表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/18

  第6話(後編)  『 T.雛崎VS生徒会VSエンドレスチェリーズ 』



 「やったね! 遂に決勝だね! ウハウハだね!」


 ……十二組との試合を終えた俺たちをお嬢がハイテンションに労ってくれた。


 「当然だ……だが、次の相手はそう簡単にはいかなさそうだぞ」

 「……?」


 俺はトーナメント表を横目に溜め息を吐いた。


 「四組と七組ィィィィ! ……って何がヤバいの?」


 ……知らないのに驚くなよ。


 「四組は大乗寺・薬師・アリスさんの混合チームだ、そう簡単に勝たせてはくれないさ」


 大乗寺の筋肉、薬師の頭脳、アリスさんの可愛さ……どれも驚異に為りうる存在だ。


 「じゃあ、七組は何が凄いの?」

 「……さあ?」

 「……」


 ……割りとどうでもいいので。


 「そういえば、夜凪もお嬢を見張っててくれてありがとな」

 「……別に、わたしはただ仕事をしたまでだ」


 第一試合と準決勝、レクレーションに参加していなかったお嬢の警護を夜凪に任せていた。俺がいないときに襲われでもしたら洒落にならんからな。それに……。


 (……夜凪の代わりの刺客が襲ってくる可能性もある)


 夜凪に雛崎ほたる暗殺を依頼した奴の素性は、隠匿されていた為に夜凪にもわからないようだが今現在お嬢が狙われていることはわかる。

 だからお嬢には俺か夜凪のどちらかが常に同行していた。今のところ特に異常は無いようだが。


 (……このまま何事も無く、行事を終えられればいいんだけどな)


 お嬢「……まさか競技中にあんなことがあるとは、誰も想像すらできなかった」


 フラグ立てるのはやめて!


 小日向「……まさか競技中に俺が死ぬとは、誰も想像すらできなかった」


 ……勝手に殺さないでください。


 ……そんな一抹の不安を覚えながらも、俺はサバイバル騎馬戦、決勝戦に挑むのであった。



 ――決勝戦……今回は俺と田中と藤原の騎馬に、お嬢が騎手となる組み合わせである。ちなみに、お嬢の護衛は俺がする為、夜凪は別の班の騎手として参加していた。


 「あっ、臭い! 何か臭うよ、しのぶくん!」


 本選開始直後、お嬢が俺の肩を揺らしてきた……ついでにお嬢の豊満すぎる巨乳も揺れた、揺れた、揺れた、揺れた……揺れ過ぎ。


 「臭いって、どんな臭いだ?」


 俺はお嬢の胸部を凝視したままテキトーに返答した。


 「うーん、もう一週間ぐらい洗っていない頭のような臭いかな」


 田中「ドキッ……!」


 「他には二週間ぐらい洗っていない足のような臭いかな」


 藤原「ギクゥ……!」


 「そっかー、大変だなー」


 俺はお嬢の胸部を凝視したままテキトーに返答した。


 ……そして、林を掻き分けて前進すること一分。


 「さて、早速お出ましかな」


 ――ガサッ、ザザザザッ


 「隠れてないで堂々と出てこいよ、俺は逃げも隠れもしねェぞ」

 「相変わらず口は達者だな、御影。まあ、戦えばどちらが上か判るさ、なあ――」


 足下の雑草を踏み潰し、姿を見せたのは……。


 「 アリス 」


 ……薬師とアリスのペアだった。


 「はい、主。すぐに片付けます」

 「そう簡単に行くかな?」

 「勝つよ、しのぶくん」

 「いや、残念ながらお前たちはここで敗北する」

 「……頭、痒い」

 「……足の裏、痒い」


 ……田中、藤原。ちょっと黙っててくれ。色々台無しだから。



 【遠藤side】


 ――俺の繰り出した拳と奴の繰り出した拳が交差した!


 「……っ!」


 俺は身を翻して騎馬の上に着地した。奴は枝の上に腰掛けていた。


 「この程度ですか、隊長?」


 奴――いや、七組の副島が不敵な笑みを浮かべた。副島はエンドレスチェリーズのアニメ担当だ。


 「……いやいや、まだこれからだよ」


 俺は強がりの笑みで返した。正直、〝封刃丸〟が手元に無いのは心細かった。


 「そうですか、なら――」


 ……副島がウォークマンの選曲を変えた。


 「――四倍速、四倍馬力でいきます」


 ――木の枝に腰掛けていた副島が消えた!


