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  第2話  『 集結! 御庭番衆! 』



 ……俺は暗闇の中にいた。


 「――くーん」


 ……どこからか声が聞こえた。


 「しのぶくーん」


 ……声の主は誰なんだろう? そう思った俺は重い瞼を開いた。


 「……うげっ!」


 目の前に広がる凄惨な景色に俺は思わず変な声を溢した。

 ここはヴェルサイユ宮殿。きらびやかな広間で社交ダンスが開かれていた。そして――


 ……筋肉隆々なお嬢が白ビキニ姿で迫ってきて、


 ……筋肉隆々になった昨日女湯で会った美少女がバニーガールコスでぴょんぴょん跳ねていて、


 ……筋肉隆々で全裸のゆかりさんが風遁、風車の術で縦横無尽に飛び回り、


 ……ボン・キュ・ボンなナイスバディーでネグリジェ姿の父上が俺の背後でHAHAHAと笑っていた。


 ――そんな景色が広がっていた。つか、誰もダンスやってないんだが。


 「……何コレ?」


 俺が呆然と突っ立っているて、突然背中に柔らかい二つの膨らみが当たった。


 (……えっ、コレってまさか、噂に聞く当ててんのよ――)


 父上「俺のだけどな!」


 ……父上のおっぱいだった。


 「息子よ、自分が今どんな状況にあるかわかっていないようだな。ならばこの俺が教えてやろう」


 ……えっ、何か急に解説始めた。


 「この世界はお前の理想が現実になった世界……そう、まさにパラダイスだ!」

 「マジで! 俺、こんなこと望んでいたの!」


 俺は悔しさの剰りに床に手と膝を着いた。


 「泣くな息子よ」

 「……いや、重いだが父上」


 父上は何故か落ち込む俺の背に座っていた。


 「まあ、コレを見ろ」


 父上が胸の谷間から何か取り出した……いや、背中に乗られているから見えないんですが。


 しかし、チッチッチッと火花が散る音が聞こえてきた……これはまさか!


 「ダイナマイトォ!」


 俺がそう叫んだ瞬間――


 ドッカーーーンッ!


 ――世界が真っ白になった。


 ……………………。

 …………。

 ……。


 「うわぁぁぁぁぁああ!」


 命の危機を感じた俺は思わずベッドの上から飛び降りた……えっ、ベッド?

 俺はふと周りを見渡す。


 真っ白なシーツが乱れていた。

 窓から朝日が差し込んでいた。

 小鳥のさえずりが聴こえてきた。


 「なんだ」


 ……夢オチか。



 「白鳥(はくちょう)仮面(かめん)だ。今日から君の仕事の上司に当たる者だ、よろしくな」


 ……午前、六時。俺は広間に呼び出され、白鳥仮面と名乗る男と顔を合わせることになった。ちなみに、白鳥仮面さんは深紅のおしゃれ仮面に股間に白鳥さん付きのブリーフを装備し、それ以外は何も身に付けていない男だった。


 「はい、俺は御影(みかげ)しのぶです。今日からよろしくお願いします、変態仮面さん」

 「白鳥仮面だ」

 「あっ、すみません変態白鳥さん」

 「……何で意地でも〝変態〟を残そうとするの?」


 ……変態だからです。


 「あっ、君は新人の御影くんかい」


 俺と白鳥仮面さんが談笑していると、他のお庭番も俺に話し掛けてきた。


 ……全身包帯だらけの男と無駄ににキラキラしていて異常に顎が鋭利な男だった。


 「初めまして、僕はピラミッド出身のお庭番――ファラオです。以後お見知りおきを」


 全身包帯に巻かれたミイラ男が礼儀よく挨拶した。


 「やあ、新人くん。俺様はハンサム学園イケメン科首席――ロマンス三澤(みさわ)だ、惚れんなよ」


 無駄にキラキラしている上に、異常に顎が鋭利な男が手を差し伸べてきた。

 個性的な先輩二人に唖然としている俺を気遣ってか、白鳥仮面さんが説明してくれた。


 「ファラオさんは半年前に密売されていたところを救出されて、雛崎(ひなさき)家に恩返しがしたいとお庭番を志願したんだ」


 ……いや、そこじゃなくて何でミイラが動いているのかを説明しろよ。


 「そして、隣のロマンス三澤くんは雛崎婦人がスカウトしてお庭番になったんだ。あっ、顎は気にしないでね、彼はあれでも気に入っているんだ……まっ、ぶっちゃけ変だけど――イタタッ」


