涙の理由
俺は倒れた女へと歩み寄る。
今までのこの女の言葉、そして最後の姿……こいつは何か大きいものを背負っているに違いない。それに俺に言った『許せ』と言った言葉、あの言葉も合わせて考えると俺にはこいつはPKしたくてしていた訳じゃないように思えた。
だから、俺はこいつと話がしたい。こいつが何を背負っているのか――。
「俺の勝ちだな」
「……」
俺はしゃがんで言葉をかけるけど、女は俺の言葉に目を反らす。
どうやらやはり体は動かないようだ。多少でも動くならこの女は背負っている何かの為に俺に攻撃してきただろう。
でも、それをしてこない。
ということは、おそらくスキルによる代償か反動で自らの意志で身体を動かせないって事だろう。
「なぁ、何があった?」
俺は今の状況なら話が出来るのはないかと思い、言葉をかけるけど返ってきた答えは無言というものだった。
「もうすぐ援護に他のプレイヤーがやってくる。それまでにおまえの話の内容によっては、俺が口添えできるかもしれない」
「……」
「このままだとおまえ……どうなるか分からないぞ? いいのか?」
今までにPKプレイヤーを捕えた事はない。
もし、こいつが捕まればそれが初めてになるだろう。
きっとチーム内で話合いになるだろうけど、どういった処分になるかは分からない。
それこそ、裁判みたいになって死刑みたいな事も充分あり得る。
「お前がPK側の人間だっていうのは、他のプレイヤーも知っている。最悪――」
「殺せ」
女から出た言葉は『殺せ』という言葉だった。
こいつ……そこまでして何を隠す? 何を背負っている?
でも、このままじゃ絶対口を割らないな……。
「そうか……分かった。死んでから後悔するなよ」
俺はそう言葉を放ち、立ち上がってエアリアルを女の顔に向け構える。
そして、一気に振りかざす。
「――っ!?」
エアリアルの剣は女の顔のすぐ横に突き刺さる。
そして、エアリアルが降り降ろされる瞬間に目を瞑った女はゆっくりと目を開けた。
「……さっきまでのおまえは今死んだ。今のおまえはさっきまでのお前とは別人だ。だから、話してみろ。別人が話すんだったら問題ないだろ? それにさっきおまえが流した涙……何か理由があるんだろ?」
『殺せ』と言い俺がエアリアルを構えて振り下ろす瞬間、女は目から涙を流した。
俺は何も殺すつもりだった訳じゃなくて、その背負うものを残して逝く事を考え直して欲しかったんだ。
こいつがここまで背負うもの……何かは分からないけど、それは自分の命以上のものなんだろう。でも、死んでしまったら……どうする事も出来ない。
女も今までとは違い、目から涙を流してそれを止めようと歯を食いしばっている。
「死んでしまったら何も出来ない。お前が何を背負っているのかは分からないけど、俺に協力できることならする。……だから話してみろ」
女はしばらく堪えていたけどやがて決壊し、涙を流し嗚咽しだした。
俺はそれを何も言う事なく見守る。そして、一段落して女は自ら口を開いた。
「……カナタが……弟が人質に取られているんだ」
「っ!?」
弟が人質!? 漆黒の執行者はそんな事もしているのか!?
