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ビジョン・アイ

「ちっ、せっかく楽しいところなのによ!!」


 ノアやサラ達がこの場から離脱しようと動き始めると、その様子にクライドが気づいた。

 そして、視線をノア達に移し、体重を傾けそちらへ向かおうとする。

 

「おまえの相手は俺だって言ってるだろ!!」


 その様子を見た俺は、さらにギアを上げ全力でエアリアルを振るう。


「くっ……!」


 さすがのクライドも俺の全力のスピードにはついて来れないのか、完璧には捌けず、エアリアルがクライドの腕や胴体部分に当たり、HPゲージを減少させる。

 そして、俺のスピードに対応できないと思ったのか、クライドは地面を蹴り後方へ飛び距離を取る。


「ちっ、ここまでとは……力を隠してたのはタイミングを計ってやがったな?」


 クライドは俺を見据えてながら俺に問いかけてくる。

 俺はその問いに答えずに、ノアやサラ達の様子を見る。

 ノアを先頭にラウルがカナタを抱えサラが最後尾を走っている。

 そして、サラは時折、心配そうにこちらを振り返っている。

 ノアは俺を信じてくれているのか、早くカナタ達をフライヤさんのところに連れて行ってから戻って来ようとしていているのか分からないけど、前だけを見て走っている。

 普段は天然なところがあるけど、こういう時は頼もしい。

 今やらなければいけない事に集中してくれている。

 そして、みんなの背中が小さくなっていく。


 これだけ、距離が離れたら一応安心だろう。

 俺はほっと胸を撫で下ろす。


「……まさか俺相手に囮になるとはな……」


 クライドは去っていくサラ達の背を見ながら忌々しいといった感じで俺を見据える。

 それでも、サラ達を追わないのは俺相手に背を向ける事が危険だと思っているのだろう。

 といういう事は、クライドはまだ全力ではないかもしれないけど、俺に対して余裕というわけでもないようだ。

 

「囮? 俺はここで死ぬつもりはないぜ?」


 そう、俺はここに残ったけど、それはあくまでみんなを無事に逃がすためだ。

 ユーリとの約束もあるし俺はまだ死ねない。

 俺はこいつを倒して先に進む!!


「ほう、たいそうな自信だな。サラ達を逃したんだ……せいぜい俺を楽しませてくれよ!!!!」


 クライドはそう言うと俺へと詰め寄り剣を振るう。

 俺はクライドの攻撃をを受け流し対応するけど、一撃、二撃、三撃と剣を振るう毎に徐々にクライドの剣の威力が上がってくる。


「ふははは! おまえ最高だな!! もっとだ、もっと俺を楽しませてくれ!!」

「くっ!」


 徐々にクライドの剣の重みに耐えきれなくなった俺は、足を止めたままの戦闘では分が悪いと思い、後方へと飛び距離を取る。


「あれは……」


 距離を取って、クライドを見るとクライドの周りに赤黒いオーラが漂っている。

 なんだあれは……なにかのスキルか……?


「いいぜ……いいぜおまえ!!」


 クライドは剣を構え、獰猛な顔で俺を見て叫ぶ。

 自分の命がかかっているってのにこいつ戦闘を楽しんでやがる……狂ってる……。

 

 俺はクライドの異常さを感じながらも、クライドの攻撃を受けに回っていたのでは分が悪いと思い、自ら動きクライドへと詰め寄る。


「うぉぉぉぉぉおおおおおお!!」


 俺は一気に勝負を付けるべく、全力でクライドへ剣を振るうが、クライドはすべてを捌けないまでも、要所要所で自らのダメージを覚悟の上でカウンターを入れ、俺が数発攻撃を入れて与えたダメージを、クライドは一発で俺に与えてくる。

 くそ……このままじゃ埒があかない……あれを使うか……。


「ビジョン・アイ!」 

 

 俺は心の中で叫び、懺悔の涙で手に入れたスキルを発動させる。

 このスキルはサラの時にも使ったけど、対人戦闘において相手の行動の一秒先を読むことが出来る。

 しかし、効果は一分間でリキャストタイムが一時間ある為、使いどころが大事だ。

 

