第8話(前編) 『 雛崎ほたる奪還作戦(前編) 』
……今より二時間前。
「いいか、よく聞けよ」
俺は下っ派の頸動脈にクナイを添えて、取引を持ち出した。
「お前は火野にとってどうでもいい駒だ、奴はお前が死んでも別にいいと思っている」
「そんなことは――」
「あるんだよ、現にお前をこちらまで伝信として寄越した、それはお前がこちら側の人質にされても問題が無いということだ」
「……っ!」
もし本当に大切な部下ならばみすみす敵の捕虜になりに行かせるような真似はしない。つまり、コイツは下っ派中の下っ派……だからこそ付け入る隙もある。
「さて、ここからが本題だ。俺たちに〝東龍〟のアジトを教えろ、そして、アジトの見取り図、更には細かな対応の仕方やお前の喋り方・性格・人間関係を教えるんだ」
「……そんなこと言ったらボスに殺されちまうよ」
ガタイだけはいいスーツ姿の男は震えながら冷や汗垂らした。
「心配するな。事が片付くまでお前は軟禁されるが、お前が情報を漏らしたことは秘密にするし、もしお嬢を奪還できればお前を自由にする」
「……」
「ただ、お前がここで口を割らないと言うのなら……」
「……どうするんだ? 殺すのか?」
「いや、情報を吐くまで手足の爪を剥がすまでだ」
「……」
ガタイだけはいいスーツ姿の男は俺の言葉に沈黙した。
「……俺の名前は平岡圭二だ」
「……」
「……お前の話に応じよう」
「了解した」
……俺はクナイをホルダーに仕舞い、平岡を開放した。
……………………。
…………。
……。
「それではそちらの作戦を話してもらおう」
石道様が俺に作戦の提示を求めた。
「作戦は三つあります」
そして、俺は雛崎ほたる奪還作戦を提示した。
まず初めに変化の術で俺が石道様に変化し、夜凪は平岡さんに変化する。そして、〝東龍〟のアジトに正面玄関から乗り込む。
次にトイレに入って俺は石道様の影分身をつくりだし、俺本体は天井裏から火野の部屋へ移動した。
火野と対面したら平岡さんに変化した夜凪は退散し、他の構成員の目を盗んで、火野のいる部屋の下で待機する。
ここまでが作戦の前準備である。
火野を騙すタイミングは三つあるのだ。
……まず一つ目は注射器の中身の入れ替えである。
平岡から渡された注射器の中身をただの水に入れ替えたのだ。そして、注射してから三分手前で影分身に変化の術を併用し、ただの石道様の分身から斑点の浮き出た石道様に化けさせることで奴らの目を欺く作戦である。
……万が一作戦一がバレてしまったら次は作戦二だ。作戦二は影分身にそのまま注射するのだ。
これから影分身に今手元にあるウィルス薬を注射する。そして、このウィルスが影分身にも通用するかどうか確認し、もし影分身にも発症したならそのままで、しなかったら作戦一と同じく影分身に変化の術を上乗せさせて発症したと見せかける作戦である。
……そして、万が一作戦二までもが見破られたのならば強行突破、作戦三である。
俺が天井から火野の動きを封じ、その隙に夜凪が畳を突き破って登場してお嬢を確保する。
そして、閃光弾を破裂させ、それを合図に――……。
……そして、現在。
「……閃光弾だとォ」
火野が圧倒的な光度に呻いた。
圧倒的な光が大部屋全体を呑み込み、全員の視界を奪った。
「くっ、お前らァ! 雛崎ほたるを逃がすなァ!」
火野が怒鳴った……が遅い!
