初々しい二人
なんでこんな展開になったのか……これはラウルのせいだな。
……いや、確かにラウルが言う通りそもそも俺がノアに迷惑かけていたからか。まぁお礼する良い機会だ。
俺は今、ノアとの待ち合わせ場所であるフォルクラインの街の中心にある石碑へと向かっている。
ラウルのせいで俺は懺悔の涙によりユーリの事にケジメをつけ、人と関わるって決めてから早々に難易度の高い二人での行動……しかも女性と二人で食事っていうミッションを行う事になった。
そして、俺はラウルにつかまり服についてとやかく言われ、ちゃんとした恰好で行けよと言われた。なんでそこまでと思ったが、まぁ女の子と二人で食事に行くのにあまり変な格好はできないかと思い、素直に応じた。俺も年頃の男だからその辺の感覚はある。だから、俺の着ている服は白シャツに黒いズボンとある意味正装、ある意味制服といった感じだ。
「はぁ~……昨日の今日で俺変われるかな……?」
もともと俺は人と関わるのが苦手って訳ではなかった。
どちらかと言うと得意な方だったかもしれない。
でも、このWOFを中では報酬アイテムを多く取る為、レンと二人で行動するのが基本だったし、あの悪夢の日以降は人と関わるのを避けていた。
だから、しばらくの間、人と関わるのを避けていたせいで人とのかかわり方を忘れてしまった。
「まっ、やるしかないか」
俺は懺悔の涙でユーリとちゃんと別れをした事とラウルの言葉によって以前に比べて気持ちが晴れている。
俺が目を覚ました後、ラウルに『仲間が死んで後悔してないのか?』って聞いてみるとラウルは少し考える素振りをした後に『悲しいけど後悔しててもあいつらが浮かばねぇ。俺に出来るのはあいつらの分も生きる事だ。それに、俺はこのゲームを終わらせてあいつらの最後を家族に伝えるんだ。……それに生きている者に出来る事は死んだ者の分も笑って生きる事だぜ?』って言ってニカッてしやがった。相変わらずその笑顔は似合わなかったけど、その言葉とユーリの言葉を聞いて俺の心は晴れた。
そして、ユーリとの約束……このゲームを終わらせてユーリがこの世界で生きていた事、夢に向かって頑張っていた事を家族に伝えると決めた。
そう決めてからは俺の心は軽くなった。
まだまだこのゲームをどう被害を少なくして終わらせるかは思い浮かばないけど、俺は目の前にある事を一つずつ全力でやっていく……そう決めた。
ちなみに懺悔の涙については『漆黒の執行者』の件も含めフライヤさんにも報告した。
フライヤさんに漆黒の執行者について話したけど、やっぱりフライヤさんは、漆黒の執行者については知らなかった。ただ、名前は知らなかったけど今でも時々、街の外でプレイヤーがPKプレイヤーに襲われるという事件は起こっているようだ。とりあえず漆黒の執行者についてはなるべく情報を集めるとの事だったけど、今までの奴らの行動からなかなか尻尾を掴むのは難しそうだ。
ちなみに、あの称号については誰にも話していない。
あの効果に関しては現実味がある。死んでしまったら生き返らせる事は出来ないけど、あれはHPゲージが0になった瞬間にHPゲージが1になる。という事はバーチャル・ドライブを通して脳に信号を送る前にシステム上でどうにでもできるからだ。
あんな効果があるものと分かるとそれを求めたり、生き返らせるアイテムも出てくるだろうと『死』を恐れないプレイヤーが増えても困る。
おそらく、ユーリが言っていたような理屈を言っても理解しようとせず現実逃避するようなプレイヤーもいるだろうから。
「おっと」
そうこう考えている間にどうやら俺は待ち合わせ場所に着いたようだ。
俺の視界の先に明るい茶髪のツインテールに白いシャツにベージュ色のスカート、そして黒のハイソックスを履いている女の子がいる。
ノア、もう待っていたのか。さて、どうやっていくか……いや、考えても仕方ない。なるようになれだ!
「ごめん、待たせた?」
「きゃ!! い、いえ!! 全然待ってないです!!」
そう言ってノアは慌てた様子で両手をバタバタさせている。
なんかいつもノアはこんな反応しているな……。
「ふっ」
「わ、笑わないでください!! ちょっと驚いただけですから!!」
「ごめんごめん! ……でも、ノアその服に合ってるな」
ノアの透き通るような白い肌に全体的に明るい服装がよく似合っている。
本当によく似合っている、本当によく似合っている……けど、咄嗟にこんな言葉を口にする自分に驚いている自分がいた。
俺ってこんなんだったっけ?
「へっ……? あわわ! あ、ありがとうございます!?」
ノアは俺の言葉にさらに慌てふためく。
やっぱり戦闘中と全然イメージが違うな。
その姿を見ていると俺の緊張が取れた。
「あ、あの! その……ハヤト君も似合ってますよ……?」
そう言って頬を赤く染めながら覗き込むノアに一瞬見とれてしまって、咄嗟に視線を反らし目を下に向けたのがまずかった。上の服がシャツだからこのアングルはヤバイ。これだけはユーリの時に何度も経験したけど目のやり場に困る。ノアって意外と……いや、そんなこと考えちゃだめだ!
「あ、ありがとう。い、行こうか」
「は、はい!」
俺は一度緊張感がなくなったけど、少し気まずくなってぎこちなくなってしまった。
―――
そこから、俺とノアは話をしながらフォルクラインで美味しい料理が出ると評判の店へと向かった。最初はぎこちない感じで話していたけど、ノアのあたふたする様子を『子供みたいだな』って冗談で言うとすねて怒ったり感情を出して反応してくれるおかげで、俺は気軽に話すことが出来て知らない間に普通に話せるようになっていた。
でも、自分でまさかこんなすぐに人と自然と話せるようになるとは思わなかった。
「ここか」
俺たちがたどり着いた店は赤い屋根に木で出来た建物で入口に『パラダイス』という看板が掲げられていた。この店のネーミングはともかく、出される料理は美味しいと評判で、特にパスタとスイーツが美味しいらしく女性プレイヤーに人気らしい。
あの悪夢の日から時間が経ってプレイヤーもある程度落ち着きを取り戻し、敵チーム……同じプレイヤー同士で戦う事もまだ先だという認識も広まって、日常生活は現実世界と変わらないほどの生活を送るようになっていた。そして、一部のプレイヤーは戦う事に疲れ、街で店を出したりしてギルドや遠征隊を支援するほうに回ったりして役割分担も出来てきていた。
俺が一人で行動している間にいろいろ変わったものだ。
だから、食事に関しても料理スキルを持っているプレイヤーが料理店を出したり、生産職のスキルを持つプレイヤーが私服を開発したりもしていてこのWOFの世界も本当に現実世界と変わらないようになってきていた。
俺は別に食事に関しては凝っていた訳ではないし店にも詳しくなかったけど、ノアにどこに食べに行きたいか聞いたところこの店だったのだ。
そしてなぜかラウルもこの店を知っていたけど。あいつなんで詳しいんだ? ……いや、知らない俺の方が普通じゃないのか?
「ハヤト君入りましょう!」
店の前でぼーっと考えていた俺にノアが声をかける。
その顔は笑顔でウキウキしているのが見てわかる。やっぱ女性って食べ物の事になると機嫌が良くなるんだな。さっきまで『子供扱いしないでください!』ってすねていたのに。まぁでも機嫌が直ったほうが俺としてもいいしな。俺はノアに「そうだな」と答え、店のドアを押して店内へと足を踏み入れた。




