〜剣を振るい続ける理由〜
「た、助けてくれ! お、同じチームのプレイヤー同士だろ!?」
私の前で武器を捨て、腰を抜かし助けを求めるプレイヤー。
私はそのプレイヤーに向けて剣を掲げる。
「ひ、ひぃ~!!」
男は無意味だと分かりながらも両手を掲げ剣を防ごうとしている。
本来なら私だってこんな事はしたくない……でも仕方がないんだ。
「安心しろ、とどめをさすのは私じゃない」
私はそう言って愛剣であるティルフィングを振り下ろす。
「ぎゃぁああああああ!!!」
プレイヤーの悲鳴とともにHPゲージが減少し、レッドゾーンへと入る。
しかしそれまでだ。
プレイヤーのHPゲージはなくなる事無くそこで止まる。
そう、そして私の役目もそこまで。
「あとは好きにしろ」
私はそう言い踵を返す。
そして、私の言葉を聞いた仲間……いや、仲間と思いたくないがそいつらが「へへ、さすがサラ様だ」と醜い微笑みを浮かべながらプレイヤーにとどめをさしていく。
私はその光景に目を背けながらまだ戦っている他のプレイヤーの元へと向かう。
仕方ない……仕方ないんだ……。
―――
私には年の離れたカナタという弟がいる。
カナタは小さい頃から闘病生活をし、ずっと入院していて、私の両親は献身的に弟の看病をしていたけど、カナタの容体は良くならなった。私も良く看病に行ったけど、その度に『沙良姉ちゃん、僕外の景色が見たい。自由に歩き回りたい』と言っていた。私はその言葉を聞くたびに胸を締め付けられた。
何か……何か私にできる事はないだろうか?
でも、私にできる事はなく、日に日に衰弱していく弟に会いに行く事しかできなかった。
ところが、ある日私は『バーチャル・ギア』そして、『ワールド・オブ・ファンタジー』が発売されると知った。
私はゲームに興味はなかったけど、宣伝されるキャッチフレーズ『五感を感じる事が出来る次世代ゲーム機』という言葉に興味を持った。
これならもしかして……。
私はその発売されるゲーム『ワールド・オブ・ファンタジー』について調べた。
すると私の予想通り、そのゲームはゲームの中で五感を感じる事ができるようで、さらに調べると麻痺のある人でも脳と直接信号をやりとりする事で、ゲーム内では自由に動く事が出来るといった説明があった。
これを見た瞬間、私は『これだ!』と思った。
そして、私は親に頼み込んで私とカナタの分の『バーチャル・ギア』と『ワールド・オブ・ファンタジー』を買ってもらった。両親は少しでもカナタが喜ぶならと快く買ってくれた。
そして、ゲームなんてやった事ない私は弟と一緒に初めてゲームをやる事になった。
二人ともゲームとは無縁だったから、最初の名前を決める時に普通に自分の名前をつけてしまう事になったけど。
「サラ姉ちゃんはやっぱり強いね! この前の剣道の大会でも優勝したもんね! さすが!」
「そんな事ないよ。この世界ならカナタも頑張れば強くなれるよ」
「そうかな? うん! 僕も頑張るよ!」
それから私とカナタはWOFの世界にのめり込んだ。
この世界は現実の世界と変わらないような光景が広がり、カナタはその中で自由に身体を動かすことが出来て喜んでいた。私は喜ぶカナタを見て、『この世界でなら私にも出来る事がある』と思い、剣道で培った反射神経を武器にこの世界、このゲームにも慣れどんどんとレベルも上がり強くなった。それに反してカナタは身体を動かす事に慣れていないせいもあり、なかなか慣れなくて苦戦していたけど身体が自由に動かせて嬉しそうだった。
その嬉しそうな顔を見ると私も嬉しくなり、苦戦するカナタをフォローする形で二人でこのWOFを楽しんでいた。
そう、あの日までは――……。
―――――
「くらぇぇぇえええ!!」
また一人、私に向かい剣を振るい無意味な抵抗をする。
私はその剣を半身なって躱しながら胴体へとティルフィングを振るう。
「ぐぁぁぁああああ!!!」
そしてプレイヤーの元々HPゲージが減っていたのもあり、一気にレッドゾーンへと侵入する。
私の持つティルフィングはレア度が高く、高い攻撃力補正効果とある特殊効果がある。その特殊効果は一日に一回しか使用できないけど、レベルの高い私はその特殊効果を使用しなくても高い攻撃力を得られるだけで十分だ。
『魔剣ティルフィング』
魔剣を呼ばれるに相応しく、刀身は黒く見た目からして普通ではない。
そう、この剣を手に取ってから私も普通ではなくなったんだ――。
――――
私はあの悪夢の日、奇しくもカナタと二人、このWOFで行われるアップデートを楽しみにログインしていた。でも、そこで待っていたのは海道達也の無情な宣告だった。運よくカナタとは同じレッドチームだったけど、私はその言葉に自分の行いを後悔した。
なんでこのゲームを買った? なんでカナタをこの世界に誘った……?
