには貴様らも消す!おい、手伝え!」
女から目を離して、こちらに剣を向ける男。それに剣を向けた相手に手伝えとかマジで馬鹿か!?
「はぁ…?何言ってんのこのボンボン…ウチがそっちにつくわけないでしょ?」
女は男めがけて腕を振るう
袖のところに何か隠しているようだ
「っ、ぶねぇ!」
間一髪。未来を見た俺は体を挟ませて、木剣で受け止めた
「な、に?」
男は反応できていなかったので、かなり驚いて、動けないでいた
「邪魔!どっかいってろ!」
俺がそう叫ぶと、マリーが男を小屋の外へ蹴り出した
「こちらは任せなさい」
仕方ないが、頼むことにしよう。ふたりで行動は悪いが守れそうにない
「……ウチの暗器を止めた。凄いねぇ」
「そりゃどーも!」
相手の武器が遠距離武器としか分からない状態で、距離を取っていられるほど俺に余裕はない
「はぁっ!」
まずは暗器がある腕を狙う。分かっているのがそこだけだから、武器を潰していく
「はやっ……!」
女は反応が遅れたようで、避けるのではなく、腕で防御した。よし、手応えあった!
暗器1つ、潰した。でも、まだあるだろう
「っ!……痛い。壊れた。うぅー、今日は厄日だぁ」
「なぁ、投降する気は無いんだよな?」
「そだねぇ。今のところないかなぁ」
そう言うと、どこからともなく出てきたナイフを握った。手品かよって、刃先に毒塗ってある!?
真っ直ぐ突っ込んでくる。それだけに早い
「っぶなぁ!」
ナイフを木剣でずらして避ける。掠りでもしたら危険そうだ
「対応が早い…。ホントに学生?」
「おじさんこれでも学生だぞ!」
素早い動きでこちらを翻弄してくる女の足元を切りつけるが、避けられた
死角からのナイフはかなり怖いが、対応はできるので、ここは体力の限界が来るまで粘ることにしよう
数分間の間にナイフを5本潰した。それに徐々にだが女のスピードが落ちてきた。流石に体力が無尽蔵って事は無いからな
避けるだけの方が疲れない。未来視あるしね
「おかしい、木剣が壊れないのもだけど、全部いなされるのはおかしいぃ……」
息を切らせて、そう言う女。うーん。これは仕方ないんじゃないかな
「殆ど、視えてるからね」
「……はぁ、もう疲れたぁ。残念ながらウチの冒険はこれで終わってしまいましたぁ。来世に期待」
えっ、何それ…?
「ど、どういうこと?」
「降参!降参だぁ!このまま頑張ってもこっちがバテるだけぇ。負けるなら、潔く。これが闇ギルドの掟なんだよぉ」
そ、そうなんだ。何はともあれ。終わってよかった
しかし、この娘強かったなぁ
「君、名前は?」
「おお、そういえば言ってなかったねぇ。ウチは御影杏子。いわゆる、旅行者だねぇ」
何、だと!?
「旅行者?マジで?」
「うん?そんな驚くことでもないでしょ。この世界の人なら旅行者は知ってるし、旅行者の中にも悪人はいることも知って……あ、君も旅行者?」
驚いた。まさか俺達以外の旅行者がこの時代にいるとは
「あ、あぁ。俺は小村拓海。旅行者だ」
御影杏子は、「へぇ、奇遇だねぇ」と笑った
「しかし、何で旅行者が闇ギルドに?」
「んー、気分、かなぁ」
き、気分?
「ねぇ、君はこの街の事、どう思う?」
この街?どうしてそんなことを聞くのだろう
「そうだな。いい街だとは思うよ。まだ学園と商業地区しか行ったことないけど」
俺が行ったところはいい人が多かった
「うん、ウチもそう思う。じゃあ、この国の貴族はどうかな?さっきの生徒で考えてくれていいよ。ウチが見てきたのは、あんなのばっかりだから」
そ、それを言われると…なぁ……
「あれは、ダメだ。周りが見えてない、と言えばいいのかな。自己中心的で、自分の思い通りにならなければ駄々をこねる」
「そう」と御影杏子は呟いた
「それは、この国の貴族すべてに言えることではないけれど、代を重ねるごとにその傾向が増えてきた。今は9割までそんな思想が増えた。この街は、近いうちに消えるだろう。既に他の街や国から狙われている。人と土地を目的にね」
とんでもないことを聞いた。これが真実だとしたら……いや、真実なのだ……すぐにこの街を離れた方がいい
「恐らく、後1年で進行してくるだろうねぇ。逃げようとしてももう遅いよ。この街は、既に閉ざした。外への門をね」
そうか、だからこの娘はここで留まっていたのか
「……ここにいる人たちはどうなる」
「分からないなぁ。徴兵、重税、処刑。色々考えられるねぇ」
そうか……
「君には、守りたい人はいるかい?……ウチにはいないみたい。だったら、この街を墓場にしよう。そう考えて、闇ギルドに入ったんだけど、ウチ、割と強いし?誰か殺してくれるのを待っていたんだ。とかいってギルマスから逃げ出して、今こうして生きている。よく、分からないよねぇ」
俺は、この娘は本当は死にたくないんじゃないかと感じた。多分、それが自覚できていないのだろう
「君は……」
「タクミ!大丈夫!?」
死にたくないんじゃないか、と聞こうとしたらマリーが駆け込んできた
どうやら外で寝ているのが、あの男らしい
その後ろからモカが歩いてきているのが見えた
これは、話をするのは今度になるかな
「何やら、話をしていたようだが……何かあったのか?」
モカが心配そうにこちらをのぞき込んでくる
「いえ、何でもないです。この娘はどうなるんですか?」
「ん?……事情聴取の後処刑、だろうな。いくらか猶予はあるだろうが、死は免れないだろう」
「そうですか」
俺は、このやるせない気持ちを持て余していた
この先、俺や俺の大切な人、それに同じ旅行者の皆はどうなるのだろう。不安を残して、この事件は一旦、収まることとなった
一旦というのは、後に分かる
この後、1話あげる予定ですが、あげられてなかったら、後はわかるな?
……良いお年を!(*゜▽゜)ノ