光が消える。
視界が蘇る。
お嬢と夜凪は遥か遠くにいた。
「……糞がっ、追え! てめェら!」
「「「了解ッッッ!」」」
幹部の三人が駆け出した。
まずいな、いくら夜凪でもお嬢を背負ったままじゃあ精鋭の三人から逃げ切れない……と思うじゃん。
……駆け抜ける影が三つ、池州の水面に映った。
――幹部三人が何者かに蹴られ、殴られ吹っ飛ばされた。
「……がっ!」
「……ぐっ!」
「……な……にィ!」
幹部三人はそれぞれ、地面の上を転がった。そして、そんな三人を見下ろす人たちがいた。
「待たせたな、御影」
あの閃光弾はただの目眩ましの為のものではない。あの閃光弾は――
「いえいえ、大したことありませんよ――先輩」
――門の外で待機していた白鳥仮面・ファラオ・ロマンス三澤……そして――
「現時刻一七〇六を以て、警備隊、現着したっ」
――雛崎財閥警備隊を呼び出す合図だったのだ。
「さて、全面戦争の始まりだ」
……俺は不敵な笑みを浮かべて宣戦布告した。
【 ロマンス三澤VS二階堂嵐 】
「お前の相手は俺様だ、惚れるなよ」
俺様は二階堂と名乗る男にウインクした。ちなみに二階堂は短髪で人懐っこそうな性格の好青年であった。
「惚れねェよ」
……俺様のウインクにも動じないとはやるな、コイツ。
「じゃあ、行くか」
二階堂はジャケットの裏から――拳銃を二丁取り出した。
「ボスはあまり気長じゃないんだ、だから早めに死んでくれ」
――ドドォンッ! 二丁の拳銃が火を吹いた!
二つの弾丸が俺様に迫る……が大したことはない。
――俺は二つの迫る弾丸を鋭利な顎で一刀両断した。
「やるじゃん」
「……っ!」
俺様の足下に影が掛かり、俺は咄嗟に上を向いた。
……二階堂は俺様の真上にいた。
「おせェ!」
二階堂が空かさず弾丸を四発撃ち込んだ。
(……落としきれない!)
そう判断した俺様は咄嗟に脇へ跳んだ。
――カンッッッ! 銃弾と銃弾が衝突して、四散した。
(……銃弾で跳弾だとォ!)
四散した内の一つが俺様の右肩を貫いた。
血飛沫が舞う、右肩から中心に痛みが拡がった。
空薬莢が石畳を跳ねる音が反響した。
「余所見とか余裕だねェ!」
――ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ! カンッッッ! ドォンッ! ドォンッ! カンッッッ! ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ! カンッッッ!
……激しい銃弾の殴襲に、時折跳弾を挟み、素早くリロードを繰り返される二階堂の攻撃に俺様は防戦一方であった。
しかし、しばらくするとそんな攻撃も止んだ。
「やるねェ、それじゃあ〝コレ〟ならどうかな」
そう言って二階堂はジャケットの裏の銃弾ホルダーから、黒くペイントされた弾丸を取り出した。
そして、漆黒の弾丸が俺様目掛けて放たれ、少し遅れて通常の弾丸が放たれた。
俺様は顎で切り落とそうと構え――弾丸を見て思い止まった。
……弾丸がナックルボールのように揺れながら迫ってきたからだ。
(……これじゃあ的が絞れない!)
俺様は咄嗟に横に跳んだ――その瞬間。
――通常の弾丸が漆黒の弾丸を弾いた。
「……っ!」
弾かれて軌道を無理矢理曲げられた漆黒の弾丸が、俺様の美しい頬を浅く裂いた。
……俺様の美しい頬を浅く裂いた。
……俺様の美しい頬を。
「どうだ、これが暴れる弾丸――ナックルブレッドだ」
……俺様の美しい顔に傷を付けた!
「弾丸の右半分と左半分の質量が違うせいで弾道がブレる分、少し速度は落ちるが跳弾と組み合わせれば精度は比較的に上がる特殊弾だ」
……俺様の美しい顔に傷を付けた!
「……オイ、聞いてんのか」
「ない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さ」
「……何コレ恐い」
……ぶっ殺してやる。
怒りの剰りに視界が真っ赤になった。
怒りの剰りに全身を巡る血液が熱を帯びた。
怒りの剰りに顎が五倍の長さになり、更に五倍は鋭くなった。
「……何コレ恐い」
……怯える二階堂。だがもう遅い! お前は傷付けてはならならいものを傷付けた!
