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  第4話  『 刺客登場 』



 ……深夜。自室のベッドの上で俺は黒衣をまとった黒髪美少女と縺れ合っていた。


 少女は綺麗な黒髪を高めに結い上げ、忍者装束を見にまとい、顔は可愛かった……そして、俺に馬乗りになってクナイで刺殺しようとしていた。

 一方俺はそんなクナイを握る少女の手を掴んでいた。


 「……えっと」


 少女は困った顔をして……


 「人違いでした、ごめんなさい」


 ……そして、謝った。

 ……何故こうなっているのか? それは回想で説明しよう。



 ……その夜、俺は小日向(こひなた)さんと仲直りをするべく小日向さんの部屋に訪れたのであった。


 「……むっ、いないな」


 ノックをしても反応がなかった。反応があっても割りと追い返されるけど……。


 「うーん、おかしいな。いつもこの時間帯にはいるんだけどなー」


 俺はうーんと唸って、何かあったのだろうかと思案に更けた。


 「まさか!」


 ……嫌な予感がした。


 「例えば……」


 1.強盗に襲われて、助けを呼んだら殺すと脅されている。


 ……あり得る。


 2.俺と話すのが嫌で居留守。


 ……それは無い。


 3.着替え中に過労で気を失っている(半裸)。


 ……イケる!


 4.俺と同じ空気を吸うのが嫌で居留守。


 ……光の速さでそれは無い!


 5.はうぅ! ほんとはしのぶさんと仲良くお話したいけど恥ずかしくてできないよぅ! わたしのバカバカァ!


 ………………………………。


 「そ・れ・だ!」


 俺は前髪を整え、意味の無いストレッチをして冷たいドアノブを握り、回した。


 ――バキンッッッ!


 ……あっ、勢いよく回しすぎて壊しちゃった……まあ、いいか。

 俺はゆっくりと扉を開き、部屋を一望した。


 ……誰もいなかった。


 「えっ、えぇー」


 俺は落胆した、小日向さんとイチャコラできなかった上にドアノブを壊してしまったからだ……ああ、後で修理代を取られ電気アンマをされてしまう、トホホ。


 俺マゾ『それ、ご褒美じゃね?』


 ……うっせェ、引っ込んでろ。


 「謝るか」


 隠すともっと怒られる為、俺は素直に謝ろうと小日向さんを捜すことにした……ちなみに隠すと足つぼマッサージ台に正座させられる。


 俺マゾ『かーくせ! かーくせ! かーくせ! かーくせ! かーくせ!』


 ……だから出てくんなって。


 俺マゾ『かーくせ! かーくせ! かーくせ! かーくせ! かーくせ! かーくせ! かーくせ! かーくせ!』


 ……やめてくれ(切実)。


 俺マゾ『……』


 やっと黙ってくれたか(俺マゾ)。アイツに罵倒は逆効果だから対処が難しいんだよなぁ。


 俺悪魔『オイオイ、この腑抜け。まさか、女子の部屋に来たのに何もしない気かよ』


 ……出たな、俺悪魔。悪いが俺は二の轍は踏まない男、お前の誘惑は無意味だ。


 俺悪魔『……そうか、ならこっちにも考えがあるぜ』


 ……おい、お前何をする気――ぐっ、体が動かない! まさかお前ェ!


 俺悪魔『ハッハッハッ、お前の想像通り、オレがお前の体の主導権を奪ってやったのさ!』


 ……そんなことができるわけ……ぐっ、意識かァ!

 俺悪魔『残念だったな、オレはこの瞬間を狙って力を蓄えていたんだよ!』


 ……嘘だろ……やめろ、来るんじゃねェ……やめろ……やめろォ……………………。


 「ご馳走さまでしたァ」


 ……俺悪魔が凶悪な笑みを浮かべた。

 ちくしょう、まさか体の主導権を奪われるとは予想外だ……ってオイ! やめろ! 小日向さんの部屋に入るんじゃねェ!