 ……うわっ、ロマンス三澤先輩が白鳥仮面さんの頭に顎を刺した! 恐っ! アゴ恐っ! てか、あんたの格好も相当変だけどな!


 「……よっ、よろしくお願いします」


 ……何か気の利いた言葉を掛けようと思ったが、特に思い付かなかったので苦笑いを溢した。



 ……と、ここでお庭番の仕事を簡単に説明しよう。

 お庭番の仕事は基本的に敷地内の警備だ。つまり、護衛するのは屋敷であり、人を護衛する場合はボディーガードである。

 無論、敷地内には警備員や番犬が徘徊しているが、お庭番はより戦闘力や隠密性に特化した役職なのだ。


 白鳥仮面「つまり!」

 ファラオ「強くて、隠密に特化した」

 ロマンス三澤「俺たちが見本さ!」


 ……先輩たちはもっと隠密してください。


 雛崎家のお庭番は警備員や番犬と連携して侵入者を捕獲するのが仕事で、基本パターンは誰かが不審人物を発見→狼煙を上げて呼び掛け→全員で捕獲、である。


 「……ところで先輩、俺はどの時間帯にどの辺を見張ればいいんですか」

 「俺たちは基本三人でローテーション、範囲は屋敷内だ。もし、不審人物を発見した場合は夜勤もあるぞ」


 ……おい、お庭を守れよ。


 「……てか、三人って四人じゃないんですか?」


 ……確か、俺・白鳥仮面さん・ファラオさん・ロマンス三澤先輩で四人の筈だ。


 「あっ、君は屋敷の警備じゃなくて雛崎令嬢の護衛だぞ」

 「……えっ、そんなの聞いていないですよ白鳥仮面さん。そもそもそれってお庭番じゃなくてボディーガードじゃないですか」


 初耳であった為、俺は白鳥仮面さんに問い質した。


 「じゃあ君は今日からお庭番じゃなくてボディーガードになるんだ」

 「そんな横暴な!」

 「黙りたまえ!」


 白鳥仮面さんは俺の鼻っ柱に股間のスワンをぶつけて言葉を遮った……何だろう、凄く汚い気がする。


 「ここでは俺がルールだ!」


 ……うわっ! 股間のスワンが乱れ突きしてきた! ……お願いだからやめてほしいです。


 「……はい、わかりました」


 ……ちくしょう、この白鳥野郎め! 白鳥のくせになんてブラック企業なんだ! このブラックスワンが! ……少しカッコよくなっているのが悔しい。


 「でもその前に!」


 白鳥仮面さんが俺の顔に股間のスワンを押し付けながら玄関の方を指差した……いや、ホントやめてほしいのですが。


 「俺たちの仲間を紹介しよう!」


 ……白鳥仮面さんはそう高らかに宣言した。



 「やあ、白鳥仮面さん……あれ? 見ない顔がいますね」


 ……俺と白鳥仮面さんが屋敷の門の前まで足を運んだところ、一人のスーツ姿の男性が体育座りしていた……と思ったら、なんと男の顔は瞳が円らな秋田犬で、ケツから毛並みのいい尻尾が上下に揺れていた。


 「しのぶくん、紹介するよ。彼はこの屋敷の番犬長――ワンだふる(ゆう)さんだ。彼は犬でありながら人語を解せるので、番犬との連携の一躍を買っているんだ」


 ……また変なの来たな。


 「初めまして、ワンだふる勇です。君は確か、新しく入った天才忍者のお庭番ですよね」


 ……話がわかる奴じゃん。


 「初めまして、俺は御影しの――」


 ハァハァ、ハァハァ、ハァ……。


 ……あれ? 何かハァハァ聴こえるな。

 俺は疑問に思い、声のする方――ワンだふる勇さんの足下へ視線を傾けた。


 ……ワンだふる勇さんの首と繋がっているリードを掴んだ少年が引き摺られていた。


 何かいるーーーーーーーーーッ!