 ……副島の能力。それは鑑賞しているアニソンのテンポが速ければ速いほど加速し、自分の好みであればあるほど馬力が上がる肉体――〝音羽〟だ。

 しかし、強化しすぎるほど身体への負担が大きくなる欠点があった。


 ……ザザザザザザザッ! 木の葉が揺れる音が聴こえた!


 (……上か!)


 俺は上を向いた。


 ……そこには青い空と木々の緑が広がっていた。


 「後ろですよ」


 ――副島の右手が俺の頭に巻かれた鉢巻き目掛けて襲い掛かる……!



 【夜凪side】


 ――圧倒的な筋肉がわたしに襲い掛かった。


 しかし、剰りに遅すぎる。わたしが負ける要素は無い。

 わたしは木の枝から別の木の枝へと飛び移り、筋肉の攻撃をかわした。


 「やるな、忍者女」


 筋肉が不適な笑みを浮かべた。忍者女……それくの一じゃないのか?

 相手の筋肉は肩に女子生徒を一人乗せて、騎馬は単騎で動いていた。通常、一人じゃ大した動きはできないが、あの尋常じゃない筋肉量が素早い動きを可能にしていた。


 「夜凪さん、騎馬に乗らなくて大丈夫か?」

 「心配はいらない、この筋肉はわたし一人で倒す」


 ……一方、わたしは騎手であるが単騎で行動していた。闇隠れの里出身の忍は白兵戦闘と気配隠蔽を得意としている、足を着けずに闘うことなど朝飯前だ。


 「一人で倒すだと……」


 筋肉が凶悪な笑みを浮かべた。


 「面白い、やってみろ!」


 ……その瞬間、筋肉の筋肉が爆発的に膨れ上がった!



 【季瀬side】


 「俺はこの子を助けたい!」


 俺の判断に驚いたのか、雪那が俺に詰問した。


 「いいの? その子はこの世界を亡ぼすかもしれないのよ。貴方に世界を亡ぼす覚悟はあるの?」


 ……雪那の言い分はもっともだ、至極正論だ――だがな。


 「世界は亡ぼさせねェ、この子も助ける」


 目の前で泣いている女の子を見捨てられほど、俺の心は凍っちゃいねェんだよ。


 「……詭弁ね」

 「詭弁で何が悪い」


 ……呆れる雪那に俺は想いの丈をぶつけてやった。


 「これが俺の正義だ!」



 【しのぶside】


 ……【季瀬side】いらねェよ。てか、コイツいつも世界の為に戦ってんな。ありがたや。


 「しのぶくん、来るよ!」


 ――アリスさん右手が遥か前方から射出された!


 まさにロケットパンチ、間接と間接の間に極太ワイヤーが延びており、お嬢目掛けてアリスさんの右手が襲い掛かった。


 「右旋回! 攻撃をかわすぞ!」

 「「おおっ!」」


 俺の指示に田中と藤原が応え、アリスさんのロケットパンチを回避できた。


 「よしっ」


 ……ガシッ、射出されたアリスさんの右手が俺たちの後ろに伸びる木の枝を掴んだ。


 「まずい! 全力で距離を空けろ!」


 俺が叫んだ途端――


 「遅いですよ、しのぶ様」


 ――アリスさんが伸ばした腕を伸縮して、急接近した!


 「お嬢! 頭下げろ!」

 「うん!」


 ――ブンッ! すれ違い様に繰り出されたアリスさんの左手を、お嬢は頭を下げて辛うじてかわした。


 「甘いな」


 ……薬師が笑った。


 「撃て、アリス」

 「了承」


 ――すれ違い様のアリスの口から煙幕が吹き出した!


 ……一面、真っ白になった。


 何も見えない。

 これでは、ただでさえ変則的なアリスさんの攻撃を回避するのは困難だ。


 (……落ち着け、御影しのぶ)


 俺は瞼を閉じて、精神統一をした。


 ……研ぎ澄ませ。鋭利なナイフのように、匠によって鍛えられた日本刀のように……。


 ――研ぎ澄ませ!