 「悪いなァ、相棒。オレはてめェと違って正直者なんでなァ」


 俺悪魔はあっさりと小日向さんの部屋に入り、そしてベッドに寝転がった。


 「良いじゃん、良いじゃん、この匂い、最高じゃん」


 やめろォ! これ以上俺に醜態を晒させないでくれェ!


 「さてと、次は……」


 俺悪魔は洋服タンスの方を見やって……笑った。


 やめろォォォォォォォ!


 俺の叫びも虚しく、俺悪魔はあっさりと洋服タンスまで歩み寄った。


 「探すのメンドくせーな……オイ、俺孫。女子の下着はどの辺だ」


 俺孫『下着類はタンスの下から二段目に多い、てばっちゃが言っていたよ』


 「ご・く・ろ・う・さ・ん」


 俺悪魔は勢いよく洋服タンスの二段目を開けた。

 ……そこにはいくつものセクシーランジェリーが整然と収納されていた。


 「へっへっへっ、いただくぜ」


 俺悪魔が小日向さんのブラジャーに手を掛けた瞬間――体が硬直した。


 「……何のつもりだァ」


 俺悪魔が眉間に皺を寄せて怒鳴った。


 「俺読者ァ!」


 俺読者『さっさとストーリー進めろよ、俺悪魔』


 「……てめェら、いつの間にか手を組んだのか」


 ……そうだ、お前が油断している隙に俺は俺読者と交渉したんだ。


 「……クソがァ」


 ……確かに俺一人じゃ、力を溜め込んでいたお前には勝てない。だがな、これだけは覚えとけよ。


 「お前は一人いる限り、そこがてめェの限界だ。本当の信頼がどんなもんかわかるまで俺の腹の中で眠っとけよ、相棒」

 俺悪魔『……後悔、すんなよ』


 ……そして、俺悪魔は静かに眠りについた。


 「俺を誰だと思っている、御影しのぶだ……後悔なら当の昔に乗り越えたさ」


 俺は爽やかな気持ちで笑った。



 「何がおかしいんですか、しのぶさん?」



 ……魔・王・降・臨!


 俺が振り向くとそこには鬼の形相をした小日向さんがいた。


 「……その手に持っているのは何ですか?」

 「こっ、こっこっこっ小日向さんのブラジャーです」

 「……何か弁解はありますか?」

 「……いっ、いや! これは俺の中の悪魔が俺の体を支配してやったことであって、けっして俺自身が望んでやったことじゃないんです!」


 ……ニコッ。あっ、小日向さんが笑った。


 ――ドカッ! バキィッ! ドゴォォォォン!