「その罪!」
俺は二階堂に猛接近した。
「うわっ! 来るな!」
二階堂が焦って拳銃を乱射した。焦っても精度は落ちておらず奴の腕の良さを見て取れた。
……が、俺様は立ち止まらず顎で弾いた。
「万死に値するッッッ!」
そして、二階堂の目の前の土を踏んだ俺は鋭利な顎を薙ぎ払った。
「……っ!」
二階堂が咄嗟に屈んで俺様の攻撃をかわした。
――二階堂の後ろに立つ松の木が斜めに一閃……。
「ヤバすぎ……!」
……そして、崩れ落ちた。何故か拳銃も石畳に転がっていた。
二階堂は冷や汗を滴らせながら距離を空けようと脇へ跳んだ。
恐らく近距離戦は苦手なのだろう……だが、俺様はそれを許さなかった。
空かさず接近し、顎で斬りかかった。
「……クソッ、しつけーな」
二階堂は苦々しく吐き捨て、ジャケットの裏に手を伸ばした。
「リロードさせる隙は与えねェよ!」
「残念」
……ピンを外した、ただの手榴弾が放られた。
「ただの手榴弾でした」
……まずい! 爆発する!
俺様と二階堂は咄嗟に後退した。次の瞬間――
ドオオォォォォォォンン!
――手榴弾が爆破した。
咄嗟に後退したお陰で怪我はなかったが奴を見失った。せっかく距離を詰めたというのに離されてしまった。
「今度こそこの顎で仕留めてやる」
そして、粉塵が晴れ、二階堂が姿を見せた。
「じゃあ、こっちも取って置き見せてすぐ終わらせてやるよ」
俺様と二階堂が静かに向かい合った。
……最初に動いたのは二階堂であった。
――二丁の拳銃を俺の真上に投げたのだ。
「……何のつもりだ?」
「こういうつもりじゃん」
二階堂が懐から別の拳銃を取り出し、上空に照準を合わせ、引き金を二度引いた。
――銃弾が上空にある拳銃の引き金に当たった。
そして、引き金を引かれた上空にある二丁の拳銃が発砲した。
……どんな精度しているんだよ!
俺様は上空から放たれる弾丸を後方へ跳んで回避し――更に脇へ跳んだ。
――ついさっきまで俺がいた場所に弾丸が通り抜けた。
……それは二階堂の手元にある拳銃で撃った弾丸だった。
奴の取って置きは上空の拳銃と手持ちの拳銃で織り成す立体的な攻撃だ。
しかし、読み合いではこっちが勝った、次は……。
「次はこっちの番だ――」
……銃声が響き、右足に風穴が空いた。
「……なっ!」
右脚から鮮血が溢れ落ち、俺様は堪らず膝を着いた。
不意に後ろに視線這わすと、そこには――
「残念だったな」
――松の木の枝にくくりつけられた拳銃の銃口から硝煙が漂っていた。
「読み合いは俺の勝ちだ」
……二階堂は遥か後方に立つ松の木の枝にくくりつけられた拳銃の引き金に銃弾を当てたのだ。
二階堂が俺の前に立っていた。
「……化け物め」
「悪いな」
二階堂は笑い、拳銃の照準を俺様の脳天に合わせた。
「俺はナンバー2なんでな」
……そして、引き金に指を掛けた。
【 ファラオVS一之瀬潮 】
――僕は全身に巻いた包帯を一之瀬さん目掛けて伸ばした。
一之瀬さんは高く跳躍して、僕の攻撃をかわす……しかし、僕は攻撃の手を弛めない。空かさずサバイバルナイフを掴んだ別の包帯で遊撃した。
「甘いな」
一之瀬さんは握っていたナイフで僕が仕向けたサバイバルナイフを弾いてしまう。
「こんなもんか、ミイラ人間」
一之瀬さんは悠然着地して、退屈そうに欠伸を溢した。
「まだまだですよ」
僕は合計八本の包帯を一之瀬さんに向けた。
僕の戦闘スタイルは基本八本の包帯(鋼繊維を編み込んだ)を自在に操り、サバイバルナイフを持たせて攻撃し、全身に巻いた包帯で防御し、余った包帯で捕獲するといった攻・守・捕のバランスの取れたものである。
