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〜ノアの気持ち〜

「どうしてこんな事になっちゃったんだろう……」


 私は普段のローブとは違う服装で、フォルクラインの街の中心にある石碑の前で立っている。

 今日着ている服は私服。

 白いシャツにベージュ色のスカート、そして黒のハイソックスを履いている。

 私がなんでこんな恰好をしているかというと、この前ラウルさんのせい(おかげ?)でハヤト君と食事に行くことになってしまったからだ。


 「どうしよう……私ちゃんと話せるかな……?」

 

――――


 私は人見知りな性格と現実世界で男の人にナンパされて、連れ去られそうになったところを警察の人が偶然通りかかって助けてもらってから、その連れ去らせそうになった恐怖で男の人が怖くなった。

 このWOFを始めたきっかけは人見知りな性格と男性恐怖症を治そうとしてだった。

 バーチャル・ギアとWOFが発売される時の宣伝を見て、現実世界に限りなく近い仮想現実というのを知って、この仮想現実から自分を変えようとした。だから、ノアって名前も現実世界と一緒にして、この仮想現実で自分を変えて違和感なく現実世界にも戻る為だった。


 私は人見知りな性格と元々活発な方ではなかったからゲームもしていたし、WOFに慣れるのも早かった。職業こそ戦うのが怖かったから魔法使いにしたけど、その魔法使いの戦い方は私に向いていて、いつも周りの様子を見ていた私は戦場でも周りを見渡す習慣が活きて、周囲を警戒しながら援護するスタイルで戦闘でも貢献できた。

 それであっという間にゲーム自体に慣れて、私はこのWOFの世界にのめり込んだ。自分が強くなる度に自分に声をかけてくれる人がいる。だから私は強くろうとひたすらゲームに入り浸ってレベルを上げスキルを手に入れ強くなり、そしていろんな人から声をかけられ仮想現実での私はそうして人と関わる事が少しずつ出来るようになった。

 

 私はその調子でWOFで自分を変えようと、いろんな人と自分から関わる事もした。中には現実世界と同じく変な人や嫌な人もいたけど大半の人がゲームを楽しんでいる人だったし、この世界は仮想現実でありゲーム。

 だから、ゲームの規制も働くし嫌ならばログアウトすればいい。


 そう思うと知らない人でも、男の人でも関われるようになった。

 私はこのWOFの世界で自分が変われる気がしたし変わったと思っていた。

 そう、あの日までは……。


『今のは決してログアウトではない。今のはキャラの消去……現実世界の死だ』


 あの悪夢の日にプレイヤーが消えた時に海道達也が言った言葉。

 このWOFはログアウト不可、この世界での死は現実世界での死、さらにはプレイヤー同士での殺し合いをしなければならない……それを聞いて私を含めみんなパニックになった。


 そして、何も心の整理ができないまま私は私のチームの拠点『レッドシティ』に送られた。

 そこについて目の前で始まったのは混乱だった。あるプレイヤーは泣き、あるプレイヤーは悲観し、あるプレイヤーは狂気した。そして年齢制限による規制も解除されていた事もあり、そこからは現実世界以上の無法地帯になった。


 それからはプレイヤー達も様子も変わった。

 それまでは礼儀正しかった人も喚き散らしたり、自分中心に物事を考えたり言ったり……。

 そんな環境の変化に変われたと思った私はまた昔の自分に戻った。

 人が怖くなり人を避けなるべく目立たないように……。

 私が普段ローブで行動しているのはそれが理由。


 その後、フライヤさんを中心とした『聖なる夜明け』が街の治安を取り戻したけど、昔の私に戻った私は人と関わるのが怖くてずっと人目を避けていた。

そして……。


「おいおまえ!」

「フードで顔隠してないで顔を見せろ!!」


 フードをしていた為に敵プレイヤーと疑われて二人の男性に絡まれてしまった。

 私はその時に現実世界でナンパされて連れていかれそうになった時の事がフラッシュバックして怖くて何も言えず動けなかった。

 そうしているうちにフードを取られて……。


「きゃっ!!」

「なんだ仲間か。おい女! 紛らわしい格好すんなよ!!」

「ご、ごめんなさい。人見知りで恥ずかしくて……」

「そんな理由で顔隠されちゃややこしいんだよ!! ただでさえ、苛立ってるってのによ!」

「す、すいません!!」


 私は必死に言葉を絞り謝った。

 でも、それではすまず、徐々にナンパされた時の男がしていたような卑猥な表情で微笑んできた。


「……良く見たらなかなか可愛い子じゃねえか。……どうだ? 俺達と良い事しねぇか?」

「そうだな。俺達は強いからよ? しっかり守ってやるぜ?」

「や、やめてください……」


 昔の嫌な記憶がよみがえり、私の身体は言う事を聞かなかった。


「いいじゃねーか! 代わりにちゃんと俺たちが守ってやるからよ?」

「へへ、そうだぜ、お嬢ちゃん」

「い、いや、離して……っ!」


 私の中で『もう死んだ方がマシ』そういう思いが強くなり、心が壊れそうになった時だった。


「おい、やめろ」


 


