漆黒の執行者の拠点
俺達はサラを先頭に漆黒の執行者が襲撃した場所から南へと向かっている。
サラが言うには、詳しい事までは知らないらしいけど、漆黒の執行者は現在分かれて活動しているらしく、サラのいたパーティーはリーダーと言われるあの黒いローブの男がいないけど、クライドが同行し、弟であるカナタを見張っているらしい。
そして、今はさっきの襲撃地点から南に向かったところを拠点にしているらしい。
サラは自分が処分されなかった事について「本当にいいのか?」と聞いてきたけど、俺はその問いに「それはおまえのこれからの行動次第だ」と答えた。
現に、今も太陽の導きのメンバーはサラの事を睨んでいるし、フライヤさん以外の応援にかけつけてくれたプレイヤーは警戒を解いていない。
俺がしたのはただきっかけを作っただけだ。あとは本人次第だしもしかしたら俺の思い違いかもしれない。でも、ここまで罠らしい罠もなく、順調に来ているしサラも逃げ出す素振りや俺達に攻撃してくる気配もないから俺はサラの事を信用できると思っている。
「なぁ、一つ聞いていいか?」
「ん? なんだ?」
前を歩いていたサラが、突然口を開き俺に問いかけてくる。
その声は小さく、俺達の後方を歩くフライヤさんには聞こえないだろうけど、俺やノア、ラウルには聞こえるくらいの声だった。
でも、ノアとラウルは黙って何を反応する間でもなく、自然と歩く。
「なんでおまえは私の話を信用したんだ?」
なんで信用した……か。
「おまえは俺と似ているんだよ」
「えっ……?」
サラは振り返りビックリしたような顔を見せたけど俺は「ほら、前を見ろ。変な疑いをかけられるぞ」と言って前を向かす。
そして、サラに前を向かせて俺は話し始めた。
俺がこのWOFに来てから目の前で多くにプレイヤ―が死んだのを見てきた事、そして俺は遠征隊でペアを組んだ相手……ユーリを守れなかった事、それからの俺が心を失って自暴自棄のような感じになり、ただひたすら力を求めた事、でも懺悔の涙でユーリとちゃんと別れをすませ前を向いて進む事にした事……なんでこんな話を自分からしたか分からないけど俺はサラに話した。
「だから、俺とはちょっと違うけど弟を守る為に何もかも犠牲にしようとしている姿を見てほっとけなかったんだよ」
そうだ。
あの時の俺も何もかもを犠牲にしてでも力を求めて強くなろうとしていた。それに懺悔の涙の話を聞いた時は自分の命を危険に冒してでもユーリを救おうとした。
あの時の俺は一人で何もかもしていたと思っていたけど、それは違う。
実際の俺はフライヤさんやノア、そしてラウル、たくさんの人が俺を心配して見守ってくれていた。俺はそう、みんなに助けられて今ここにいる。
今のサラは昔の俺だ。
一人で何もかもしようとしているけど、それは絶対無理だろう。
そして、こいつは自分を犠牲にしても弟を守ろうとするだろうけど、それでもしサラが死んだとして弟のカナタはどうだろうか?
俺は残された者の辛さは良く分かっている。
だから、弟を救うだけじゃなくてこいつ……サラも救わないと本当の意味で弟であるカナタを救う事にはならない。
俺は目の前にある命は救うと決めた。
ならば、カナタを救うという事はサラも救わなければならない。
そして、今ここにいるサラには誰かがついていないといけない。
俺のそばにいてくれたノア達のように……。
「そうか……おまえもいろいろあったんだな」
サラはそう言うとそれ以降、口を閉ざした。
そして、俺も何を話しかけるまでもなく、ただひたすら目的地に向けて歩いた。
―――――
「あそこだ」
襲撃地点から歩く事、一時間弱だろうか?
