二匹の魚
岩と砂だらけの風景が広がっている。黒い岩、白い岩、灰の大地。微かに枯れ木などが茶色などの色をしているもののこの場所はほとんどのものが黒、白、灰の三食で構成されていた。
その殺風景な大地では謎の黒い者達が蠢いている。ソレらは互いを攻撃し合い、殺し合っていた。歯で相手の肉を喰らい、拳や足で相手を殴りつけ、武器があればそれで相手を攻撃し合っていた。そこには感情もなく、ただただ殺戮のみがあった。
そんな世界を黒い丘から見下ろす者の姿があった。
ソレは、蠢くソレを見下ろしていた。決意のこもった眼で。
「ねぇコイナ?私たちってさ、どうしてこの世に生まれたんだろうね?」
黒髪の一人の少女がもう一人のこげ茶色の髪の少女コイナに問う。
「え?どうしたの突然、変なこと聞くね。」
「いやいや大事な質問だって。私ね、時々思うんだ。世界にはさ、私たちよりももっともっと貧乏で周りも誰も助けてくれなくてそのまま死んじゃう人たちもいるよね。とくに子供でさ。私たちは協力しながらなんとか生きていけてるし助けてくれる人もいる。でも彼らは違う。…彼らが生まれてきたことは…彼らの「生」には何か意味があったのかなって。それと一緒に私自身の生にも考えさせられる…私は何のために生まれてきたのかなって。」
「…」
コイナはうつむく。黒髪の少女は続ける。
「親が生みたいと思ったから?それとも親の欲望の副産物?それとも…」
「私たちが…私たちがただ「生きたい」と思ったからじゃないかな?」
黒髪の少女の言葉を遮り、コイナがうつむいたまま口を開ける。
「私たちは、親がいなければ生まれることはできない…それに親がいなければ育つことすらできなかった。でも…それよりも重要なのは私たち自身が「生きよう」と思うことなんだよきっと。」
「…そっか…。ごめんね、変なこと聞いちゃって。」
「ううん…。」
「頑張っていこうね、これからも。」
「うん。セイナ」
二人の少女は固くしなやかで何者にも断ち切られることのない強い絆で結ばれていた。
一人の名は黒彗星奈 そしてもう一人の名は薪野古井名
深い井戸の底で泳ぐ哀れな、だが逞しく生きる二匹の魚。 禁断の魚。
今から50年前、世界では3度目、4度目の大戦争が立て続けに起こった。3度目の戦争の始まりは国家間の意見や主張、力の衝突だった。やはりというか3度目に関しては今まで起きた第一、第二の世界大戦とあまり変わらなかった。唯一変わっていたのは戦争の引き金となった国が植民地も持たない小さな国であったこと。その国は戦争が起こる以前から世界とのつながりを拒絶し、孤立していた。第一第二の戦争でようやく少しは知恵を付けた世界各国はその国を責め立てるようなことはしなかった。戦ったところで得られる利益がない。宗教も絡まないから自分たちの神のためにもならない。だが戦争は起こった。「なぜか。」
「その国がビビりだったから、だろ?」
小さな書斎のような部屋に一組の男女がいた。
「ざっくり言いすぎだし他にも原因はあるがまぁ正解だ。その国は幻に怯えていたんだ。「周りの国は自分の国を乗っ取ろうと虎視眈々と狙っている。」という幻にな。だから幻に対抗するため飢える国民を差し置いて戦争をふっかけたんだ。そしてそれが3度目の大戦の引き金となった。」
眼鏡をかけた女のほうがコーヒーを一口飲みながら語る。
「今日の戦争ってもんはほぼ一対一にはならない。ふっかけられた国はもちろん利害関係にある国やその他の軍事力のある国が介入を行い、結果戦争は泥沼化し長引く。3度目に関しては実に典型的な戦争だった。だが…問題は4度目。4度目の戦争は今までの歴史にはない戦いが起こった。」
