第8話(中編) 『 雛崎ほたる奪還作戦(中編) 』
【 副島春日VS 二階堂嵐 】
「……エンドレスチェリーズ、何だそりゃあ」
突然戦いに乱入してきた副島春日と名乗る少年に二階堂が困惑していた。
「エンドレスチェリーズは永久童貞機関だよ」
副島は無表情でポケットに手を突っ込み、疑問に答えた。
「……意味わかんねーよ」
「わからなくていいよ」
副島が駆け出した。
「あんたはここで俺が仕留めるから」
……速い! しかし、それだけじゃあ駄目だ! 二階堂は……。
「……ふぅ、ここは制服着た子供が来ていいような場所じゃねェぜ」
……正真正銘のプロだ!
一・ニ・三・四・五・六……合計六つの弾丸が副島を襲う。
発砲音が一回しか聴こえなかったのは、二階堂は一瞬の内に六つの弾丸を副島目掛けて発砲したということだ。やはり、コイツは化け物だ。
弾丸が六つ、できる限り広範囲に放つ為にそれぞれ射線が重ならないように突き抜けた。
「……八倍速……二倍馬力」
副島が小さく呟いた次の瞬間――消えた。そして――
「子供舐めるなよ、オッサン」
――二階堂の背後を取り、そして、振り向いた横面に拳骨を叩き込んだ。
「……ぐっ!」
……速い! 何だあの少年、一瞬見失ったぞ!
横面を殴打された二階堂は吹っ飛ばされ、石畳の上を転がった。
「……八倍速……四倍馬力」
――二階堂の転がる石畳の上に影が差す。次の瞬間……。
……副島が二階堂の顔面を全体重掛けて踏み潰した。
衝撃で地面に亀裂が走り、礫が散った。
「……っア!」
二階堂は痛みに呻き、副島は空中三回転して着陸した。
「……っ!」
一見圧倒しているように見えた副島が脚を押さえて絶句した。
「……ちっ、レクなんかではしゃぐんじゃなかったよ」
副島は悪態を吐きながらも、俺様の方へと歩み寄り、手を差し伸べた。
「大丈夫か……って、こわっ! 顎こわっ!」
……コイツ、殺そう。
「助かった、まさか学生に助けられとは――」
副島の手を取ろうとした俺様は思わず言葉を切った。
……二階堂が拳銃を構えていたからだ。
「副島ァ! 後ろォ!」
「わかるよ」
――副島は後ろから発砲された銃弾を高く跳躍して回避した。
「……甘いな」
二階堂がいやらしく笑った。
……駄目だ! それだけじゃ、奴の攻撃はかわしきれてない!
俺はがむしゃらに跳び、そして副島を突き飛ばした。
――そして、発砲音と共に俺の右腕に風穴が空いた。
「……っ!」
予想外な発砲と俺の負傷に副島が目を見開いた。だが、立ち止まっている時間はない!
「俺に構うな! 全力で二階堂をぶっ飛ばせェ!」
「……っ! ああ、わかった!」
副島は力強く頷き、ポケットに手を突っ込んだ。
「十六倍速! 十六倍馬力!」
副島がそう叫び――消えた。
「全力・全開!」
「……っ!」
消えたと思った副島は既に二階堂の懐で拳を構えていた。
「十六倍拳ッッッ!」
――副島の全力全開の拳が二階堂の土手っ腹に炸裂した。
「……がはッッッ!」
「やった、のか」
「……もう限界だ」
崩れ落ちる二階堂に、地に這いつくばる俺様。そして、副島も息を荒くして前めのりで倒れた。
強かった、二人掛かりでやっと勝てた。しかし、二階堂ですらナンバー2だ……ナンバー1はどんな化け物だろうか。
「……白鳥仮面さん……ファラオさん、頑張れよ」
俺様はここにはいない二人に激励した。
……こうして、俺たちは何とかして二階堂を攻略できたのであった。
【 新藤アラタVS 一之瀬潮 】
「逃げるなら今の内だ、小僧」
……一之瀬さんと新藤アラタと名乗る少年が対峙していた。
「心配は要りません、逃げるほどの相手じゃありませんので」
警告する一之瀬さんに新藤さんは悠然と笑った。
「……ならば遠慮せずに行かせてもらおうっ」
一之瀬さんが振動ナイフの電源を入れて、新藤さんに斬りかかった……しかし、新藤さんは至って平然としていた。
「では僕も遠慮無しで行きます……でも気を付けてくださいね」
新藤さんは笑顔で腕を上げ――パチンッと指を鳴らした。
「僕は隊長や副隊長ほど優しくありませんから」
――ドォンッ! 一之瀬さんの側頭部が爆発した。
「……ぐっ!」
「……なっ!」
突然の爆発に一之瀬さんは膝を着き、僕は驚嘆の声を漏らした。
「……何をした、新藤アラタ」
一之瀬さんが頭を押さえて神妙に問うた。
「なんてことはありません」
新藤さんは再び指をパチンッと鳴らした。
「リア充を爆発させる、それが僕の〝童術〟です」
……物理的に爆発させちゃうんだ。
今度は右足を爆発した。一之瀬さんは為す術もなく地にひれ伏した。
ふざけた能力だ……だが強い、圧倒的に!
