命を奪う権利
「クライド、何をしている?」
どこからともなく、気配もなくクライドの後ろに黒いローブ姿の男が姿を現す。
こいつは……。
「リーダー!?」
クライドは突如現れた人物、漆黒の執行者のリーダーと呼ばれる男が現れると、さっきまでの意気込みは消え、少し焦ったような感じで言葉に反応する。
「私はメンバーの強化を命じていたはずだが?」
リーダーと呼ばれる男は、ローブのフードによって顔は見えないが、そのフードから鋭い眼光でクライドに問いかける。
「ち、ちがうんです! サラの野郎が裏切りやがってその……」
さっきまで威勢の良かったクライドが態度を一変させおびえながら男に言葉を返す。あれほど強いクライドがここまで怯えるとは……。
男は黙ってクライドの話を聞いている。
どうする? この隙に逃げるか……?
一瞬この間に逃げようかと思ったけど、俺の身体が動く事に対して警鈴を鳴らしている。
「そうか」
リーダーという男は一言そう言うと俺の方へと向き、俺と男の目が合う。
ローブを被っているから顔は分からないけど、そのローブから垣間見える目は恐ろしく冷たい感じで不気味だった。
「……」
男は何を言うでもなく、俺を見据える。
「こいつがサラの野郎を倒したみたいです! それできっとサラにいらない事を吹き込みやがったんに決まっている! サラの奴、あのチビ野郎を連れて逃げやがって!!」
クライドがリーダーという男に言い訳するように告げる。
男は俺を見たままクライドの言う事を聞いていた。
どうする……? 今のうちに逃げるか?
……その方がいいかもしれない。
今ならクライドがあんな感じだし、隙はある。
さすがに二対一じゃ分が悪いし今回の目的はカナタの救出だ。
その目的は達成できたし、俺はまだここで死ぬ訳にはいかない。
もちろん、ユーリを襲ったこいつらは許せないけど、無茶して死んだらユーリとの約束も守れない。
ここは無理せずいずれ……。
俺はクライドが男に話しかけている間に隙を突いて逃げようと動き出す。
「――っ!? あいつっ!!」
俺が動き出したのに気付いたクライドが俺を見て叫ぶ。
でも、もう遅い。
俺のスピードとクライドのスピードでは俺のほうが上だ。
それに、動き出した俺と動く体勢になっていないクライドではスピードの乗りも違う。
黒いローブの男は魔法使いだから身体能力は高くないはず……。
いけるっ!!
俺は最後に二人を見ると前を向いて駆ける。
このまま逃げてノアたちと合流――。
「グハッ!!」
突如俺の背中に衝撃と激痛が走る。
いったい何が……?
HPゲージを確認するとクライドとの戦いで三分の一程削られていたのが半分くらいまで削られている。
後ろを振り返るけど、黒いローブの男もクライドもそのままの場所にいる。
何が起きた? 魔法か?
でも、詠唱は聞こえなかったしそんな時間もなかったぞ……?
「待て」
黒いローブの男はそう言うと、クライドを後ろに引き連れゆっくりとこっちに向かって歩いて来る。
くそ……この状況はヤバイ……。
俺は痛む身体に命令して立ち上がり、エアリアルの剣先を二人に突き付ける。
これ以上、二人を近寄らせるのはまずい。
すると、男は立ち止まりクライドもそれに合わせて立ち止まる。
クライドが男に、「俺がケジメつけて殺ります」と言ったが、男はそれを手で制する。
クライドはそれに素直に従い引き下がった。
「おい、おまえ」
男は俺に向かって声をかけてくる。
なんだ? 話をする気か……?
……ちょうどいい。話をしながら身体の痛みが引くのを待ちながら隙を伺うか。
「……なんだ?」
俺は男を見据えながら言葉を返す。
俺に問いかけてくるという事は、きっと話をするつもりだとは思うけど、こいつらはPKプレイヤーだ。
どこかのタイミングでいきなり攻撃してこないとも限らないし、油断はできない。
「私たちの仲間にならないか?」
「っ!?」
「リーダー!?」
何だ? こいつ、何を言ってるんだ?
