楽しいひと時と訪れる事態
「いらっしゃいませ! お二人様でしょうか?」
そう言ってウェイトレス姿の女性NPCが、俺とノアを出迎える。このWOFではら以前から生産職のスキルを使って店を出す事も出来るようになっていたし、店を出したプレイヤーはNPCを雇う事が出来る。 もっともそれ相応の賃金を払う事になっているし、雇うと言っても本来の店舗業務を行ってもらうのみで、自分の奴隷のように扱う事はできない。この辺りはあの悪夢の日以降も変更はなかったようだ。
店内を見渡すと、中は繁盛しているようでプレイヤーが多く賑やかだ。
俺は返事を待っているウェイトレス姿の女性NPCに「そうです」と言葉を返す
「かしこましました。ではカップルシートでよろしいでしょうか?」
「「カップルシートっ!?」」
俺とノアの声が店内にこだまし、一斉にプレイヤーの目が俺達に集まる。
カップルシートって!! どのプレイヤーだ!? こんなデスゲーと化した世界でそんなものを用意したのは!? 俺はただノアと食事しに来ただけで……ノアも驚いているし……どうする俺!?
「ほ、他の席は空いてないんですか?」
「あいにくただいま満席でして……待って頂くとなると少し時間がかかりますが……」
ウェイトレスのNPCは申し訳なさそうにしながらこちらを見てくる。
マジか……。
どうするこの展開!?
「あ、あのハヤト君、私……別に良いですよ?」
ノアは恥ずかしそうにしながら俺の袖を引っ張りながら俺に言ってくる。いや、でも……。
俺が辺りを見回すと店内のプレイヤーが俺達に注目していて『ねぇ、あれってもしかして……』『いや、別人だろ? あの神速が誰かと……』『いや、そもそもあの女の子って……』と口々に言葉を口にしている。 そういえば俺もノアもこのWOFの世界、俺たちのチームではそれなりに有名人だ。店に入った瞬間に二人して「「カップルシートっ!?」」って叫んだ事もあり、俺とノアは注目を集めていた。そして俺達 を見たプレイヤーは俺達の事を本人かどうか断定できず見極めようとしている。
このままでは……。
「そ、そうか? なら……それでお願いします!!」
今はとりあえず早くこの場を動いた方がいい。それにおそらくカップルシートはあの半個室のような場所のはずだ。あそこに行けばこの視線は避けられる!!
「はい! かしこまりました! 二名様ご来店です!!」
「「「ようこそ、いらっしゃいませ!!」」」
大人しく席に着きたい俺の気持ちとは裏腹にこの店の店員は大きな声で出迎えてくれた。
くそ! そんなに大きな声で出迎えてくれなくてもいいのに!!
――――
「かしこまりました! 用意いたしますので少々お待ちください」
俺とノアは人の目を避けるように、いそいそとウェイトレスのNPCについて行き、案内された半個室のカップルシートのソファで肩を並べて座っている。
とりあえず、席についてここでおいしいと言われる魚介を使ったパスタとデザートプレートを注文し、ウエイトレス姿の女性NPCは注文を受けるとバックヤードへと注文を通しに消えていった。
「ちょ、ちょっとびっくりしましたね」
ノアは少し恥ずかしそうに、そして気まずそうに俺の方を見て口を開く。
確かにちょっとびっくりな展開だったけど、そうやって気まずそうにされると余計に気まずい。……いや、俺がそうしているからか?
「そうだな。まぁでも待っていてノアのお腹が鳴ったら困るからな」
俺は努めて落ち着いた感じで対応する。
こういう時こそ出来るだけ平常心でいないといけない。戦闘と一緒だ。
「も、もう! ハヤト君は私の事子供扱いしすぎです!!」
「ははは! ごめんごめん!」
「もう……ふふふ」
俺とノアはさっきまでの気まずい空気が変わったからか、緊張が解けたように笑いあった。
そして、店内の方もどうやら俺がこんなところに誰かと来る訳がないと思ったのか、俺たちの詮索をするよりも自分達の話をしたり、このWOFの状況下の中で恋人同士になったカップルもいるらしく、俺たちの事より目の前の相手の方が大事と言わんばかりに自分達の世界へと戻っていったようだ。
結果的にこのカップルシートっていう半個室はある意味では正解だったのかもしれない。
……ただ、少し距離が近いけど。
その後、俺とノアは普段の事や遠征の事、迷宮の事などを話し美味しい食事も食べ楽しい時間を過ごした。
「ごちそうさまでした!」
俺の隣でノアが手を合わせて笑顔でこっちを見ている。
どうやら、満足してもらえたようだ。
俺としても久しぶりに美味しい料理を食べられてよかった。
魚介のパスタははエビやイカ、貝といったような食材からのエキスがトマトソースとうまく組み合わさっていて美味しかったし、デザートプレートに関してもチョコケーキ、ショートケーキ、モンブランといった小さめのケーキが三種とミニパフェとボリュームも味も文句なしだった。俺も満足したしノアも喜んで食べていた。
でも、あの小さな体のどこにあの量が入るのかと思ったけど、やっぱり女性は甘いものは別腹の様だ。今日それをこの目で再認識した。
俺は今まで食事にこだわってなかったし、ずっと心にひっかかるものがあったからそんなものは必要ないと思っていた。でも、やっぱり人は美味しいものを食べたり楽しい時間を過ごすのは、心身にとっていい事だと思う。そう考えると死んでいった者の事を考えてしまうけど、俺はユーリと約束したように前を向いて生きていくって決めたし、ラウルがいうように死んでいった者の分も楽しく過ごす、そしてその上で死んでいった者の為に出来る事をするって決めた。でも、まさかこんなすぐにこういった時を自分が過ごせるとは思わなかったけど……。ノアのキャラもあるのか? ノアといるとなんだか現実世界の時の自分に戻れているような気もする……。
「何か顔についてますか!?」
ぼーっと考えながらノアの顔を見ている俺を、ノアはなにやら顔に何かついてるから見られていると勘違いしたようだ。
「ほっぺにパフェのクリームついてるぞ」
「えぇ~!? どこですか!?」
ノアは自分の頬を両手で触りながらクリームがついてるところを探している。
「ウソだよ、ウソ」
「もう!! ハヤト君は私をからかい過ぎです!!」
ノアは両手をブンブン振りながら俺に抗議してくる。
本当、からかいがいがあるな。
俺は「ごめんごめん」と言いながらレジの方へと歩いて向かい、俺達を出迎えてくれたウェイトレスの女性NPCにお金を払い会計を済ませ、ノアとともに店の外へと出た。
「ごちそうさまでした!」
さっきまで俺に抗議していたノアは俺がお金を払うと、礼儀正しくお辞儀をして礼を言ってくる。
こういうところはしっかりしてるんだな。
「いや、俺こそ今までありがとうな。いろいろ世話焼いてもらったり、心配してもらったり、迷惑かけて」
俺の口からすんなりと礼の言葉が出る。
それは俺としてもちょっと意外だったけど、やっぱり懺悔の涙の一件以来、俺の心は少し晴れて素直になれるようになったみたいだ。
「い、いえ! 私が勝手にしただけですから……でもハヤト君が元気になって良かったです」
この顔は……。
そう言って微笑むノアの顔が俺はなぜかユーリの笑顔とだぶって見えた。
そうか……俺は知らない間にノアにも救われていたんだな。
「……ありがとうな、ノア」
「いえいえ! ……これからもよろしくお願いしますね!」
俺とノアはそう言って二人で笑いあった。
その時だった。
「た、助けてくれぇ!!!!! PKだ! PKプレイヤーが出た!!!!」