「この力は相手の経験人数の数だけ威力を増します……この威力だと、そうですね五名ぐらいですか?」
……その話は生々しいのでそこまでにしてください。
「……強いな……正攻法じゃ勝てそうに無い」
一之瀬さんが痛みに口角を歪ませながらも立ち上がった。
「だから少しズルをさせてもらおうか」
苦痛に歪ませていた一之瀬さんの口が一転、笑った。その瞬間――
――一之瀬さんが僕を見て、振動ナイフを振り上げ……。
「駄目ですよ」
……その手が爆発した。
手からこぼれ落ちた振動ナイフは虚しく地面に突き刺さった。
「ぐあぁぁっ!」
一之瀬さんが爆発した手を押さえ、呻いた。
「あなたの相手は僕だ」
パチンッ……更に左脚が爆発し、一之瀬さんは支えを失い、地に頭をぶつけた。
「でも、もう終わりです」
新藤さんは既に指を構えていた。
「一之瀬さん」
……満身創痍の敵にも新藤さんは容赦しない。パチンッと指を鳴らし……。
「さようなら」
――ドオォンッ! 最後に、一之瀬さんの後頭部を爆発させた。
「がァッッッ……!」
一之瀬さんは力なく地にひれ伏し、それっきり動かなくなった。
「……殺したんですか?」
「まさか、気を失っているだけですよ」
恐る恐る訊ねた僕に新藤さんはにこやかに答えた。
……この勝負、圧倒的であった。僕が歯が立たなかった一之瀬さんを新藤さんは圧倒していた。
「……運が良かった」
しかし、新藤さんがぽつりと呟いた。
「彼の経験人数があと二人少なかったら僕の爆発が通用しなかったと思います、それに……相手が良かった」
謙遜かと思ったが、新藤さん頬を伝う汗がその言葉の真偽を教えてくれた。
「彼の上に二人いる、特にその内の一人、女顔の優男――あいつは危険です」
新藤さんの言葉に僕の心臓が底冷えるのを感じた。
――どうか生き残ってください、白鳥仮面さん。
……この屋敷のどこかで戦う白鳥仮面さんの身の安否を案じた。
【 遠藤桜VS 三橋奏 】
「……早きこと〝早漏〟の如し」
――背後から迫る三橋の回し蹴りを遠藤は身を屈ませて回避した。
「まだまだァ!」
三橋は靴の側面を爆発させて方向転換し、更に靴の爪先を爆発させ、その反動で踵落としを繰り出した。
しかし、遠藤は〝封刃丸〟と名付けた愛刀でガード……いや、受け流して踵落としをいなし、後方へ跳び距離を空けた。
「逃がしませんよっ」
三橋は靴裏を爆発して距離を空ける遠藤を追随する。
爆発の加速を生かした跳び蹴りを繰り出す。しかし、遠藤は〝封刃丸〟で蹴りを受け止めた。
跳び蹴りの威力は凄まじく、受け止めた遠藤は耐えきれず吹っ飛ばされた。
「重っ……!」
遠藤は吹っ飛ばされるも、空中一回転して体勢を立て直して、庭園を飾る樹木の一本に着地した。衝撃にギシシッと樹木が悲鳴を上げた。
「たくっ、化け物のか――」
遠藤はそこで言葉を区切った。何故なら――
――既に三橋が跳び蹴りをしていて、更に自分の目の前にいたからだ。
「……っ!」
遠藤は絶句し、そして、三橋の跳び蹴りが炸裂した。
剰りの威力に樹木はへし折れ、地面は抉れ、土煙が舞った。
「遠藤っ!」
土煙から三橋が空中一回転して飛び出し、着地した。
「手応え」
三橋がスーツに着いた土埃を払いながら静かに呟く。
――土煙から何かが飛び出した。
「無し」
飛び出した〝遠藤〟の攻撃に備えて、身構え……そして、目を見開いた。
「……木の……残骸」
そう、土煙から飛び出した何かは、三橋がへし折った樹木の欠片であった……じゃあ、本体は?
