引っかかる言葉
「ん? あれは……」
俺がPKプレイヤー達が去って行った方へ向かうと、その方面から一人のプレイヤーがこっちに向かって歩いて来る。
「女性? あの子もPKプレイヤーに襲われたのか?」
距離が近づくに連れそのプレイヤーの姿が見えてくる。
そのプレイヤーは黒髪で髪を後ろでくくったポニーテール、そして刀身の黒い剣をぶら下げるように持ちながらこっちに向かってくる。
そして、お互いの顔を認識できるような距離までやってきた。
その顔を見るとやはり女性で顔は整っていてどちらかというと凛とした感じだ。そしてその表情は真顔でこちらを警戒しているように見える。
「おい! 大丈夫か? 俺は助けに――っ!?」
『俺は助けに来た』
そう言おうとした瞬間、女の手に力が入るのが見えた。
そして次の瞬間には女は地面を切って俺の方へと向かってくる。
俺はそれに対応するべく、素早くエアリアルを抜いた。
そして間髪入れずに金属音が鳴り響く。
「……少しはやるようだな」
俺がエアリアルを抜いた瞬間には女はもう目の前まで迫っており、俺は抜いたエアリアルでなんとか目の前で相手の斬撃を受け止める。
「その言い方だと俺を狙って来たようだけど……俺が助けに来たって知ってもまだ俺を狙うのか?」
俺はそう言って相手の剣を押し返しながら後ろに跳び距離を取る。
今の一撃を受けて分かったけど、この女は力、スピード共に並みのプレイヤーじゃない。それにあの剣……きっとレア度の高い物だろう。あんな刀身の黒い剣は普通に売っているものでは見た事がない。
「愚問だな」
女は手に力を入れ剣を構えなおす。
くそ、まさかこんな女の子までPKしてるなんて……。
それにさっきの動きを見た限り、リーダー格って感じだろうか?
明らかに俺が退けたプレイヤーとレベルが違うし、俺がさっきの攻撃を受け返したのに全然狼狽えている様子がない。という事はこの女もまだ実力を出していないという……俺も気を引き締めないと。
俺も女に対応すべくエアリアルを構えなおす。
「なんでだ!? なんでPKなんてする!? 同じプレイヤー……人の命を奪って楽しいか!?」
俺の問いかけに女は表情を変化させ、俺を睨み付けてくる。
なんだ? 思ってた反応と少し違う……?
「……おまえに何が分かるっ!!」
女はそう言葉を発すると同時に地面を蹴り、俺の方へと向かって来る。
俺はそれに対応するべくエアリアルで受け止めた。
「くっ――っ!?」
受け止めた斬撃はさっきよりも重く、俺はその衝撃を受け止めらず後方へと吹き飛ばされる。俺は飛ばされながらも態勢を整え片膝と片手を着いて着地する。そして、衝撃により直接的なダメージは受けてないまでもHPゲージが少し削られる。
女の子なのに剣でこれほどの重さの攻撃をしてくるとは……まさかあの剣も俺のエアリアルのスピード補正のように攻撃力の補正があるのか……?