 ……俺、撃沈。


 「もう、ぜーーーたいに許してあげませんからねーーー!」


 俺はボロ雑巾のような姿で地にひれ伏し、遠くなる小日向さんの背中を見送った。


 ……………………。

 …………。

 ……。


 「……まあ、こんな感じかな回想」

 「全然今の状況と関係ない回想だろ、今のは!」


 ……まあまあ。

 ちなみに俺と黒髪美少女は座布団に正座しながら茶を飲んでいた。


 「ちなみに、そのときのブラはここにあるぞ」


 俺は懐から薄ピンク色のブラジャーをぴろんと出した。


 「持ってきちゃったのか!」

 「ああ、命からがらでな」

 「命の使いどころ間違っているだろ!」

 「まあ、村中の幼女や婆さんの下着ドロをしていたからな、すげェだろ」

 「自慢するな! そして、守備範囲の方が〝すげェ〟だろ!」

 「……っ!」

 「意外そうな顔するな!」


 ……うんうん、いい感じに場が暖まってきたな。


 「わかったよ、ちゃんと回想するよ」


 1.俺、熟睡。

 2.黒髪美少女襲撃。

 3.俺のセックス・センスが殺気を感知する。

 4.俺、神回避。

 5.今に至る。


 「……ふう、これでいいだろ」

 「それは回想じゃなくてまとめだ!」


 ……黒髪美少女ご立腹。


 「おい、てかお前は何で俺を殺そうとしたんだよ、つか人違いでしたって何だよ」

 「えっ、今更? まあ、いい。わたしの名前は〝(ゆう)(がらす)〟、闇隠れの里出身の中忍だ。ちなみに今日は雛崎(ひなさき)ほたるを暗殺する為に潜入したんだ」

 「……めっちゃペラペラ喋っているけどそれ話していいのか?」

 「……」

 「……」

 ……バッ、と〝夕鴉〟がクナイを取り出した。


 「わたしが死んでお前を殺す!」

 「待て! お前が死んだら俺は殺せないぞ!」

 「……あっ、すまない」


 ……ふぅ、やっと落ち着いたか。


 「お前を殺してわたしも死ぬ!」

 「させるかーーー!」


 ……そして、俺と〝夕鴉〟の殺し合いが始まった。



 第5話 『 来る! 転校生!――……ってオイオイ、真面目な話になったからって勝手に話進めんな。まだ、何も解決してないぞ。つか、ネタバレすんな!


 ――飛来するクナイと手裏剣がぶつかり、飛散した。


 「おい、集中しろ……死にたいのか」


 ……死にたくないから、殺さないでください。


 「違う、これはツッコミ病と言って――」

 「黙れ」


 ――〝夕鴉〟が弁解する俺の目の前にい……たと思った消えていた!


 「……速っ」


 まさに超高速、村一番の腕を持つ俺ですら目が追い付かなかった。


 ――ゾクッ、背後から殺意を感じた。


 「お前は剰りに遅すぎる」


 ――バキッッッ! 強烈な回し蹴りが横腹に炸裂した。


 「……っう!」


 ……激痛が走る、あと少し口を切った。

 俺は紙屑のように宙を舞う……考えろ! 奴を止める手段を……!


 「考える隙は与えん!」


 ……〝夕鴉〟が未だに宙に浮いている俺の真上にいた。


 (……回避――いや、間に合わない!)


 ――強烈な正拳突きが炸裂した。


 「ゴガッッッ!」


 俺は床に叩き付けられ、部屋全体が軋んだ。

 ……速い、俺よりも更に速い。

 ……白兵戦闘の技術も高い。

 ……何より、可愛い。正直、可愛い女の子を殴るのには抵抗があった。

 とはいえ、コイツはお嬢の身の上を狙う刺客だ。ここは簡単には負けられねェ……!


 「本気を出せ、手を抜いているのがバレバレだ」

 「……」

 「もう喋る気力も無いか」


 挑発されても一言も喋らないで俺に、〝夕鴉〟は落胆の溜め息を吐いた。


 ――〝夕鴉〟が俺の目の前にいた。


 「ならば死ね」


 ……これは既に超高速の域を超えている! そうこれはまさに――……。


 ――〝夕鴉〟が消えた。


 ……神速だ!


 暗闇に加え、この速度。〝夕鴉〟の姿を捉えることは不可能であった。

 しかし、突破口が無いわけではない。

 ――〝夕鴉〟の投げた手裏剣二つ、暗闇に紛れながら飛来してきた。

 俺は間一髪で回避して、部屋の角へと移動した。

 ……そう、たとえ四方八方から攻撃できようとも、背中を壁にすれば自ずと攻撃範囲を絞ることができる。

 そして、俺は一つ細工をしていた。

 ……よしっ、唾液が溜まった。

 ここに水筒があればよかったが残念ながらそれは持ち合わせていなかった。なので俺は代わりに唾液を溜めていたのだ

 俺は口の中にある血液と唾液の入り雑じった液体に気を練り込んだ。そして……。


   水   遁    、   水   針   時   雨   の   術   !


 ……気を練り込み針状にした液体を部屋一面に四散させた。


 「……っ!」

 「……目に見えないし、どこにいるのかわからない。なら全方位攻撃すればいいだけだ」


 そして、俺は部屋の角にいた。これならば攻撃範囲を絞ることができる。

 ――ドドドドドッ、部屋のあちこちに水針が刺さった。

 ……さて、本番はここからだ。水針時雨の術は範囲こそ広大であっても、威力は裁縫針レベルだ、これじゃ決定打にはならない。


 ――〝夕鴉〟がベッドの影から飛び出した。


 ……どうやら、ベッドの影に隠れて水針をかわしたらしく、当人は至って涼しい顔をしていた。


 「これで終わりか?」

 「……化け物め」


 ――〝夕鴉〟の姿が消えた! ……その瞬間!