俺があいつらの仲間にだって?
男は俺と同様に驚いたクライドを手を上げ制止させ話を続ける。
「私たちは強い仲間を探している。見たところ君はクライドと同等くらい強そうだ。どうだ? 私たちと一緒に来ないか?」
……こいつ何を考えている?
俺は無言で男を見据える。
「私はこのWOFこそ、命の本質を表していると思う。このゲームはゲームであってゲームでなくなった。ここでの死は現実世界での死。そうなった時に人はどうした?」
無言の俺に向かって男は話始めた。
「泣き、喚き、自ら死を選ぶ者もいた。まだ生きているのに……だ。この世界において生きているのであれば、希望はある……なのに人々は絶望した。なぜだか分かるか?」
確かにこの男が言っている事は一理ある……でも、なんでこんな話を?
「……いや、分からないな」
とりあえず、向こうが勝手に話してくれるなら何を考えているのか知る良いチャンスだ。
それに、ダメージを受けた痛みを取る為には時間が欲しい。
「死を意識したからだ。このゲームの世界において初めて死を意識したから死が怖くなった。それで絶望した……現実の世界でも死は常に隣り合わせにあるのに……だ」
……確かにそうかもしれない。
現実世界では死なんて考える機会はなかった。
ここに来て初めて死を身近に感じ、死に対する恐怖を感じるようになった。
でも……。
「……だったらお前はなんでプレイヤーを殺す?」
男の言う事は分かる。
でも、だったらなんで男はプレイヤーを殺す?
それこそ意味が分からない。
「……現実世界で死を身近に感じなくなった人々はどうしている? 人を殺す事も躊躇わない人間が増え、自分の命を軽視する人間も増えた。そう、死が身近なものでないからだ。しかし、死を身近に感じたらどうだ? ここに来て人の死を目の当たりにした途端、人は手のひらを返したように命を大事にするようになった。言わばこれは神による天罰なのだ。人々が命を粗末にしてきた人間へのな。そして、我々漆黒の執行者はその意思を引き継ぎ神となって裁きを下さなければならない」
狂ってる……こいつは狂ってる!
「何が神に代わって天罰を下すだ!! お前がやっている事はただの人殺しじゃないか!!」
確かに現実の世界では死を考えた事なんてあまりないかもしれない。
それで人を殺したりする人、自ら命を絶つ人もいただろう。
でも、そんな人間ばっかじゃない。
それでも、自分の目標を持って頑張っている人もいた。
こんなWOFの世界に閉じ込められてもいつか現実世界に戻って夢を叶えようとした人もいた。
人をみんな一緒に考えるなんて間違っている!
そもそも、勝手に神に代わって天罰を下すとか言っているけど、やっている事はただの人殺しだ!
「……愚かな。我々がやっている事はただの人殺しではない。神に代わり天罰を下しているだけだ。おまえには分からないのか?」
「あぁ分からない! 確かに今まで死なんて考えた事なかった。おまえの言う通り現実の世界ではそういう人もいるだろう。でも、みんながみんなそうじゃない! それに人の命を勝手に奪う権利なんて誰にもない!」
「……そうか。残念だ。ならここで死ね」
男がそう言うと、後ろで立っていたクライドが、「ここは俺が」と言って前に出てくる。
そして、リーダーの男はクライドの後ろに回る。
「へへへ、さっきの続きをしようぜ?」
クライドはニヤリとしながら剣を構える。
そして、リーダーは後ろに立ちこちらの様子を見ている。
どうやらクライドに任せて帰ると言う訳ではないようだ。
くそ、二人同時に相手か……クライド一人でも厄介なのに……どうする?