「私の攻撃を受けるとはな。やはりなかなかやるようだ。でも――」
『ここで死んでもらう!!』
そう言い終わるのが早いか、動くのが早いか女は俺に再度肉薄する。
俺はそれを受ける事はせずにスピードを生かし攻撃を躱す。
「どうした! 避けるだけか!?」
女は剣を振るう速度を上げ次々へと斬撃を放つ。
その斬撃は並のプレイヤーではないのを証明するのにふさわしい鋭さを持っている。
「避けるだけでは私に勝てない!!」
「くっ!!」
女は斬撃の鋭さだけでなく、俺の動きを読んで剣を振るいついに女の剣は俺の左肩を捉える。
この世界がゲーム上という事もあり、腕が切り落とされる事はないけど、代わりに肩に強烈な痛みとHPゲージが五分の一ほど削られる。
今の俺のレベルで一撃を食らって五分の一が削られるという事は女の攻撃力がすさまじい事を物語っている。それこそボス級モンスターの攻撃力に匹敵するくらいだ。
くそ、一撃でこのダメージか……。これは厄介だ。
そして、俺に余裕を与える間もなく女は再度俺に肉薄し斬撃を放ってくる。
俺は痛む左肩を抑えながら後方へと飛んで距離を取る。
「どうした? もう終わりか?」
女は俺の事をいつでも倒せると判断したのか、追撃を止め俺に言葉をかけてくる。
どうする? ポーションを使うか? ……いや、さすがにあいつはそれを見逃したりはしないだろう。ならば……。
「……おまえは漆黒の執行者の者か?」
俺が選んだ選択肢は対話し時間を稼ぐことだった。
せめてこの左肩の痛みさえ我慢できるレベルまで治まってくれば動く事が出来る。
それと、今回のPKが漆黒の執行者の仕業なのか確認したい。
俺の言葉に女は少し目じりを上げ反応する。
「正解か……」
女がそれ以外の反応を見せずに肯定も否定もしないのを見て俺は呟く。
そのやっぱりこのPKは漆黒の執行者の仕業か……。
……こいつらだけは許せない!!
俺がそう心の中で思い、漆黒の執行者によって死んでいったプレイヤーを思い出し怒りがこみ上げてきたところで女に変化が見られた。
女は俺の呟いた言葉を聞いて女は何やら複雑そうな表情を見せた。
なんだ……? この反応は……? 漆黒の執行者だとバレたのが嫌なのか? でも、それにしては反応が少し違う……? いったい……?
「なぜそれ程の力がありながらPKする? それだけ力があればPKしてレベル上げやアイテムを奪う必要もないだろ? それとも人を殺して快感を得るのが目的か?」
俺は女の反応を見るべくさらに言葉を繋げる。
バレるのを恐れたとするなら否定すればいいし、それかとぼけたらいい。
でも、女はそのどちらでもなく無言で複雑な表情をしただけだった。
あの反応はおそらくだけど、さっきのPKプレイヤーのような快楽主義のようなプレイヤーの見せる表情ではないと思う。
それこそ快楽主義者なら、こうやって対話も成り立っていないはずだ。
いったいなんだ……?
俺は漆黒の執行者に対する怒りを抑えながらもう少しこの女の反応を見る事にした。
「おまえに何が分かる!! おまえには関係ない事だろ!!」
女はさっきみたいに怒りを露わにしながら感情をむき出しにする。
『おまえに何が分かる』
さっきもこの言葉を口にしたけど、そのニュアンスからはまるで『自分本の本意ではない事をやっている事を決めつけて言われたくない』という風に聞こえる。
そして『おまえには関係ないだろ』って言葉、これも俺が言った言葉の中にない答えを口にしたくないようにも聞こえる。
俺の思い過ごしかもしれないけどなんだろう……? この女からの言葉には違和感を覚える。
PKが目的だったら俺の言葉に真面目に返す必要もないし、めんどくさかったら話を流せばいいだけだし、その通りだったらその通りと言えばいいだけだ。でも、この女はどちらでもなくて、逆に俺に問い返してくるような言葉を口にしている。
そして、暗に俺の言葉を否定しているようにも聞こえる。
なんだ……? PKが目的ではないのか? それとも……?
「……もしかして何か事情があるのか?」
俺は思った事を率直に女に直接言葉にしてみた。
最初は無表情で感情が分からなかったけど、こうやってPKについて増えると怒りを表したり表情に変化が出る。もしかしたらこの女には何か事情があるのかもしれない。
俺がそう思い口にした言葉で案の定、女の表情に変化が見られた。
俺の言葉に意表を突かれたのか驚愕の表情を浮かべた後、動揺している表情になり、少しすると唇をかんで険しい表情になった。
こいつ……もしかして何か理由があるのか? ……それでもPKは許されることではないしほってはおけない。でも……。
「さぁ話は終わりだ! 行くぞ!」
俺がいろいろ考えていると、女は自分の意思を再確認するように言葉を口にして剣を構えなおした。