 (……てっ、天井?)


 ……顎を蹴り上げられた俺は宙を浮いていた。そして、間髪容れずに――


 「留目だ」


 ――〝夕鴉〟が俺の頭上で拳を振りかざしていた。


 ……待っていた。

俺は手元を見ずに一番手慣れた印を結んだ。

 ……お前が空中にいるその瞬間をなァ!


    影    分    身    の    術    !


 ……俺の影分身が〝夕鴉〟の頭上に召喚された。


 「……なァ!」


 〝夕鴉〟が驚愕を面にした……それも当然だ、影分身の術は本人のDNAを含まれた物体からしかつくりだすことができない。だが、含まれていたんだよ……。


 ……俺の血液が混じった水針にな!


 俺は口の中を切ったときの血液と唾液を混ぜた液体で水針時雨の術で部屋一面に俺のDNAをばら蒔いたんだ。

 そして、回避ができない空中にいるタイミングを狙って、天井から影分身をつくり捕獲、これが俺の作戦だ。

 俺の影分身が〝夕鴉〟を間接技で捕縛して、地面に着地した。


 「……っう!」


 落下の衝撃で〝夕鴉〟が唸った。


 「離せ、離せ、離せェ」


 〝夕鴉〟が必死にもがくも、影分身とはいえ男と女だ。体格さが脱出を許さなかった。


 「諦めろ、〝夕鴉〟。女のお前にはほどけねェよ」

 「……くっ!」


 〝夕鴉〟が悔しげに俺を睨み付けた。


 「……殺せ、お前にはその権利がある」

 「殺さねェよ」

 「……なァ!」


 即答する俺に〝夕鴉〟が困惑した……いや、忍としてのプライドを貶され怒っているのかもしれない。

 ……だが、苛ついてんのはお前だけじゃないんだぞ。


 「お前、手ェ抜いただろ」

 「……っ!」


 最初の決めた回し蹴り、その後決めた正拳突き、最後の上段蹴り……どれか一つでもクナイを使えば俺は――死んでいた。


 「お前が本気で殺しに掛かったら俺は三回……いや四回死んでいた」


 そもそも、最初の不意打ち自体がおかしかった。たとえ俺が一流の忍であったとしても、同じく一流の忍に本気で気配を消されて襲撃されれば回避の余地はなかった。しかし、俺は〝夕鴉〟の不意打ちを察知することができた。それはつまり……。


 「お前、本当は人殺しなんてしたくないんだろ」


 ……きっと〝夕鴉〟は心の何処かで俺がかわしてくれることを望んでいたんだ。だから、隠密に特化した闇隠れの里出身にかかわらず、無意識の内に気配を残したんだ。


 「……お前に何がわかる、わたしは忍なんだ、任務をこなさないと……わたしの存在意義は無いんだぞっ」


 「なら、手ェ抜いてんじゃねェぞ!」


 ……俺は内に募った怒りをぶちまけた。


 「腸煮えくり返っているのはお前だけじゃねェんだぞ! 手を抜かれて勝って、それで殺して勝ち誇るのか! 俺の器はそんなに小さくねェんだよ!」


 俺は〝夕鴉〟の胸ぐらを掴んで、怒鳴り付けた。


  「結局、お前は中途半端なんだよ! 人殺しにもなれず! 人にもなれず! お前はどうしたいんだよ、木偶の坊!」

  「じゃあ、どうしろと言うんだ! わたしは忍なんだぞ! だけど、人を殺したくないんだ! 忍なのに任務をこなせないなんて馬鹿げているだろ!」

「じゃあ、人を殺さない忍になれよ!」

 「人を殺す殺さないで無くなるような存在意義なんて最初からいらねェんだよ! 嫌々貫いている信念になんの価値もねェ! そんな糞みてェな信念で忍やってんなら、さっさとやめちまえよ!」