「静かなること〝ぼっち〟の如し」
……遠藤は既に三橋の背後にいた。
「……っ!」
咄嗟に遠藤の間合いから逃れようと、駆け出す三橋。
「おせェ!」
――〝封刃丸〟が三橋の横面に炸裂した。
「……ぐっ!」
三橋はまるで弾丸のように弾き飛ばされ、砂利の上を転がった。
「見たか、これが俺の〝童術〟だ」
地に這いつくばる三橋を見下ろして、遠藤が〝封刃丸〟を肩に乗せた。
「……俺の〝童術〟は大きく分けて四つある、聞きたいか?」
「いや、別に」
「じゃあ、話そうか」
「……っ!」
三橋が遠藤のスルースキルの高さに驚愕する。そして、遠藤はそんな三橋などお構い無しに解説を続けた。
「早きこと〝早漏〟の如し――五感が超敏感になって、反応速度を跳ね上げる……一方、敏感になりすぎて痛覚や騒音・異臭に対するダメージも大きい技だ」
……何で親切に弱点も教えているんだろう。
「静かなること〝ぼっち〟の如し――見失うほどに影が薄くなる……ちなみに、やり過ぎると存在そのもののが消える」
……消えちゃうの!
「侵略されること〝マゾ〟の如し――脳内のドーパミンをコントロールし、痛覚を抑える……がダメージは消えない」
……特に言うこと無いです。
「働かざること〝ニート〟の如し――一切を頑張らない脱力の境地だ」
……それはいいことなのか?
「……じゃあ、そろそろ戦いでも再開するか」
「そうですねー」
……普通の戦いはそんなノリで始めないぞー。
「早きこと〝早漏〟の如し」
「臨界点……突破」
二人がそう呟いた瞬間――轟ッッッ! と風が吹いた。
……抑えられていた力が爆発するように開放されたのだ。
二つの強い殺意がぶつかり合い、それを畏れるように空気が震え、哭いた。
「行きますよ」
「いつでも構わないぜ」
動く!
――爆風と爆音が吹き荒れ、三橋の姿が消えた。
速い! これが奴の全力か!
更に遠藤より五メートル手前で爆発し、間髪容れずに遠藤の右手方向で爆発、そして、もう一度爆発して――
「……後ろか」
――三橋が遠藤の真後ろにいた。
しかし、遠藤の方が僅かに速い。既に三橋をその瞳に捉え、〝封刃丸〟を振りかざしていた。
「残像です」
……三橋を捉えた筈の〝封刃丸〟が空を切った。
――残像ではない三橋が遠藤の真後ろにいた。
「確か、今攻撃喰らったら死ぬほど痛いんですよね」
「……っ!」
――三橋の爆発で加速した回し蹴りが、遠藤の背中に炸裂した。
「ぐァッッッ!」
遠藤は弾丸のように弾かれ、地面を二度三度バウンドして、池州に落ちた。
「遠藤ッッッ!」
水飛沫が舞い、数面には幾つもの波紋を生んだ。しかし、遠藤からは返事は返ってこない。
「……っ! 今日は少し無理しすぎたかな」
三橋は出血した脚を押さえながらも笑った。
「じゃあ、そんなお前に悲報がある」
池州から何者かが立ち上がった。
「戦いは終わっちゃいねェ、本番はこっからだぜ」
遠藤桜だ。遠藤が全身から水を滴らせながら立ち上がったのだ。
「……まだ意識があったんですね」
「まあな、ギリギリで〝マゾ〟に切り替えたお陰で痛みはそれほどでもねェよ」
しかし、〝マゾ〟でもダメージ自体を消すことはできない、服の裂け目からは蹴られた背中の部分が赤く腫れている様子が窺えた。
「キツそうですね、無理はよくないですよ」
「そっちがな」
「じゃあ、遠慮はいらないです、ねっ」
――爆発で大地を抉り、粉塵を舞わせ、三橋が消えた。
「飛んで灯に寄る」
一方、遠藤は〝封刃丸〟を高く高く跳躍し――
「夏の虫だ」
――〝封刃丸〟を水面に叩き付けた。
「……っ!」
……衝撃で巨大な水柱が立ち、辺り一帯に水飛沫が舞った。ついでに鯉も舞った……南無三。
そして、水柱が沈む頃になって異常に気が付いた。
「……消えた?」
……そう、遠藤の姿が消えたのだ。
「また、雲隠れですかー。いい加減面倒臭くなってきましたねー」
三橋がニコニコしながら溜め息を吐いた。
……ガサッ、近くの茂みから何かが茂みを揺らす音が聴こえた。
「そちらですか」
三橋がニコニコしながら茂みに歩み寄った……コイツ、何がそんなに面白いの?