 (……今までもこんなことは何度もあった筈だ)


 俺は振り返る、今までを、今までの戦いを……。

 俺は閉じた瞼を開いた。


 「……よし、これから俺が出す指示に聞き逃さず応えてくれ」


 「「「……っ!」」」


 三人が俺の方を見た。


 「……できるの?」

 「任せろ」


 ――ザザザザザザザッ! 木の葉が揺れる音が聴こえた!


 「騎馬! 後退!」


 雛崎班は一歩後退した――その瞬間!


 ――目の前でアリスさんの腕が振り抜けた!


 しかし、アリスさんは片方の手で枝を掴み、空いた手でお嬢の鉢巻きを狙った。


 「お嬢! 右! 左! 頭を下げろ!」


 お嬢が俺の指示通りに動き、アリスさんの繰り出した手が空振りする。


 「騎馬は左へ旋回!」


 ――右方向にアリスさんの蹴りが突き抜ける!


 「お嬢! 左! 動くな! そして、元に戻して――」


 お嬢がアリスさんの攻撃を回避する。


 「――右手を振り抜け!」


 ――アリスさんは辛うじて、お嬢の反撃をかわした。


 「凄いよ、しのぶくん! どうして見えないのに反応できるの!」


 お嬢が称賛の声を向けてくる。


 ……こんなの簡単だ。いや、簡単と思えるほどに今の俺は――進化していたのだ。


 何故なら経験してしまったからだ。

 暗闇から超高速移動で迫り来る、夜凪りせ。

 意識が飛びそうになるほどに目映い光を放つ、〝閃光〟の高橋。

 その二人との戦闘が、俺に察知能力を覚醒させてくれたのだ。

 今の俺は誰にも負けない……!


 「お嬢! 左! 右! 頭を下げて――」


 お嬢は繰り出されるアリスさんの攻撃を回避する……ふむ、お嬢の運動神経が高いのも嬉しい誤算だな。


 「騎馬全員! 全力でジャンプしろ!」


 お嬢を担いでいる上に田中と藤原は一般人だ。あまり高くは跳べないが充分だった。


 ――俺たち騎馬を転ばそうとした、アリスさんの下段蹴りが空を切った。


 ジャンプしてしまったせいで騎馬は散開してしまったが、お嬢が俺に肩車されているからセーフだ……それより!


 ……今だ!


 俺は鼻からできる限るの空気を吸い、下を向いて印を結んだ。

 そして、一瞬の内に肺胞内の空気に気を練り込んだ。


 (……喰らえ!)


 ――風遁、風旋弾の術ッッッ!


 ……俺の口から吐き出された突風は地面に炸裂し、周囲に充満した煙幕を吹き飛ばした。

 そして、俺はすかさず別の印を結んだ!

 煙幕が晴れた! あとはアリスさんから鉢巻きを奪うだけ!


 ――足下に影が差した。


 「油断大敵ですよ」


 ……アリスさんが俺たちの真上にいた。


 (……気配が移動していたからわかっていたさ。だから――)


 「……偽者!」


 ……影分身をお嬢に変化させて背負っていたんだ! そして、本物のお嬢は――


 「上だよ!」


 ――アリスさんが俺の上を取る寸秒差に上空に押し上げていたんだ!


 「行け、お嬢ォ!」

 「……っ!」

 「とりゃあぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ――お嬢がアリスさんの鉢巻きを奪った。


 「……やった!」


 ……落下するお嬢が両手を挙げて勝利を喜んだ。


 その気持ちを俺も一緒だった。ギリギリの勝利だ、嬉しくない筈は無かった。


 ――空中にいるお嬢の鉢巻きを、一筋の残像が奪った。


 「「……っ!」」


 ……しまった! アリスさんを攻略して油断していた!


 「潰し合いご苦労様」


 ……鉢巻きを奪った張本人――副島が不敵な笑みを浮かべた。


 「……最初から狙ってたのか?」


 俺は落下するお嬢を受け止めて、副島を睨み付けた。


 「まあね、隊長から鉢巻きを奪って、次の獲物を捜していたんだ。そして、君たちが見付かった」


 ……遠藤を倒すほどの実力者か、こりゃあ完敗だ。


 「じゃあね、またどこかで会お――」


 「それ返して」


 ……夜凪が副島の背後にいた。


 「……っ!」


 ――夜凪が繰り出した右手を副島は辛うじてかわした。

 ……そして、両者別々の木に着地した。


 「……驚いた、騎馬無しでここまで動けるなんて」

 「余裕だな、すぐに黙らせてやる」


 ――剰りの速さに二人の姿が消えた!

