第3話(後編) 『 桜十字学園 ~生徒会の巻~ 』
……放課後、お嬢はなんと生徒会の会長だったということが発覚した。ボディーガードとメイドである俺と小日向さんも生徒会室に向かうお嬢に同行した。
「紹介するよ」
そして、生徒会室に到着した俺にお嬢が生徒会室に居座る生徒会役員らを紹介する。
「この人たちはこの桜十字学園をより賑やかにする為に集まった、わたしの同胞なんだよ」
生徒会室には筋肉隆々で半裸な男子生徒と何やら怪しげな実験をしている銀の仮面にマントを羽織った男子生徒と頭にアンテナ付けた金髪メイドさんと普通の女子生徒が待ち構えていた……どうしよう! 周りが濃すぎて普通の女子生徒が浮いてる!
「やあ、そこの君。生徒会入会希望者かい?」
筋肉さんが話し掛けてきた。
「御影しのぶ、入会希望者です」
……俺は特に入る予定は無かったが、入会した方がお嬢の護衛が楽になるので生徒会に入会することにした。
「そうか、ならば審査をしよう」
筋肉さんが俺の目の前に躍り出た。
俺ホモ『……ウホッ、いい身体!』
……お前はちょっと引っ込んでてくれ。
「俺は生徒会副会長――大乗寺轟だ。今から出す俺の問いに答えられれば入会を許そう……だが間違えれば入会を許さない」
「ああ、何でもいいよ」
俺と大乗寺が向かい合った。俺の二倍はあるだろう図体が放つ威圧感は相当なものだった……てか、一人だけ作画がおかしい。
大乗寺は大きな深呼吸をし、そして吐き出した。
「ウルトラマッスルクーイズ!」
……はっ?
「今から俺が筋肉で会話をする! そして、お前は!」
……ドキドキ。
「俺の胸筋に触るだけでそれを当てろ!」
俺ホモ『マジで!』
……黙れ。
「それができなければ生徒会には要らん!」
大乗寺のトンデモな審査に俺は困惑した……これ絶対意味ないだろ! 思いつきだろ!
ここは生徒会長のお嬢にズズイと言ってもらおうと視線を送った。
「がんばれ! しのぶくん!」
……上手く伝わらなかった。
「どうした、自信がないのか」
大乗寺が俺に静かに問うた。
「……」
……俺は静かに笑んだ。
「自信ならあるよ。だからさっさとてめェの胸をこっちに寄越せ」
「大層な自信だな」
「早くしろよ」
「ふん、いつまで強がってられ――」
「早くしろよ」
「……あっ、はい」
かくして、俺の生徒会入会テストが始まった。
大乗寺が極厚な胸板を俺に差し出し、俺はその胸板に右手を添えた。
「やるぞ」
「ああ、いつでも来いよ」
――神経集中!
……俺は瞼を閉じ、右手に全神経を集中させた。
――来る!
……0.99
……0.43
……0.02
――ピクッ ピクピクッ……!
……胸筋が哭いた。
「……解ったか」
「ああ、解ったよ」
俺は閉じた瞼をゆっくりと開いた。
「 合格だ、おめでとう 」
……これが正解だ!
「……正解だ、君を生徒会の一員として認めよう」
大乗寺は俺が答えられたことが未だに信じられないらしく、骨張った顔に驚きの色を見せていた。
「しのぶくん、凄い! どうしてわかったの!」
お嬢が喜び半分、驚き半分な表情で俺の下へ駆け付けた。
「教えてほしいか?」
「うんうん! 教えて!」
……目を矢鱈と輝かせるお嬢が可愛かった。
「読唇術だ!」
「唇じゃないのに!」
……まあまあ。
「おい、新入り」
銀の仮面にマントを羽織った男子生徒がしのぶに呼び掛けた……何か後ろのビーカーから煙出てるぞ、大丈夫か。
「こんな簡単な試験に通ったからって浮かれるなよ」
「……」
「だから気を抜くな、気を抜けば」
銀の仮面にマントを羽織った男子生徒が銀の仮面を外した。
「喰われるぞ」
……イケメンだった。
「……」
俺がイケメン野郎のイケメンフェイスに圧倒されていると、メイドさんが俺に歩み寄った。
小日向「……えっ、わたしですか?」
……いや、そっちじゃなくて。
「私は薬師葉助様によって製造された自立型美少女メイドアンドロイド――アリス=ティア=レインで御座います」
頭にアンテナを付けたメイドさんである……てか、自分で言うなよ美少女!
「御影様、申し訳御座いませんが、私の主はツンデレで御座います。なので本当は貴方の入会を祝福していますのですが、恥ずかしく祝辞を述べられないのです。どうかご理解の方を宜しく御願いします」
……アリスさんがめっちゃ弁解してた、小声で。
「わかったよ! 薬師葉助がツンデレなら仕方ないな!」
……なので俺はわざと大声で了承した。
「ちょっ、御影様っ! 声が大きいです!」
クールな人……いやアンドロイドかと思ったが予想以上にテンパっていた。
「アリス」
アリスさんの背後に薬師がいた。
「……あっ、あっあっあっあっ、主っ!」
更にテンパるアリスさん。
「俺様はツンデレではないと何度言えばわかるんだー!」
「ひぃぃぃ! 申し訳御座いません!」
……めっちゃ怒られてた……悪いことしたな、反省はしてないけど。
俺はふと生徒会室を見渡した。
……三十畳はあるであろう広い空間が広がり、窓際には『生徒会長の席』と書かれたポップが置かれた机、中心にはソファーと長テーブルとお菓子、あとはコピー機や書類棚、トレーニングマシーン……?