音のする方へと歩み寄る三橋、そんな三橋などお構い無しにガサガサッと音を出し続ける茂み。
三橋が一歩、一歩と歩み寄る度に緊張感が張り詰める。
そして、三橋が茂みの前まで歩を進め、その足を止めた。
「……おや?」
茂みの中を見た三橋が楽しそうに笑い、〝それ〟を摘まみ上げた。
……それは色鮮やかな鱗を持つ鯉だった。
あれはさっき打ち上げられた鯉か! じゃあ、遠藤は――……。
「静かなること〝ぼっち〟の如し」
――池州の中から遠藤が飛び出した。
「……っ!」
そうか、遠藤は〝ぼっち〟の状態で、池州の中で身を潜めていたのか。そして、鯉を一匹茂みへ放り込み、三橋を誘導し、背後から攻撃を仕掛けたのだ。
「うらあァァァァァァァァアア!」
遠藤が隙だらけの三橋のを背後から斬り掛かった。
――しかし、三橋は身を屈ませてその鋭い斬激をかわした。
「「……えっ」」
「はい、予想的中♪」
――身を屈ませていた三橋が、逆立ちの要領で遠藤の顎を蹴り上げた。
「……ぐっ!」
遠藤は綺麗な弧を画いて、地に落ちた。
「気付いていましたよ、貴方の作戦ぐらい」
三橋は悠然と笑う。しかし、その笑みはどこか引き吊っていた……恐らく脚が痛くて堪らないのであろう。
「……ちっ、苦手なんだよな、作戦とか考えんの」
不敵に笑い立ち上がる遠藤も、顎を蹴られたせいか足元が覚束なかった。
「だからこっから真っ向勝負だ、受けてくれるか」
「いいですよ、僕も長くはもちませんし」
にらみ会う二人、ぶつかり合う殺意、静まり返る空気。
「早きこと〝早漏〟の如し」
遠藤が〝封刃丸〟を構えた。
「爆速連蹴」
三橋が初めて不敵な笑みを浮かべた。
「……」
――ドクンッ
「……」
――ドクンッドクンッドクンッ。
「「……」」
――ドクンッドクンッドクンッドクンッドクンッ……………………。
――ドオォンッッッ! 三橋の鉄の靴が爆発した。
そして、間髪容れずにまた別の場所で爆発が起こり、その余韻も消えない内にまた別の場所で爆発が起こった……しかし、剰りの速さに三橋の姿を捉えることはできなかった。
「……」
一方、遠藤は瞼を伏せて五感を研ぎ澄ませていた。
音を、匂いを、空気の流れを――読んでいた。
「さっさと来い」
「言われなくてもこれで――」
――遠藤の左手方向で特大の爆発が起こった。
「――終わらせますッッッ」
……それは一瞬のことであった。
大爆発の反動で飛び出した遠藤が、弾丸の如くスピードで跳び蹴りを繰り出したのだ。
しかし、遠藤の瞳は既に三橋を捉えていた。
「一刀一撃」
交差する遠藤と三橋の視線。
弾丸の如くスピードで繰り出される三橋の跳び蹴り。
神速で放たれる遠藤の斬激。
……そして――
「 紅 蓮 斬 華 」
――勝敗は決した。
「……ぐっ」
先に膝を着いたのは遠藤だ。
「……かはっ!」
……しかし、先に地に墜ちたのは三橋であった。
そして、それを追うように遠藤も地に身を委ねた。
地にひれ伏す両雄の一人は笑った。
「……俺の……勝ちだ」
「……」
……遠藤の勝利宣言を反論する言葉は返っては来なかった。
「……勝った、のか」
……三橋奏は強かった。俺一人じゃ敵わなかった上に、関係の無い遠藤の助けがあって初めて勝てた。
正直、俺のプライドはズタボロであった。しかし、悔いることは今すべきことではない。
今すべきことは、今できることは一つ、御影しのぶの勝利を祈ることだ。満身創痍なこの体ではそのぐらいのことしかできなかった。
「……勝てよ……御影」
……俺は、今最も過酷な戦いをしている男にささやかなエールを送った。
……日本最大のマフィア――〝東龍〟の本拠地、虎の間。
しかし、虎の間周辺は既に瓦解し、更には焼け焦げ、もはや原型を留めてはいなかった。
「いい戦いだった」
満身創痍の俺を見下ろす火野がまるで温度を感じさせない冷たい声を溢した。
そんな火野に……。
「……」
……俺は俯き、沈黙することしかできなかった。