 「……どうかしましたか?」


 俺の視線に気が付いたのか、ワンだふる勇さんが俺を怪訝そうに見た。


 「いや、何か引き摺られているんですが」

 「ああ、これは私の飼い主――ケンタさんです」


 いやいや、飼い主引き摺られちゃっているんだけど!


 俺は引き摺られているケンタくんの方を見た……お前大丈夫か? という意味を込めて。


 「気持ちいいから別にいい!」


 ……別の意味で大丈夫じゃなかった。

 まあ、本人の許諾の上でやっているみたいだからいいかな。たぶん。


 「話は終わったか、次はしのぶくん。次は警備員長に挨拶するぞ」


 白鳥仮面さんが次の目的地を指差した……あっ、ケンタくん踏んでいますよ、白鳥仮面さん。


 「はうぅぅぅん!」

 ↑ビクビクッ


 ……俺は見ないことにした。



 ……白鳥仮面さんを先頭に屋敷の裏口まで移動する俺。

 しばらく歩くと警備員長おぼしき人物が悠然と佇んでいた。なんと、女性……しかも美人であった。

 可愛らしいというより凛々しいという感じの麗人だなぁ。


 「おーい、(はるか)。ちょっといいかー」


 白鳥仮面さんが親しげに手を振った。すると女性も親しげに手を振り返した。


 「仲いいんですか」

 「俺の彼女だ」

 「……えっ、何だって」

 「俺の彼女だ」

 「……えっ、あの軒下にある雑草がですか」

 「殺すぞ」


 ……理解できなかった。あんな綺麗な人がこの変態仮面さんの彼女だなんて。


 「むっ、新人か。初めまして、警備員長の草壁(くさかべ)遥だ、よろしくな」


 ……無骨だが綺麗な人だ、尚更あの白鳥仮面さんの彼女だと納得できなかった。


 「あの一つ訊ねてもいいですか」

 「ふむ、構わんぞ」


 よし、了承は得た。


 「あの、あの人のどこがいいんですか?(小声)」


 俺の質問に気を悪くしたのか、草壁さんはむっと口をへの字に曲げた。


 「確かに白くんは一見変態の様だがな、他の人には無い優しさを持っているのだぞ」


 ほら見ろ、と草壁さんは白鳥仮面さんの方を見やった。それに釣られて俺も白鳥仮面さんを注視した。


 ……いつもと変わらず変態だった。


 「見てみろっ、あれが始まるぞっ」

 「……あれ?」


 俺は草壁さんの言う通り、白鳥仮面さんの姿を見た。


 ……股間のスワンの先端に小鳥が留まっていた。


 「ははっ、小鳥さん。そんなに俺のスワンが気に入ったのかい」


 白鳥仮面さんが笑うと次々と小鳥が白鳥仮面さんの下へ小鳥が集まった。


 「はははっ、まったく可愛い小鳥さんたちだ」


 白鳥仮面さんは腕を広げて小鳥たちを受け入れた。


 「……動物に優しい白くん、カッコいい!」

 「……」


 すっかり女の顔になってしまった草壁さんに俺は冷たい眼差しを向けた。


 「ははっ、こらっ、俺のスワンをつつくんじゃない」

 「……カッコいい」


 ……この二人の感覚を俺は理解できそうになかった。理解したくもなかった。



 ……それから俺は庭師と運転手に挨拶をし、屋敷に戻った。


 「よしっ、最後は使用人と雇い主だ!」


 白鳥仮面さんに先導され、俺は食堂の前の巨大な扉まで連れてこられた。


 「今この先に、雛崎夫妻とほたる様が朝食を摂っている。なので、きちんと身だしなみを整えるんだぞ」


 ……あんたが一番身だしなみを何とかしろよ。


 「さあ、行くぞ」