「『黒影の出現』だろ?」
「そうだ。今までにない敵として…『黒影』が現れ始めた。…お前もコーヒー飲むか?」
「ああ。」
女はもう一つのカップを手に取ってコーヒーを注ぐ。
「奴らの出現…今から20年前だったか。どこからともなくやつらは現れた。」
「主張も前兆も宣戦布告もなにもなく、突如現れ突如人々を攻撃し始めた。当然ながら原因や理由もいまだ不明だ。…ほれ、私特製だ。感謝しろよ。」
「はっは…そりゃ美味そうだな…奴らはとことん無差別だ。人種国籍宗教主張性別年齢見た目健康状態性格その他諸々一切関係なく人を襲い始めた。いや人だけじゃねぇな。犬猫も攻撃対象にしていた。他にも養豚場や養鶏場、牧場や水族館動物園も襲撃を受けたという報告も多数ある。おまけに前俺が狩りにでたときすげえもん見ちまったぞ。古い木に巣食ったシロアリを一匹一匹丁寧につぶしてやがった。ここまでやるかと思ったよ。」
「徹底的だな…。わかったことは、連中は『動物を殺戮の対象としている』ということぐらいか…。」
その時だった。
「ビーッ!ビーッ!敵出現報告アリ!敵出現報告アリ!コレハ訓練ニ非ズ!」
けたたましい音を立てて警報が鳴る。
「…この訓練に非ずって音声いるか?」
「いらないな。もう何回聞いたかもわからん。用務班に差し替えさせておこう。」
「はぁ~あ、せっかく久しぶりにコーヒー飲んでゆっくりできたと思ったらこれかよ…。行ってくるわ仕方ない。館長、コーヒーごちそうさん。美味かったよ。」
「あいよ、気を付けて行ってこい。また用意しとくよ。」
コーヒーを飲んでいた金髪の男は歩き去っていった。
黒影…それは第3次の戦いが終わり、ようやく平穏を取り戻しつつあった世界を襲った災厄。今から20年前に突如出現した謎の存在達。見た目は個体によって異なるが黒い不定形な人の姿をしている。有効な攻撃としては人が使う通常兵器や拳銃や剣などの武器でも十分有効だが、とどめを刺さねばすぐに体を再生させてしまうという。圧倒的な数で押し寄せ人や生物を殴るなどといった攻撃で殺戮していくことが多いが中には生物を食う姿も見られたという。
人気のない廃ビルだらけの街中。路上に止められた放棄車両や点滅する信号機、開いたり閉まったりを繰り返すコンビニの自動ドア。 かつてはここに人が多くいたことを感じさせる生活感の名残がそこにはある。だが、そこで生活しているのは今や人ではない。
ピンポーン
コンビニのドアがまた勝手に開く。ドアを通り抜けてきたのは人ではない。『半透明の何か』だ。
「アアアァアアァァ…」
あくびをするようにソレは大きな声を上げる。日影に入ったソレは体が半透明ではなくなっていく。そして現れたのは「黒影」だ。彼らは日向や強い光の中では体がほぼ透明に近い半透明になる。
「おおぉおおぉお…」
コンビニに入った黒影はレジに侵入。ものをドタバタ倒しながらレジを物色する。そして…。
「うぉんむっぐむっぐ…」
ぐっちゃ…ぐっちゃぐちゃと口を開けてご飯をかんだ時のような音を立てながらもう出汁が蒸発しきってカラカラになったおでんの具をわしづかみにして口に突っ込む。
「むぉんぐっぐっぐ…うぉあぁ…めぇえぇ…」
美味しそうに食べるものである。出汁がなくなった影響で過熱しからっからに干からび焦げた大根だろうと彼らには関係ないようだ。満足そうに大根を咀嚼する黒影。
そんな彼を見つめる者が二人。
「へぇ~…あいつらおでんなんて食べるんだ。カマキリみたいに生き餌しか食わないわけじゃないんだね。」
「いや偶然あいつがグルメだっただけかもしれないよ。他の奴らは見向きもしてない。」