一方、一之瀬さんは屈強な肉体にナイフ一本というシンプルな戦闘スタイルだ。
「邪魔だな、その包帯」
一之瀬さんはそうぽつりと呟き、ジャケットのポケットに腕を突っ込んだ。
「斬るか」
その途端、ナイフからキィィィィィンと高い周波数の音が聴こえた。
……あのナイフ、何か仕掛けがあるのだろうか。
「今度はこっちの番だ」
一之瀬さんが一気に距離を詰める。僕は咄嗟に包帯を差し向けた。
――一之瀬さんは身軽なステップで二本の包帯をかわした。
「これならどうですかっ」
……残り四本、僕は包帯を四方向から一気に差し向けた。
「ぬるい」
――一之瀬さんは包帯と包帯の隙間を潜り抜け、一点突破した。
一之瀬さんは一気に間合いを詰め、ナイフを構えた。
……大丈夫、僕は鋼繊維を編み込んだ包帯に巻かれている。この包帯は簡単には切られない筈だ。
「それはどうかな」
一之瀬さんがナイフを振り上げた。
……嫌な予感がした。
ナイフから聴こえてくる音の正体が何なのかわからないが、僕はそうはさせまいと残った二本のナイフ持ちの包帯でガードした。
――サバイバルナイフが二本、一刀両断された。
「……なっ!」
僕は驚嘆の声を漏らした。しかし、彼のナイフはまだ止まってはいない、あのナイフの正体はわからないが不用意な接触は得策ではないだろう。
僕は脇へ跳んだ――そして、ナイフを掠めた肩の包帯が少し割けた。
……その瞬間、僅かな振動を感じ取った。
僕はそのまま転がり、距離を空けた。
「なるほど、そのナイフの正体わかりましたよ」
「……」
……突然切れ味が変わったナイフ。
……ポケットに手を入れる動作。
……謎の音。
その三つが導きだす答えは――
「振動ですね」
「……」
一之瀬さんの沈黙が僕の解答の正しさを証明した。
「恐らくポケットに入っている装置でナイフの刃先を振動させているんです。切れ味が変わったのも、高い周波数の音もその高振動が正体ですよね」
「正解だ、だがそれだけだ」
一之瀬さんの言う通り、わかっただけじゃあ何の突破口にもならない。ただ、わかることは一つ――この人に接近戦を挑むのは得策ではないということだ。
「……距離を空ける、それも正解だ」
じりじりと後退する僕を見て、一之瀬さんがナイフの振動を消した。
「だがそれでは勝てない」
そう言って一之瀬さんはナイフにワイヤーをくくりつけた。
そして、縄投げの要領で回転させた。
――来る!
僕は咄嗟に包帯で壁を作った。
しかし、その隙間を縫ってナイフが僕に迫る。
「いや、勝たせてもらいます」
ナイフが僕に届く数センチで僕は余った包帯でナイフの柄を掴んだ。
「その攻撃は早計でしたね、これで貴方の武器は封じました」
後は掴んだ柄を離さないだけ、それさえすれば一気に戦局は傾く。
「浅はかだな」
一之瀬さんが冷めた口調で言い放った。
「……何が、ですか」
一之瀬さんはポケットから恐らく振動を調整する為の機械を取り出した。
「俺はナイフの振動数を操ることができる」
「……」
「しかし、通常俺はナイフの振動数を抑える」
「……」
「何故だか解るか」
そして、一之瀬さんは機械のダイヤルを最大限に回した。
「剰りの衝撃に空気が超振動し、その衝撃が鼓膜を破壊し、更には脳が揺れ脳震盪を起こすからだ」
――ドゥンッッッ! ナイフが振動した瞬間――全身が揺さぶられるような衝撃が駆け抜けた。
……それだけではない、僕の両耳から鮮血が滴った。
……更には異様な吐き気に襲われた。
……そして、全身の力が抜け、地にひれ伏した。
「終――だ、ミ――ラ――こ。」