 「……わたしはずっと忍だったんだぞ、それこそ生まれたときからだ。それを捨てろと言うのか」

 「じゃあ、殺せよ! 堂々と殺せよ! 相手が寝てようが、女だろうが、子供だろうが関係ねェ! 容赦なく殺せよ!」

 「……」

 「……もういいよ、お前が忍を貫くって言うならな」


 ……俺はクナイを握った。


 「俺がお前を殺してやるよ」


 「……っ!」

 「悪いな、お嬢を守るのが俺の仕事だ。だから刺客であるお前を殺さなくちゃいけねェんだ、後悔すんなよ」


 俺はクナイを強く握り、勢いよく降り下ろした。


 ――っぅー……。


 「……何泣いてんだよ」


 ……〝夕鴉〟が泣いていた。


 「……だって死にたくないだ、死ぬのが恐いんだ……情けないけど、涙が止まらないんだ」


 俺はクナイをホルダーにしまった。


 「それがお前の本音だ」

 「……本音?」

 「お前は普通の女の子だ、死ぬことを恐れ、そして人並みに人を殺すことに抵抗がある優しい子だ」


 俺は影分身を消して、〝夕鴉〟の頭を撫でた。


 「だから自分を大切にしてやれ、体も心もお前のもんだ。あんま無理させすぎて道を踏み外すなよ」


 〝夕鴉〟はキョトンと目を丸くしていた。


 「……あっ、ありがとう」


 そして、ぼそっと謝辞を述べた。


 「じゃっ、もう帰れよ。俺ももう寝るから」

 「ああ、わかった……その、色々迷惑掛けたな」


 ……まったくだよ、お陰で部屋がボロボロだ。

 〝夕鴉〟は一礼して、部屋の窓に足を掛けて、俺の方を見た。


 「一つ訊いていいか……その、えっと」

 「御影しのぶだ、一つぐらいならいいぞ」


 〝夕鴉〟が優しい笑みを浮かべて、口を開いた。


 「しのぶ、どうしてわたしを叱ってくれたんだ」


 ……なんだ、そんなことか。


 「お前が下らない信念を守る為に嫌々人を殺そうとしたからだ」

 「……」

 「殺し好きならそれでいい、敵にならない限りどうにかしようとは思わねェ。はたまた何か大切なものを守る為に殺す奴、それもいい。だが、下らないものの為に殺したくもない人を殺す奴は気に食わない、ただそれだけだ」

 「……そうか」

 「あとは」

 「あとは?」

 「可愛い女の子を見るとほっとけないんだよ、俺は」

 「……………………そうか」


 〝夕鴉〟は今度こそ帰るのか、俺に背を向けた。


 「……あっ、こっちも一つ訊いていいか」

 「いいぞ」


 許可が出たので、さっきからずっと気になっていることを訊くことにした。


 「本名は何て名前だ?」

 「……」


 〝夕鴉〟は少し悩み、


 「()(なぎ)りせ」


 ……こちらの方を振り向くことなく答え、姿を消した。



 「あぁー、くの一は駄目だったか」


 ……夜の繁華街。ワタシは深い溜め息を溢した。

 町明かりがやけに眩しかった。これも普段から日中に行動しなかった反動だろうか。


 「今度はどうやって殺そうか」


 作戦は失敗した。しかし、気分は不思議と高揚していた。


 「雛崎ほたる」


 ……まだ遊びは終わってはいない、ワタシの復讐はまだ始まったばかりなのだから。



 ……明くる朝。忍者装束の夜凪が門からやってきて言った。


 ……わたしをお庭番に入れてください。


 ……と。

 ちなみに、里からの推薦状を持参してきたらしく、軽い審査をいくつかこなして、夜凪は晴れて雛崎邸のお庭番の一員となった。

 ……ちなみに、夜凪は任務放棄により今回の仕事は解雇になったらしい、それでも忍者を続けていて、これからは忍の意思ではなく自分の意思で仕事を選ぶことにしたとのことであった。


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