コイナとセイナだ。コイナはどこで入手したのか防弾チョッキなどを着込み、拳銃やライフルなどで武装している。対するセイナは軽装だが日本刀を腰に下げている。
「でも前私たちがカジザに作った畑のキャベツが荒らされてたじゃん?あの犯人あいつ等だったよ?見ちゃったし。」
「ええ!?あいつらが犯人だったの?苦労して作った畑を…ムカつくなぁ…狩る?」
「ヨシノマとかヒガシアツにも畑あるから大丈夫だよ。あっちは対策したし。それにあいつらすぐ群れるから下手に動いちゃだめだよ。…静かに!」
「ぐっぐっぐ…おぅ?うぉお…」
次に手を伸ばしたのは煙草だ。『喫煙は動脈を詰まらせ、心臓病と脳卒中の原因となる。』と書かれた注意書きも彼らには関係ないようだ。そもそも彼らに血管や臓器などあるのだろうか。
「ぅむぅん…ぐっぐっぐ…」
黒影は口に煙草の箱を突っ込んだ。
「うっわぁ~煙草食いやがった。全くなんであんなくさいもん口の中突っ込めるんだろうね。」
「さぁ?喫煙者じゃないからわかんないよ。なんで煙草なんて高いもん吸ってるのかわかんなかったし。おっ?なんか動き止まった?」
煙草を箱ごと食べた黒影が震えだす。そして…。
「ぅむぉぉおおおん!?ぐぉおおうぼえぐえおおおお!!!」
「うわ汚ったな!?言わんこっちゃない…。」
「っぶっ…クククク…笑える…。」
重度喫煙者でも煙草を箱ごと食べる人はいないだろう。黒影に味覚があるのかはわからないがそのあまりの不味さに彼は嘔吐し、せっかく食べたおでんの具も吐き出してしまう。
「うぉおおおおおおん!むぉおああああああああああああああ!」
絶叫しながら大暴れしレジを破壊していく。破壊されたレジからは紙幣や貨幣が飛び出す。
グチャボタダタタタタタ「ムオオオ…」「ウワアアァ…」
その絶叫を聞きつけたのか水を含んだ泥が地面に落ちるような音を立て、別の黒影たちが現れた。
「…!!警戒してコイナ!ここにいたらまずいかも。移動するよ!見つかっちゃうけど仕方ない!」
「オーケー…!『無駄な戦闘は避け逃げるが勝ち』『攻撃する場合は基本一方的に』『攻撃の際は質より数』!わかってるねセイナ!?」
「もちろん!せっかく苦労して物資集めたんだからここで死んだら元も子もない!行くよっ!」
セイナとコイナは隠れていたコンビニ正面の廃ビルから飛び出し走り出す。
「ぬぉっ!?」「むおお!」「ヴォオオオオオオオオオオ!!!!!」
二人に気が付いた黒影たちはすぐに二人を追いかけ始める。
「コイナ!重そうな武装つけてるけど!きつくない!?重いなら持つよ!?…ハァッ」
「大丈夫…!そっちこそこけたりしないでよ!」
二人は走る。『凄まじい速さ』で。黒影に追いかけられ命からがら逃げる人でもここまで早くは走れないだろう。彼女らがこの速さを出せるのは単に体が鍛えられているからだけではない。それは彼女らが『確信』を持ち、なおかつ『考えて』走っているから。どうすればこのがれきだらけの地面で最高速で長く走れるか考え、導き出された答えに確信を持って走っているからだ。これは訓練と経験を詰めば常人でも可能なことだ。彼女らはいたってただの常人と変わらない。とある点を除いては。
確信を持って動く。故にその動きに無駄はなく、常にトップスピードで走り抜けられる。
とはいえ、黒影もせっかく見つけた獲物を見逃す気はないらしく、結構な速さで追いかけてくる。
「うぉ?むおお?」
先頭を走るセイナの前に偶然居合わせたのか別の黒影が眠そうな声を上げて現れる。
「…ふっ!!!!!」
「ぐああふぁああああああ!」