一之瀬さんが何かを呟きながら歩み寄る。しかし、鼓膜を破壊された僕にはその声を断片的に聞き取ることしかができなかった。
一之瀬さんはナイフをあっさりと奪い取り、そして――
「安――に、眠れ」
……振動ナイフを振り上げた。
【 白鳥仮面VS三橋奏 】
「白鳥」「爆激」
……俺は飛び掛かり、三橋も俺を迎え討たんと構えた。
「乱舞」「連蹴」
――俺のスワンと三橋の蹴りの連激が互いの攻撃を相殺した。
「やるな、お前」
「いえいえ、まだまだですよ」
三橋はにこにこと笑いながら、スーツに着いた砂ぼこりを叩いて落とした。
「僕の本気はこんなもんじゃありませんから」
三橋の靴裏が爆発した。そして、その爆発を推進力に俺に急接近した。
更に俺と接近する直前で今度は靴の踵を爆発させ、それを推進力に回転蹴りを繰り出す。
……が、俺は咄嗟に屈んでその蹴りをかわした。しかし、三橋の回転は止まらなかった、更に一瞬回って今度は俺の頭蓋骨目掛けて回転蹴りを繰り出した。
「……っ!」
屈んだ状態で素早く動けなかった俺は三橋の回転蹴りをかわすことができなかった。
――ズンッッッ、咄嗟に腕を組んでガードしたものの衝撃で足下が陥没した。
……しかし、これで三橋の攻撃は終わりではない――俺に回転蹴りを放った靴の踵が更に爆発したのだ。
「……ぐぅっ!」
――剰りの衝撃に俺のガードは崩れ、脳天に回転蹴りを叩き込まれた。
……脳が揺れた。
……一瞬、意識が飛んだ。
……だが好機だ。
「白鳥一閃」
――俺の股関のスワンが神速の速さで三橋の土手っ腹を貫いた。
「……っ!」
……貫いたかと思ったが、奴は靴裏を爆発させて後退して、紙一重で直撃を避けたのだ。
三橋は空中一回転し、ザザザザッと靴裏を地面に摩擦させ、停止した。
「あーあ、せっかくの一張羅が台無しですね」
三橋は呑気に、引き裂かれたスーツとシャツの心配をした。
「服の心配とは余裕だな、三橋」
「はい♪ 僕は貴方に一撃直撃させ、貴方は僕にかすり傷しか負わせられなかった……これが僕と貴方の実力の差ですから♪」
……ムカつく奴だな、コイツ。
だが強い。三橋自身足技が強い上に表面が爆発する鉄の靴によって強化されている、はっきり言って強敵だ。
しかし、決して勝てない相手ではない。そう、俺には奥の手がある。
「勘違いするなよ、女顔」
「……ん?」
俺は両掌を合わせて、瞼を閉じた。
「俺の実力の底などお前に見せた覚えはない」
真白の造形、
万里を越える白翼よ、
唱え・奮え・羽ばたけ。
戦場に舞い降り、
逆らう愚者にその名を叫べ――
「白天明王ッッッ」
俺は股間のスワンの真の名を叫び、そして――
「……何ですか、その姿は」
――異変に三橋が驚愕した。
そう、俺の姿は
……真白の全身タイツを纏い、
……真白の翼をはためかせ、
……真白の大槍を携えていた。
「これは俺と白天明王の融合形態――〝白夜叉〟だ」
俺は純白の大槍(先端がスワンさん)を構え――
「気を引き締めろ」
――そして、三橋目掛けて投擲した。
「俺はさっきより数倍強い」
大槍は空を裂き、一直線に三橋を貫かんと突き抜ける。しかし、三橋は容易くその大槍を屈んでかわした。
「いくら速くてもそんな単調な攻げ――っ!」
かわした筈の三橋が目を見開いた。何故なら――
……ガシッッッ!
――俺は三橋の背後へと回り込み、突き抜けた大槍を掴んだからだ。
「速い……!」
三橋は咄嗟に後方へ跳び、俺から距離を空けた。
「だが遅い!」
既に投擲体勢に入っていた俺は全力で大槍をぶん投げた――奴の一歩手前に……!