 クライドとの戦いは互角といったところだけど、時間がかかればリーダーという男が現れる可能性もあるし、ノアもまたここに戻ってくるかもしれない。

 だから、早く勝負を決する必要がある。


 俺はビジョン・アイを発動させ、クライドの動きを注視する。

 よし、クライド相手でもビジョン・アイは発動する。


 俺はビジョン・アイで見えるクライドの動きを見て、先回りして動く。


「くっ! なんだ……急に動きが変わりやがった……」


 俺に攻撃が当たらなくなったこと、そしてクライドの動きに合わせ俺がすべてカウンターを放っている事に警戒したクライドは俺から距離を取る。

 しかし、俺はそうはさせないと詰め寄ろうとしたところでクライドが、「まさかおまえ……」と呟く。

 俺はその言葉に何か危険を感じ、動きを止める。

 すると、クライドが口を開く。


「……ビジョン・アイ」

「っ!?」

「ふははは! まさかおまえがビジョン・アイを使えるとはな!! おまえも俺達と同じ同類じゃねぇか!」


 まさかクライドもビジョン・アイが使えるのか!?

 ……いや、使えてもおかしくないか。

 ビジョン・アイは対人戦闘用のスキルだ。

 取得条件は詳しく分からないけど、対人スキルという事は対人戦闘においてのなんらかの条件があるはず。

 だけど、サラや今まで戦ったPKプレイヤーは取得している気配はなかった。

 きっと対人戦闘におけるなんらかのなかなか普通では獲得できないような条件があるのだろう。

 でも、クライドはPKギルド漆黒の執行者の幹部……そう考えるとこのスキルを覚えていてもおかしくない……。


「なんだその顔? まさか俺がビジョン・アイを使えるのが意外だったか? 俺はおまえが使える方が意外だったけどな。このスキルは対人戦闘……つまりプレイヤー同士の戦闘で相当の経験をしないと取得できないようだからな。しかもこのスキルはあの悪夢の日以前には確認させていなかった。それをおまえが取得している方が驚きだぜ。俺達のギルドでもまだ俺とリーダーしか取得してないってのによ。……おまえ何者だ?」


 俺はクライドの問いかけに無言を貫く。

 懺悔の涙の話をする訳にはいかないし、なにより今は対人戦闘の切り札のビジョン・アイが効かない。その状態でどうやってこの状況を打破するか……。

 このまま膠着状態になるのは、俺によってはよくない展開だ。


「……だんまりか。まぁいい。俺は楽しめたらそれでいいからな。だから、もっと俺を楽しませろよぉぉぉおおおおお!!!」


 クライドは叫ぶと同時に俺に向かってくる。

 ビジョン・アイを発動している効果でクライドの動きが一秒先の行動が残像のように見えるけど、俺がそれに対して動こうとするろクライドの残像の動きも変わる。

 たぶんクライドも同じように映っているだろう。

 その結果、俺とクライドは残像に対しての動きではなく、目の前に映る今の動きに対して動く事になり、スキルを発動する前と同じ状況に戻ってしまう。


「くっ……」

「おらおら!! もっと楽しもうぜ!!」


 クライドに対抗するため、俺も全力で剣を振るうけど、さっきまで同様クライドはすべてを捌けないまでも、要所要所で自らのダメージを覚悟の上でカウンターを入れ、俺が数発攻撃を入れて与えたダメージを、クライドは一発で俺に与えてくる。

 ……いや、さっきまでよりも少し受けるダメージが増えてきている気がする……。

 それに奴を纏う赤黒いオーラが少し大きくなった気もする。

 俺はクライドと剣を交えた反動を利用して距離を取る。

 なんだ……? なんのスキルだ?


「いいぜおまえ!! もっと戦おうぜ!!」


 そう言ってクライドは剣を構えなおし、俺に剣先を向ける。

 くそ、何か手は……。


 その時だった。


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