 ……それはともかく。


 「お嬢、帰るぞ」

 「……えっ? 二人の試合見ていかないの?」

 「はあ? ルールで鉢巻き取られたチームは速やかに退場しろとあっただろ」

 「意外に真面目だ!」


 ……失礼だな。


 「喰らえ! シラミボンバー!」


 ……今更使うの、その技。


 「なあ、御影。俺も水虫にちなんだ必殺技とかあった方がいいかな?」


 ……知らねェよ。


 「じゃあ、〝水虫の人が使った上履きの靴底擦り付け攻撃〟とかどう?」


 ……やめろ(切実)。


 「採用!」


 採用しちゃった!


 夜凪・副島「「ちょっと静かにして! 試合に集中できないから!」」


 ……失礼しました。



 【理科の吉田side】


 ……僕は教師です。そして、教師には逃げてはならない戦いがあるんです。


 「……ほっ、〝焔〟くん。〝焔〟くんはレクレーションしないんですか」


 僕は声が震えそうになるのを必死に堪えながら、キャンプ場で寝転がる〝焔〟くんに話し掛けました。


 「zzzzzz」


 ……しかし、〝焔〟くんは起きませんでした。僕はマラカスを握ってリベンジすることにしました。


 「ほーむら、ほーむら、ほーむらくん♪ おーきて、おーきて、とにかく起きて♪」ジャラジャラジャラジャラ

 「zzzzzz」


 ……起きませんでした、なので僕はタンバリンを持ってリベンジしました。ついでに〝焔〟くんの周りをグルグル回りました。


 「ほ・む・ら! ほ・む・ら! ほむほむほむほむ! ほ・む・ら!」パーン! パーン! パーン!


 「やめろ、殺すぞ」


 ……起きた。

 怒られた僕は無言で一人雑木林に影に身を潜めました。そして――


 「恐かったよぉぉぉぉ! 助けてママー! パパー!」


 ……泣きました。

 ……涙が枯れ果てるんじゃないかと思えるほどに――泣きました。

 ……タンバリンを鳴らしながら。パーン! パーン!



 【夜凪side】


 ――わたしの上段蹴りと副島の上段蹴りが交差した。


 (……互角か、ならこれなら!)


 わたしは宙に浮いた状態で正拳突きを打ち込んだ――がガードされた。


 「まだまだァ!」


 更に空いた手で一突き――するもかわされた。ならば!

 わたしは突きを放った勢いで回転し――


 「これならどうだ!」


 ――回し蹴りを横面に叩き込んだ!


 副島は弾かれるも、地面でワンバウンドし、ハンドスプリングの要領で跳躍した――〝わたし〟の頭上へ!

 副島は空中三回転した勢いを生かして〝わたし〟に踵落としを叩き込んだ。


 ――〝わたし〟が飛散した。


 「……分身……です――がっ……!」


 副島の上空を取った本物のわたしは奴の後頭部に回し蹴りを叩き込んだ。

 副島は吹っ飛ばされるも靴裏のボタンを押さないように地面を転がった。


 「何故」


 ……空気が変わった。


 「僕の鉢巻きを奪わず、蹴りを入れた」


 副島は笑っていたが、おびただしいほどの殺気がわたしの胆を冷やした。


 「……咄嗟に体が動いただけだ、次は貴様の鉢巻きを奪う」

 「……次?」


 ……副島は笑った。


 「次は無いよ」


 ――副島がポケットに手を突っ込んだ!


 「……僕の〝童術(どうじゅつ)〟は〝音羽(おとばね)〟」


 ……風が副島を中心に渦を巻く。


 「好きな曲であればあるほど強く、テンポの良い曲であればあるほど速くなる……そんな〝童術〟だ」


 …………………………………………――カチッ


 「……八倍速……八倍馬力」


 ……来るッッッ!


 ――副島の姿が消えた! その瞬間!


 ――副島が目の前にいた。


 (……腕の力だけでここまでスピードを!)