 白鳥仮面さんはパンツをピシッと直して、目の前に立ちはだかる観音開きな扉をノックした。


 ――コン コッ コッ コンコン コッ コッ コン


 ……おい、何だその無駄に軽快なリズムは。


 「これは不審者と関係者を見分ける為の暗号のようなものさ」


 白鳥仮面さんが丁寧に解説してくれた……なるほど、そういうことね。


 「御庭番衆頭領、白鳥仮面です。新人隊員、御影しのぶを連れて参りました」


 少し間を空けて、扉の向こうから「開けなさい」と声が聴こえた。

 扉の向こうにいるであろう、執事とメイドが扉を開いた。


 ――そこにはお嬢とゆかりさんとお嬢の親父さんが食事をしていた。


 「食事中、失礼致します。旦那様の仰せの通り、御影しのぶを連れて参りました」


 白鳥仮面さんが仰々しく頭を下げた。股間の白鳥もそれに倣うように頭を下げた……お前は下げんでいいから。


 「ふむ、御苦労だ。白鳥仮面は下がっていいぞ」

 「はっ、仰せの通りにっ」


 お嬢の親父さんに労われ、白鳥仮面さんはもう一度頭を下げた。そして、俺にウインクしてその場を去った……意味がわからないぞ。

 白鳥仮面さんがいなくなり、完璧にアウェイになってしまった俺は正直緊張した。

 俺は周りを見渡した。

 雛崎一家が朝食を摂っており、扉の方には執事長とメイド長おぼしき人物が待機し、お嬢の背後には専属メイドが待機していた。

 ……あっ、あのメイドさん。昨日、女湯で遭遇した少女だ! ……知らんぷり、知らんぷりや。


 「初めましてかな、御影しのぶくん」


 お嬢の親父さんが重々しい口調で挨拶をした。


 「はい、本日よりお庭番を勤めさせていただきます、御影しのぶで御座います。本日はこの場にお呼びいただき誠に感謝致します」


 ……ふぅ、使い慣れてない敬語は疲れるな。


 「ふむ、それでは羊ヶ(ひつじがおか)。御影くんに我々のことを教えて上げなさい」

 「御意」


 羊ヶ丘と呼ばれた壮年の執事長が俺の前に来た。


 「私、執事長の羊ヶ丘が紹介致します」

 「よっ、よろしくお願いします」


 ……年上に頭下げられるのは何か落ち着かないなぁ。


 「先ずこの御方、この御屋敷の当主である雛崎石(いし)(どう)様で御座います」


 それからゆかりさんとお嬢の説明を受けた(割愛)。


 「……御影様のから後ろにいる侍女は――水面(みなも)()(づき)メイド長で御座いまして、あちらの侍女――小日向(こひなた)柚木(ゆずき)はほたる様の専属メイドで御座います、以上を以て紹介を終了させていただきます」


 最後に羊ヶ丘さんが一礼して、紹介を終えた。


 「うむ、御苦労だ」


 石道様が今度は俺の方を見た。


 「それでは御影くん、これから一年間、愛娘の護衛を頼むぞ」

 「御意、仰せのままに」


 俺は石道様に膝を着き、更に頭を下げた……おい、お嬢。いつもとキャラの違う俺のこと見て笑うのやめろ。


 「何か面白いことでもあったか、ほたる」

 「いえ、何でもありませんお父様(必死に笑いを堪えている)」

 「ゆかりも、顔がにやけているぞ」

 「何でもないわ、あなた(にやにや)」


 ……この親子。



 ……まあ、何はともあれ俺と石道様との初面会はつつがなく終わったのであった。


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