居合いのように刀を抜いたセイナが黒影の左腕を切り飛ばし斬り抜ける。切られた黒影はバランスを失いセイナとコイナの間にふらつきながら入り込む。セイナの顔に血が飛ぶがそれはすぐに蒸発するように消えていく。
「うりゃっ!」
コイナは前に出た黒影の股の下をスライディングで滑り抜けながら両足をナイフで切り裂いた。
「うあがぎゃああ」「ヴォオオオオオ!?」「ぐあああっがああぎぎゃ!」
足を切り裂かれ倒れこんだ黒影に二人を追ってきた黒影たちが次々と躓き転んでいく。
「よし!うまくいった!このままニシアツの拠点まで走ろう!」
「オーケー!スタミナ大丈夫!?どっかで車探す!?」
「もう少し行くと中古車屋があったと思う!あそこの車を使おう!」
二人は走る。この荒廃した世界で数奇な運命の元に生まれ繋がった二人のきずなは固く強い。
二人が走る道の端にある駐車場のビルに人の集団があった。全員が武装している。兵隊のようだ。
「黒影を確認。数は…5体です。…とこれは。中尉!錦小中尉!」
「どうした?」
外の様子をうかがっていた兵士の一人の声に少し離れたところに座っていた男が反応する。
「人影です!人数2!黒影から逃げています。」
「兵を回せ、民間人を救助する。」
「いえそれが、黒影をうまく切り抜けてます。逃げ遅れた民間人の動きとは思えません。それに…武装しています!一人は日本刀、もう一人はARを装備!」
「…手配犯の可能性は?映像や静止画は録ってるな?金田!端末で手配犯のリストを出し照合しろ!手配犯の場合は可能なら追跡し拘束する!」
「はっ!」
外をうかがっていた兵士のゴーグルに金田と呼ばれた兵士がケーブルを接続し録画した映像から彼女らを照合する。
数分後
「いえ…彼女らのデータはありません。手配犯ではないようです。しかしどこであんな武装を調達したのか…?」
「おおかた黒影との戦いで倒れた兵士から装備をはぎ取ったんだろ。生き延びるためだ。…てか金田お前『彼女ら』っていったな?つまり女だなその二人組は。」
「はっ…ですがそれ以外の情報はあれだけの映像では読み取れませんでした。ただ映像から見て一人が持っているライフルは日本の自衛隊の89式小銃のようです。」
「89式か…。うちの兵でも持ってる奴はいるが…まぁ黒影との戦闘で敗れた自衛隊員のものだろうな。なんにせよあの二人には会わねばならんらしい。追跡は行っているか?」
「はっ、偵察ドローンを飛ばして追跡しています。」
「ドローンか、上出来だ。俺は館長に連絡をする。彼女らがどこかで止まったら5分後に撤収する。撤収フォーメーションはBだ。影どもに気づかれるなよ!撤収準備!」
「了解!」
錦子の合図にしたがい即座に兵士たちは撤収準備を始める。錦子は無線機を取り出し長距離無線を掛ける。
「館長、錦子だ。人影を二人見つけた。だが動きから見て民間人ではない。武装もしている上にかなり腕がたちそうな連中だ。偵察型ドローンにて追跡中。これから連中の動きが止まり次第現拠点から撤収、連中に接触を図る。どうぞ」
「了解した。敵拠点が判明し次第座標を第二情報室へ送れ。標的の特徴は?どうぞ」
「見た目は若い女性二人、一人は黒髪、もう一人はおそらくこげ茶。黒髪は日本刀、こげ茶はライフルなどで武装している。先ほど黒影の群れをそれで攻撃していた。どうぞ」
「了解。くれぐれも気を付けてな。以上」
ブツツ…という通信が切れる。
「さてと、おとなしく接触に応じてくれればいいがな。」
錦子は追跡と座標照合を行っている兵士の元へと歩いて行った。
初めまして。暗夜コロンです。このたびは私の小説を読んでくださりありがとうございます。ゆっくりとではありますが更新していこうと思っておりますのでよろしくお願いします。