大乗寺「俺のだ!」
……うん、知ってる。
他にも工具とか溶接機とか
薬師「それは俺様のだ!」
……うん、話が進まないから黙っててね。
あとはキッチンと料理道具一式か。
小日向「……」
……何か「それはわたしのです」とか言いたそうだけど空気読んで我慢してるーーー!
そして、メンバーは
……お嬢と小日向さんと筋肉とイケメンマスクとアンドロイドメイドと
アリス「自立型美少女メイドアンドロイドです」
……どうでもいいよ。
あとは普通の女子生徒……あっ、普通だけど普通に可愛いよ。この作品の美少女キャラがインフレしてて埋もれてるだけなんで。
……あっ、あと天才イケメン忍者の俺も含めて合計七名か。
「あれ? 有希ちゃんはしのぶくんに自己紹介しなくていいの?」
いつの間にか生徒会長専用椅子に座っていたお嬢が、ソファーに腰掛け紅茶を飲んでいた普通の女子生徒に挨拶を促した。
「あー、あたしはいいよ。クラスの自己紹介でしたし」
俺「……えっ?」
ほたる「……えっ?」
有希「……えっ?」
……いたっけ、こんな人。とは言えない空気であった。
この空気はまずい! 俺は助け船を求めて、お嬢に視線を送った。
そして、それをお嬢が任せろとウィンクで返し、俺は安堵の息を溢した。
「うーん、悪いけど有希ちゃんの描写はカットされてて無かったよ」
……お前はまたそーゆうことを言うのか。
有希「……(涙ぽろり)」
……泣いたーーー! 思ったより打たれ弱いーーー!
「……そーだよね、あたしって生徒会でもびっくりするくらい地味だしね、フフフ、仕方ないよね、フフフフフ」
……何かこの子、恐い! 地味だけど!
俺は困った、困った末に――
「もう一度自己紹介してくれるかな」
――彼女の肩に手を添えた。
「今度はちゃんと聞くから、覚えるから」
取り敢えず紳士な対応で誤魔化すことにした。
「……うん、いいよ」
彼女は涙を拭って、控えめに頷いた……どことなく頬が赤く染まってるような気がした。
……どうやら彼女の名前は橘有希と言うらしく、誕生日は九月七日、血液型はO型、趣味は絵を描くことと音楽鑑賞(ジャンルは問わない)で、家族構成は父と母と弟で、好きな強化は英語と体育、好きな食べ物はホットケーキ、好きな色は空色、今日の下着の色は――おい、話しすぎ。
俺読者『おい、長いのには同意だが! 最後まで話せよ!』
……最後って?
俺読者『下着のい――ベールによって隠された男の希望だよ!』
……おい、濁すなよ。てか、濁しきれてねェぞ。
「……ベールによって隠された男の希望って何かな、柚木さん」
「うーん、申し訳御座いませんお嬢様。わたしには解りかねます」
……濁しきれてた。てか、俺の心の声勝手に聞くのやめてくれないかな、君たち。
「俺様の予想ではベールは女子生徒のスカートを指すのではないか?」
……おい、お前も勝手に心読むなよ。そして、いつまでパンツの話を続ける気だ。
「女子のスカートに隠されているものというとつまり……」
……全員がそこでハッとした。
「「「「「 パンツだッッッ! 」」」」」
……今、みんなの心が一つになった!
「有希ちゃん、パンツ見せて! 会長権限で!」
何故かお嬢が橘のスカートを捲りに掛かった。何故、お嬢がそんなことをするのかは不明……たぶん勢い。
「わたしが捲ります! メイド権限で!」
「いや、俺だ! 筋肉権限で!」
「いや、俺様だ! 科学者権限で!」
「いえ、私が! メイド権限で!」
「待て! 俺が捲る! 忍者権限で!」
何故か俺たちは全員で橘のスカートを目掛けて飛び出した! どうでもいいけど小日向さんとアリスさん、キャラ被ってますよ。
「ひぃぃぃ!」
橘がめっちゃ引いてる。しかし、俺たちは止まらない! 橘のスカートを捲らんと飛び掛かった。
――全員が橘のスカートを掴んだ!
「「「「「「俺(俺様)(わたし)(私)のだッッッ!」」」」」」
ギリギリギリギリ……! 俺様が全力で引っ張るとスカートが軋み、悲鳴を上げた。
「やめてーーー! パンツ見えちゃうでしょーーー!」
橘がスカートを押さえるも、闘いは六対一。敵う筈もなかった。
「「「「「「オオォォォォォォォ!」」」」」」
「やめてーーー!」
「「「「「「トリャァァァァァァ!!」」」」」」
「やめてってばーーー!」
――パンッッッ!
……スっ、スカートが四散した!
「水色だ!」
……橘の下着の色は水色だった。
「……………………あれ?」
……俺は何をしていたんだろう?
橘の下着を見た瞬間、俺は途端に冷静さを取り戻した。それは他の生徒会役員も同じらしく、全員が困惑を面にしていた。自分たちが今まで何故、橘の下着に固執していたのか全くわからなかった。
しかし、俺たちは今すべきことを知っていた。
「「「「「「橘(有希)さん(ちゃん)ごめんなさい」」」」」」
……橘に謝った。
そんな俺たちに橘は……
「許すか馬鹿ァーーー!」
……顔を真っ赤にして怒った。
……こうして俺の初めての登校は終わりを告げた。
ちなみに俺たちがおかしくなったのは薬師が暴発させた『パンツが見たくなるウィルス』が部屋に充満していたせいだった。それと橘が矢鱈と俺に懐いたのは、橘が紅茶と惚れ薬(薬師印)を間違えて飲んだからなんだとか。
追伸.橘のスカートはお嬢が弁償した……。