 ……だが、反応できない速さではない! わたしは奴の攻撃をかわして、別の枝に飛び移った。


 ――既に副島はわたしの真横にいた。


 「……っ!」


 副島が腕を振り上げた。


 ……回避は間に合わない。


 ――ドンッッッ、重い拳が腹に直撃したわたしは宙に弾かれた。


 鈍痛が全身に駆け巡った。

 宙に浮くわたしは迫り来る気配を感知し、咄嗟に印を結んだ。


 ――わたしの真上に、既に拳を構えている副島がいた。


 (……風遁!)


 わたしは気を練り込んだ空気を突風に変えて、吐き出した。


 風旋弾の術!


 ――わたしは突風を推進力に副島の正拳突きをかわした。


 寸秒差で副島の正拳突きが地面に炸裂した――。


 ――ズドォンッッッ! 衝撃で地面が抉れ、衝撃の中心から風が吹き抜けた!


 (……化け物め!)


 わたしは心中毒づいた。そして、思わず目を見開いた。


 ……副島の鼻から鮮血がこぼれ落ちたのだ。


 「……ぐっ、肉体が悲鳴を上げているな……やはり八倍はキツかったか」


 どうやら奴のドーピングにはそれなりのリスクがあるようだ……ならば、やることは一つだ。


 ――影分身の術!


 ……わたしは分身を三体召喚した。


 (……手数を増やして体力を消耗させてやる!)

 「こうなったら」


 副島が鼻血を拭った。


 「少し無理してでも早めに片付けないとな」


 ――十六倍速! 十六倍馬力!


 「……えっ?」


 ――9.999


 ……風が吹いた。

 ……反応できなかった。

 ……影分身が一つ消えた。


 「散開ッッッ! 全力で距離を空けろッッッ!」


 わたしと生き残ったわたしの分身ニ体は瞬時にバラバラに散った。

 ……速すぎた。まるで反応できなかった。奴は化け物だ。


 ――6.229


 ……また分身が一体やられた。

 駄目だ! 逃げ切れない!

 わたしは死に物狂いで茂みに飛び込んだ。


 ――4.024


 ……最後の分身がやられた。

 来る! 副島が鼻血を流し、全身の血管を浮かび上がらせながら迫って来る!

 ……逃げられない! そう判断したわたしは印を結んだ。

 そして、肺胞中の空気に気を練り込み、吐き出した。


 ――風遁、風旋弾の術ッッッ!


 からの……!

 突風は目の前の木の葉を吹き飛ばし……。


 ――木の葉隠れの術ッッッ!


 ……バサッ! 大量の木の葉が乱れ散った。


 「……何っ!」


 ――2.444


 (……体内の気も尽きた、後は全力疾走だ!)


 足を使わずに、枝から枝へと飛び回る。後ろを振り向く余裕は無い、ただ全力で前進した。


 ――1.332


 ……ザザザザザッ! 背後から副島が迫る音が聴こえた。


 だが遠い! これならすぐには追い付かれな――


 ――0.422


 ……副島がわたしの真上にいた。


 (……速い!)


 副島が拳を振り上げた……!


 ――0.000


 「……」

 「……」


 ……副島が力尽きて、地面に落下した。

 わたしは逃げる足を止めて、地面に横たわる副島の方へ向かった。

 ……副島は鼻血を流しながら失神していた。


 「……まったく、恐ろしい技だな」


 わたしは溜め息を吐き、副島の頭に巻かれた鉢巻きを確保した。

 ……その瞬間、試合終了を知らせるブザーが鳴り響いた。


 「……もう、こんな時間だったか」


 副島との戦いは熾烈を極め、時計を確認する余裕は無かった。

 わたしはボタンを外し、副島を背負ってキャンプ場へ向かった。


 「……さて、結果はどうなったか」


 勝敗は鉢巻きの総取得数で決まる、のでキャンプ場に戻って集計するまで結果はわからないのだ。


 ……茂みの奥、何者かが横たわっていた。


 「……他にもコイツみたいに無茶をした奴がいたのか」


 呆れたわたしは横たわる生徒の方へ歩み寄った。


 「……っ!」


 そして、絶句した。


 ……田中と藤原、そしてしのぶが満身創痍で横たわっていたのだ。


 「いない」


 ……そう、いないのだ。



 ……ほたるちゃんの姿がどこにも。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