「……詳しく聞かせてくれ」
俺の問いに女は素直を頷き、話し始めた。
まず、この女の名前はサラという事、そして年の離れたカナタという弟がいて二人でログインしていたところ、あの悪夢の日を迎えたという事。
カナタは病弱で病室から外に出られないからこのWOFを通じて、外を経験させてあげようとしてこんな事態になり、サラはその責任を感じ、どんな事をしてもカナタを守ると決意したという事。
そして、あの悪夢の日から二人でこのWOFを生きているところに黒いローブの男が現れ、魔剣ティルフィングをやると言われた事、そして、断ったものの、そのティルフィングを置いて立ち去った為、カナタを守る為にその剣を手にした事。
それから、しばらくしてサラとカナタの前に黒いローブの男とクライドが現れ、漆黒の執行者に入れと言われ、それを断り二人を倒して逃げようとしたけど、クライドに歯が立たず、さっき使った『絶望の扉』という五分間、自分の能力を飛躍させるスキルを使ったけどクライドに勝てず、スキルの代償と痛みで気を失い、次に目を覚ました時はカナタが人質に取られ漆黒の執行者に協力する事になった事。
そして漆黒の執行者での自分の役割はPKするのではなく、プレイヤーをギリギリまでダメージを与え、漆黒の執行者のメンバーのレベルを上げさせる事、そして何かあった時の保護者的な役割だという事……サラは全部話してくれた。
「そんな事が……」
サラの話を聞いた俺は言葉を失う。
この現実世界と変わらなくなったWOFの中で、大切な人を人質に取り、人殺しの手伝いをさせる……そんな、非道な事をするなんて……。
サラは弟を守る為に人殺しの手伝いをさせられていた……それがどれだけ辛い事だったか……。
「……私にとってこの世界が、こんな風になってしまってからはカナタがすべてだった。だけど、私がこうなってしまっては、あの得体の知れない男やクライドがカナタをどうするか分からない……頼む、私はどうなってもいいから、カナタ……カナタを救ってやってくれ」
そう言ってサラは目から溢れんばかりに涙を流す。
……こいつは俺に似ている。
状況は違うけど、俺がユーリを失い、すべてに絶望し自分の命を軽視していた時に……。
「……分かった。俺が何とかする」
「……本当か!?」
「あぁ、でもおまえも一緒に行くんだ。ほら」
俺はウインドウを開き、コマンドを操作してポーションを二つ具現化させ、一つをサラの口に当て飲ませ、一つを自分で飲んだ。
すると、ポーションによってHPゲージが回復したのと、話している間に時間が経ってダメージによる痛みも引いてスキルの代償の時間が過ぎたのだろう、サラはゆっくりと起き上がる。
「……いいのか?」
サラは俺がサラを回復させた事に戸惑っているようだ。俺は「あぁ、だっておまえはPKしてないしする気もないんだろ?」と言葉を返す。すると、サラは無言で首を一度縦に振った。
よし、ならば後は漆黒の執行者を倒してカナタを救うだけだ。
漆黒の執行者……人の未来を奪うあいつらは許せない。
「ハヤト君!! 大丈夫ですか!?」
声のする方を向くとノアとフライヤさん、それに応援に駆け付けてくれた聖なる夜明のメンバーやラウルの姿、そしてさっき俺が助けたとプレイヤーと街に助けを求めにきた太陽の導きのメンバー二人も一緒にいてこっちに向かって走ってくる。
「あぁ! 大丈夫だ!!」
俺が言葉を返すとこっちに向かってきていた太陽の導きのプレイヤーの表情が一変する。
「あいつは――っ!?」
「っ!? 殺してやる!!」
どうやらサラの姿を確認できたみたいで、太陽の導きのメンバーは剣を構えた。
そして、突然の行動にフライヤさんを含む他のプレイヤーも驚く。
まずい! このままじゃ!!
「待ってくれ!!」
俺はサラと応援に駆け付けたプレイヤーの間に割って入る。
「どいてくださいハヤトさん! そいつは俺たちのギルドメンバーを襲ったんです!!」
「そうです!! そいつのせいで仲間たちは――っ!!」
太陽の導きのメンバーは今にもサラに襲い掛かりそうな感じだ。
対するサラは剣をも構えずた俯くようにして立っている。
「待て!! とりあえず俺の話を聞いてくれ! それにこいつは剣を構えてないだろ!? こいつがもしその気なら俺はもう殺されている!!」
俺の言葉に太陽の導きの二人は言葉を詰まらせながら唇を噛む。
「で、でも……」
「落ち着いてください。まぁ一度ハヤト君の話を聞いてみましょう。それにこの状況下であの女性が何かしようとしても無駄です」
フライヤさんの言葉に二人は冷静になったのか、剣を収める。
確かに今の状況下ではサラがティルフィングのスキルを解放したところで俺を含め高レベルのプレイヤーも揃っているしどうする事も出来ないだろう。
「ありがとうございます、フライヤさん」
俺はフライヤさんに言葉を返し頭を下げた。
そして、俺の方を見て心配そうな顔をしているノアに大丈夫という意味を込めて微笑んでからみんなを見渡し、そして、俺は口を開いた。