 そう言ってハヤト君が私を助けてくれた時、私の心……私は救われた気がした。

 そして、ハヤト君は助けた代わりに何か要求する事もなった。こんな世界になっても優しい心を持った人はいる。何の損得なく人を助けてくれる人がいるって。

 そう思うと私の中に少し光が差した。


 そうだ、この世界は現実世界と一緒。ここで逃げていたら私は変われない。それにこの世界は現実世界と一緒と言ってもレベル、スキルといったものがある。女の私でも嫌な事には対抗できる……。

 そう思うとここが軽くなって私の世界が明るくなった。


 そこから私はみんなの役に……困っている人を助けようと行動した。

 自分で出来る限りの事をしようとレベルの低いプレイヤーが困っているのを見ると助っ人でパーティーに参加したり、街の近くで魔物に襲われている人の助けもした。

 そして、あのレイクシティへの遠征隊にも参加した。


 その遠征隊で私はハヤト君と再会した。

 私は嬉しさのあまり駆け寄りハヤト君に言葉をかけようとした。

 でも、ハヤト君の隣には女の人がいて……。

 私はとりあえずレッドシティでの事のお礼を言って、あとは空元気のようにテンションを上げて言葉をつなぎ、名前だけ言ってその場を去った。

 そして、その時に私はハヤト君の事を他の人とは違うように見ているのに気付いた。


 私はそのあと考えながら遠征隊に同行していた。なんでハヤト君の事が気になったのか……私を助けてくれたから? かっこよかったから? ……ううん、きっと違う。きっとハヤト君の自分の事を顧みない優しさに惹かれたんだと思う。ハヤト君は自分の危険も顧みずプレイヤーを助けようとしていた。これはきっと誰にでもできる事じゃない。少なくとも私の身近にはいなかったし、私が嫌な思いをして人たちとは正反対だと思う。私はその光景を見てハヤト君の事が気になっている自分の心を確信した。

 でも、自分の気持ちに気づけば気づくほど辛くなった。ハヤト君の隣にはユーリさんがいたからだ。

 ユーリさんと仲良くしているハヤト君の姿を見ていると、自分の心がチクリとするのが分かった。だから、遠征中はなるべく二人に接触しないようにしようとしていた。それでも二人を見ている自分がいて、ユーリさんが危ない場面には自然と助けている自分がいた。

 一瞬、このままユーリさんが死んでいたら……と考えてしまった自分がいた事に自分に腹を立てながら私は戦列へ戻った。

 でも……。


『今だ!! かかれ!!』


 その声と同時にPKプレイヤーがたくさん乱入してきて、戦場は一機に地獄絵図と化した。私も目の前の事に対応するのに精いっぱいで、ハヤト君とユーリさんがどうなっているか確認できなかった。


 そして、戦闘が終わった時にユーリさんが死んだ事を知った。ハヤト君はそれから人が変わったように以前よりも塞ぎこんだように見えた。私はレイクシティについてハヤト君を元気づけようとサンドイッチを持って行った。でも私はハヤト君に何も気の利いた言葉も言えなかった。それにユーリさんが死んだのは自分が一瞬そう願ったせい……私はハヤト君の隣を歩く権利はない。だけど、もう一度やり直すきっかけをくれたハヤト君の為に出来る事をしようと決めた。


 それから、ハヤト君を見かける度にちょっとでも気が紛れたらなと思って声をかけるようにした。その中でハヤト君が一個年上だって事も知ったっけ。時々ハヤト君は笑顔を見せてくれたけどすぐにまたいつもの表情に戻る。私はその顔を見るたびに胸を締め付けられた。