サラが言う場所は森の中にある洞窟だ。木々に囲まれているためにあまり目立ってはいない。
本当はもっと早く辿りつけたかもしれないけど、辺りに漆黒に執行者のプレイヤーがいないか警戒しながら来た為、時間がかかった。
「やけに静かだな」
俺の呟きに隣にいるノアとラウルも頷く。
漆黒の執行者が俺から逃げて帰って行ったとすると、もっと警戒していてもいいだろうし、もっと騒がしくなっていてもおかしくはない、それなのに、静まり返っている。
「もしかしたら私が戻らない事に危険を感じて、場所を変えたのかもしれない……」
サラは少し焦ったような表情で言葉を口にする。
確かにサラの言った可能性は十分に考えられる。サラたちが太陽の導きを襲撃してからそれなりに時間も経っているし、逃げて行った漆黒の執行者のプレイヤーもいる。
そいつらがクライドに報告していれば、太陽の導きのプレイヤーで生き残って逃げた奴がいるという事も知っている奴もいるし、俺という強いプレイヤーが現れた事も伝えているだろう。それに、最後にサラが残ったのも知っているはずだ。そのサラがこれだけ時間が経って戻らないとすれば、襲撃地点からそう遠くないこの場所にずっといるのは危険だと判断してもおかしくない。
「遅かったか…」
くそ、遅かったか……。もう少し早く来れていれば……さてどうする?
フライヤさん達も後方で様子を見ているし、説明しに行くか?
でも、それじゃあサラは……。
「クライドさん待ってください!!」
「うっせぇ!! あのサラが負けるって程強い相手と戦えるなんてチャンスは早々ないだろ!」
クライドッ!!
声が聞こえたかと思うと、出てきたのは俺が逃したプレイヤーとクライドであり、
俺の脳裏に懺悔の涙の時に幾度となく手を合わせた相手の顔が浮かぶ。
ユーリを殺した漆黒の執行者の主要人物であるクライド……あいつの顔を忘れるはずがない!
あいつの顔を見た俺は心に火が点く。
「で、でも、それじゃ俺たちどうしたらいいんですか!?」
「そんなの知らねぇ! 自分でなんとかしろ!」
クライドと男が言い合っているのを聞くと、どうやらクライドはサラを倒した奴……つまり俺を倒しに行こうとしているようで男はそれをとめているようだ。
その様子からもしかしたら、洞窟の奥でこのようなやり取りがずっとあって、まだ周囲の警戒まで手が回ってなかったのかもしれない。
それにしても、クライドの奴……確かに戦闘狂のようなところがあったけどここまでとは……。
だけど、むしろこれは俺達にとっては都合がいい。
もし、クライドがここを去るのならそれはチャンスだ。
クライドを見逃すのはおしいけど、今の最優先はサラの弟の事だ。
クライドがこの場を去れば危険は減る。
「そ、そんな! でも、リーダーにはなんて言うんですか!?」
「リーダーには俺が説明する! 俺達が弱いと思われたらなめられるだろ?」
そう言ってクライドにはニヤリとする。
あいつ……この世界で死んだら終わりだってのに、なめられるとかそんなんで戦おうっていうのか……狂ってやがる……。
そんなクライドの様子に困った漆黒の執行者のプレイヤーは、何とかクライドを止めようと考えを一巡するような感じで、狼狽えながら考え、やがて何かを思いついたかのようにハッとして口を開く。
「そうだ! あのガキはどうするんですか?」
男は少しでも時間を稼ぎながら、クライドを説得する方法を考えているのだろう。
言ったそばから、心ここにあらずと言う感じで考え出す。
あのガキ……? まさか……!?
俺と同じ考えに至ったのか、サラはもちろん、ノアやラウルも固唾を飲んでクライド達のやりとりを聞いている。
あの男が口にしたガキって言葉……この状況でどうするかを聞くって事はサラの弟である可能性が高い。
そもそも、サラの話では漆黒の執行者に必要とされていたのはサラで、弟はサラを引き入れる為に人質に囚われたと言っていた。
もし、サラが死んでしまったとなったら最悪……
「あぁ、あのガキか……殺せ」