私の中で後悔の念が渦巻いていた。その時カナタは私の腕をひっぱり『サラ姉ちゃん、僕がサラ姉ちゃんを守るから大丈夫だよ。だから怖がらないで』と言ってきた。カナタの手も震えていて怖かったはずなのに……。私はそんなカナタを見て誓った。
どんな事をしてもカナタを守ってみせると。
そして、私はカナタを守る為、強くなるため、カナタが寝たあとひたすらレベルを上げる為にフィールドを彷徨っていた。そしてその時ある男に出会った。
そうあの時から歯車が狂ったのだ。
『この剣をやろう』
私の前に突如現れた黒いローブの男はそう言って私にティルフィングを差し出してきた。私は当然警戒していたけど、その男はそんな私をよそにティルフィングの効果を説明し『自分は魔法使いだから使わない』と言ってティルフィングを置いて私が呼び止めるのを無視して去って行った。私は残された魔剣を見てどうするか考えた。
どうする? このままにしてしておくかそれとも……
『カナタを守る為に使用するか』
私は脳裏にカナタの顔が浮かんだ瞬間、迷いもなく魔剣ティルフィングを手に取った。
魔剣ティルフィングを手に入れた私はそれから一段と強くなり、自分を磨き続けた。
その時、私のチームではレイクシティに続いて次の街への遠征隊も組まれていたけど、私は最初の遠征も同様に参加しなかった。私はカナタを守らなければいけない。このゲームから抜け出すのは最終目標だけど、その決戦が来るのはまだ先だ。私が動く必要はない。それにWOFのプレイヤーとしてはまだ半人前のカナタを一人ほっとくわけにも連れて行く訳にもいかなかった。
だから、私は来る日も来る日もフィールドでカナタとともにレベル上げをしていた。私はカナタと一緒に行動する昼間は危険の少ないモンスターしか出現しないスポット、プレイヤー達がレベル上げにあまりこない場所でモンスターを倒して、カナタのレベル上げの手伝いをしていた。
そして、ある日私とカナタの前にあの男が現れた。
『私の仲間になれ』
そう言ってあの黒いローブの男はクライドという男を連れてまた私の前に姿を現した。
当然私は『冗談じゃない!』と断った。正直あの男は得体が知れないし不気味だった。
それに私はティルフィングの変わりに何か約束した訳ではないし、する気もなかった。
だから私はそう言って断った。その時にカナタは私がティルフィングを手に入れた経緯を感じ取ったみたいだけど……。でも、私は取引した訳でもない。ただ置いていった物を手に取っただけなんだから……。
私の返答にローブの男は『ならば力づくでなってもらおう』と言った。すると、クライドという男が『良かったぜ! お前が素直に仲間になるなんて言わなくてよ!』と言って私の前に出て剣を構えた。
クライドという男は戦闘狂なのか私と戦う事を望んでいるようだった。
でも、それは私にとっても好都合だった。私と戦うのが望みであればカナタには目がいっていないはず。だから、こいつを倒せばあのローブの男は魔法使い。クライドという男を倒して詠唱させる間もなく詰め寄れば切り抜けられる……私はそう思った。
『へへへっ、いいねいいね!! なかなか強いじゃん!!」
でも、クライドは口だけじゃく実力もあった。
私の放つ斬撃を受けても難なく対応し私は徐々に劣性になる。
このままではジリ損だ……そう思った私はティルフィングの持つ特殊効果を発動させ勝負に出た。一気に片を付けカナタと逃げる……私は特殊能力を発動させクライドと黒いローブの男を倒そうとした。
でも……。
『なかなか良かったぜ』
私は二人を始末するどころか、クライドにすら勝てなかった。
そして、私は特殊能力の発動時間が切れたと同時にその代償として体が動かなくなり、それと同時に受けたダメージによって意識を失った。次に目を覚ました時は黒いローブ達のアジトに連れて行かれていてカナタを人質に取られ私は奴ら……『漆黒の執行者』に協力しないといけない羽目になった――。
――――
「サラさん、俺がもらっていいですかねぇ?」
醜い微笑みを浮かべながら私の元に漆黒の執行者プレイヤーがやってくる。
人の甘い汁を吸うハイエナめ……。
私は嫌悪感を抱きながら「好きにしろ」と言葉を吐き捨てるように言う。
私がクライド達に協力を要請されたのは『漆黒の執行者メンバーであるプレイヤーのレベルの底上げ』だ。そしてその方法はPKで行うという事。このギルドはPKギルドである為、私が皆を率いてレベルの底上げを行いながら場に慣れてもらうという事だった。
なぜ私は人殺しの手伝いをしないといけない? 私はそんな事したくないのに……。
「逃げろっ!!!」
戦場に声が鳴り響く。それと同時に漆黒の執行者の悲鳴が聞こえこっち走ってきた。
「サラさん! 助けてください!」
何が助けてくださいだ。おまえらはそうやって命乞いをするプレイヤーを切り捨てる癖に。こいつらは自分勝手だ。こんなやつらなんて助けたくない。
……でも、こいつらを助けないとカナタがどうなるか分からない。
私は愛剣であるティルフィングを手に助けを求める仲間を無視して声の聞こえた方へ足を進めた。