 そしてある日ハヤト君は思いつめた顔でレッドシティにある本部を出てきた。

 私は何か嫌な予感がしてどこに行くのか声をかけた。


『ちょっと……な。ノア……いや、なんでもない。ちょっと行ってくる』


 でも、ハヤト君はそう言い残して去って行った。

 私はその後ろ姿を見送った後、このままではハヤト君と二度と会えない気がして、なぜもっと呼び止めて話を聞かなかったのか後悔した。


 すると、知らない男の人が来て私に声をかけてきた。

 私はその見た目から最初は警戒したけど、ハヤト君の知り合いと聞いて警戒を解いた。そしてハヤト君の話を聞いて私の胸はざわついた。

 そして、居ても立っても居られなくなって私はその男の人……ラウルさんにも協力をお願いして連れて本部に駆け込んだ。

 そこでフライヤさんにハヤト君の事を話すとフライヤさんは懺悔の涙の事を話してくれた。

 その話を聞いた時、私は走り出した。


『ここままではハヤト君が死んでしまう』


 私の直感がそう告げていた。

 懺悔の涙のクエストの話を聞いて私はリスクが高いと感じて一人で行こうとしたけど、ラウルさんもついて来てくれた。

 道中で話を聞いたら、どうやらラウルさんはハヤト君に助けられたらしい。それだけじゃなくハヤト君は、自分が来るのが遅くてラウルさんの仲間が死んだと言っていたみたい。ラウルさんは『なんて自意識過剰な奴なんだ』と言っていたけどその顔は笑っていた。

 私はその話を聞いて改めてハヤト君が優しい心の持ち主と再認識した。


 そして、私とラウルさんがクエストに参加して守護神の部屋へ着くと、ハヤトが守護神に止めをさされそうなところだった。私はすぐさま魔法を放った。本来ならスキルを使ってすれば良かったかもしれないけど私は動揺していた為、それが出来なかった。

 でも詠唱が間に合いハヤト君を助ける事が出来た。

 

 そして、すぐにハヤト君にエリクサーを飲んでもらった。

 ちょっと急がしてむせさせてしまったけど……。


『あぁ……大丈夫、ありがとう。でも……いいのか?』


 ハヤト君は私がレア度の高いエリクサーを飲ませた事に困惑していたけど、私にとってそんなのは関係ない。命のほうがよっぽど大事。それにハヤト君も立場が逆ならしていたと思う。

 そして私たちは三人はその後苦戦しながらも守護神を倒した。

 その間に恥ずかしい事もあったけど……。


 守護神を倒すと報酬である懺悔の涙が出てきた。


『クエスト達成報酬 懺悔の涙 一個 取得するプレイヤーはウインドウをタッチしてください』


 そう表示されるウインドウを見てるハヤト君の顔を見ていると、私は胸を締め付けられた。

 懺悔の涙……その効果はフライヤさんから聞いていた。と言っても効果は予想でしかないという事だったけど、あの守護神のスキルから本当のように思えた。


 そして、ハヤト君はこっちを見た。

 きっと自分が取ってもいいのか確認しようとしたんだと思う。


「これが欲しかったんだろ? おまえが取れよ、ハヤト」


 ラウルさんはその空気を読んでハヤト君に勧めた。

 私もハヤト君の為に出来る事をしようと思っていたしそう言うつもりだった。

 でも……


「ハヤト君……あの……ううん、なんでもないです。ハヤト君が使ってください」


 でもいざ、自分の元からハヤト君がいなくなってしまうかと思うとら違う言葉を口にしそうな自分がいた。

 その瞬間、ユーリさんが死んだ後レイクシティで見たハヤト君の悲しそうな表情が脳裏に浮かんだ。

 ダメ……私が一瞬でもユーリさんが死んだらって思ったからこうなったんだ。それに私はハヤト君の為に出来る事をするって決めた。だから次こそ……。

 私は途中でなんとか言葉を振り絞り、ハヤト君に懺悔の涙を勧める事ができた。


 でも、ハヤト君は懺悔の涙を使うと気を失って倒れた。

 何が起きたか分からなかったけど、ハヤト君は生きているみたいだっし私は必死に看病した。

 そして、ハヤト君は帰ってきた。


 その時、私は嬉しくて泣いてしまった。

 ハヤト君も何かすっきりしたような顔していたし良かったって心から思った。


 ハヤト君が帰って来てくれた。


 それだけで、私は十分だったのに――。


――――


「なんでこんな展開に……」

「ごめん、待たせた?」

「きゃ!! い、いえ!! 全然待ってないです!!」


 振り返るとハヤト君がいた。

 どうしよう……私心臓が破裂しそうです……。


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