大槍が空を裂き、そして地面を抉り、粉塵が舞った。
「ふう、危なかったですね」
しかし、三橋は靴裏の爆発によって高く跳躍していて、俺の投げた大槍はまたも回避された……だが、避けることぐらいは予想していた。だから俺はその先を読んでいた。
……バサッ。
――俺は三橋の真上で飛んでいたのだ。
「……何、だと」
大槍を三橋の手前に落としたのは衝撃で粉塵を舞わせる為、粉塵を舞わせたのは俺の行方を眩ませる為……そして、俺の行方を眩ませたのは奴の死角を取る為だ。
俺は両手を組み――
「チェックメイトだ」
――渾身の一撃を三橋の脳天に叩き込んだ。
「……かはッッッ!」
三橋は脳の衝撃に加え、地面に叩き付けられた衝撃で吐血した。
「……う……うぅ」
決着だと確信していた。しかし、三橋は出血した頭を押さえながらも立ち上がった。
「――ヤル」
「……?」
三橋は綺麗な顔を歪ませて……笑った。
「コロシテヤル」
……ゾクッッッ! ……三橋の纏う威圧感が変わった。
大丈夫だ、勝てる。確かにこの形態は長くは続かないが後一分はギリギリ持つ、それまでに仕留めればいい筈だ。
「……えっ」
しかし、俺は困惑の声を漏らしてしまう。何故なら十メートルは離れていた三橋が――
――俺の目の前にいたからだ。
「……っ!」
……速い! 融合形態の俺よりも確実に速い!
「天上」
――三橋が俺の顎を蹴り上げた。
(……そして、重い!)
今までより数倍の威力はあるであろう爆発によって加速された蹴りは速く、そして重かった。
俺の体は宙を浮いた。そして、間髪容れずに影が差した。
――爆発による加速によって回転していた三橋が俺の真上にいた。
……翼を羽ばたかせる隙すら無かった。
……三橋は高速回転の勢いそのままで脚を振り落とした。
「転蹴」
――俺の顔面に踵落としが炸裂した。
「……っあ!」
……その威力は凄まじく、俺は勢いよく地面に叩き付けられた。。
……全身に鈍痛が走り抜け、視界はフラッシュバックした。
……真白の翼も全て抜け落ち、まるで雪のように大地に降り注いだ。
そして、俺は……。
「眠れ、真白の戦士よ」
……地に墜ちた。
そのときになって初めて自分の過ちに気が付いた。
……一分以内で仕留める? 甘かった、奴は十秒で仕留めるオーバーペースで戦っていたのだ。その証拠に奴の脚から血がにじみ出ていた、恐らくあの異常な速度と馬力に脚の方が悲鳴を上げたのだろう。
……しかし、もう遅い。体はピクリとも動かないし、ギリギリで意識を保っている。
一方、三橋は脚から流血しているものの、俺よりか幾分か余裕があった。
完敗だ。覚悟も実力も俺は三橋に負けていた。
地にひれ伏す俺に留目を刺そうと三橋が歩み寄る。
「……すまない、御影」
俺はここにはいない御影に謝辞を呟いた。
「俺はここまでだ」
三橋は脚を振り上げ……。
「さよなら」
……そして、振り下ろした。
――ガキイィィィィィィィィン!
……何かと何かが激しくぶつかり合う音が響いた。
……顔すら上げられない俺の体に影が差した。
……俺はまだ生きていた。
「……貴方は何者ですか」
……新たな来訪者に三橋が神妙に問うた。
……同時刻、ロマンス三澤に留目を刺そうとした二階堂が突然の来訪者に、引き金を引く指を止め、三橋と同じ質問を来訪者にした。
……更に同時刻、ファラオに留目を刺そうとした一之瀬が突然の来訪者に、振り上げた振動ナイフを握る腕を下げ、二階堂と同じ質問を来訪者にした。
来訪者は揃って不敵な笑みを浮かべ、そして答えた。
「紅蓮の魂この身に宿し、
無限廻廊にその名を刻め」
「これが真実の
天上天下遺我独身」
「 エンドレスチェリーズだ 」
……遠藤桜・副島春日・新藤アラタ、三人が颯爽と登場した。




