〜ユーリの想い〜
『ユーリ、驚かないで聞いて欲しい。実は……』
まさか……私が死んだなんて……という事は何? 私はもう現実世界に帰れないの?
もう料理屋を開くって夢は叶わないの? じゃあ今の私は何? 今私の目の前にいるハヤト君は?
私は突然の事で考えがまとまらない。
でもハヤト君が嘘をつくなんて思えないし、実際ハヤト君はこの先何が起こるかわかっているような言動ををしていた。
「……そっか。私は死んじゃったんだ。残念だけど仕方ないよね」
私は努めて冷静に言葉を口にする。
私には今の状況を理解できないけど、ハヤト君の様子からハヤト君はきっと誰も経験した事のない苦しみを味わってきたんだと思う。
だから、私が取り乱しちゃだめ。私が取り乱したらハヤト君が苦しむから。
私はハヤト君に助けられてきた。私が死んでいるんだとしたら私に出来る事は……。
「――っ!? いや、ユーリは死なない! 俺はユーリを助ける!! その為に戻って来たんだ!」
「……ハヤト君、あの悪夢の日に海道達也が言っていた言葉を思い出して。この世界での死が何を意味するのか――」
海道達也が言っていた言葉……この世界の死は現実世界での死というあの話。
自分の事じゃなくてハヤト君の事を考えてみると少し冷静になれた。
そして冷静に考えてみて、もし私がこの世界で死んでいたとしたら、現実世界でも 私は死んでいる事になる。そうだとしたら現実世界に私の身体はもうないと思う。
だから、今の私は『バーチャル・ギア』とWOFによって再現されたデータか何かなのかもしれない。少し怖いけどそれが現実……。
「……この世界の死は現実世界での死」
「うん。あの時映し出された映像には、現実世界でWOFによって死者が出たと報道されていた。あの時にWOFの世界と現実世界は時間にして差がなかった」
「ハヤト君……よく考えて。ハヤト君のいう通り私が死んでいたしたら現実世界でも死んでいるんだよ? 現実世界に死んだ人間を生き返らせる方法なんてない……」
「あっ……」
この世界は現実と一緒になったと言っても、まだアイテムとかウインドウとかコマンド操作とかゲームの名残がある。だから、アイテムとか効果もそのまま受け入れるのかもしれないけど『死』は現実世界で取り返しようがない。
HPゲージが0になるまではWOFで何かあっても現実世界の身体は大丈夫だろうから、アイテムとかでどうにでもできるけど、0になった瞬間に現実世界での『死』が訪れる。
その『死』はどうやっても取り戻せない。
「で、でも! 今俺の目の前にはこうやってユーリがいる! それに俺はこのループの中で毎回人を殺しその感触をこの手で感じている! これが現実じゃなくて何なんだ!?」
「……私も分からない。でも、海道達也のいう通りこの世界が現実と一緒なら、人が生き返ることも……過去に行くこともできないと思う」
死が変えられない事実だとしたら過去にも行くことはできないと思う。
過去に死んだ人を救っても現実世界で救う方法がないから……。
だとしたら今の私は? ハヤト君は?
「――っ!? そんなそれじゃ……」
「ハヤト君のいう事が本当ならばきっとこれは夢……夢に近いものだと思う」
そう夢。
夢に近いものなのかもしれない。
このWOFはバーチャル・ギアによって脳に直接信号を送っている。
だから、脳にデータを直接送って夢を見させる事くらいできると思う。
それこそ五感を感じられる現実のような夢を……。
「いや! 夢にしては感触が――っ!?」
「気づいた? このWOFは『バーチャル・ギア』という脳に直接信号を送り五感を感じる事が出来る次世代型のゲーム機。だからこのWOFの世界もリアルに近い夢の中にいるような状態……だから仮想の事を感じたとしても不思議じゃないと思う」
「……」
「でも、俺は最初に知らなかった『漆黒の執行者』の事も知ったし今までと違う事も覚えた。これはいったい……?」
「それは私も分からない。ただ言えるのは私も何も知らないけど、今、私は私の意思で動いている……と思う。だから、良く分からないけど、『バ―チャル・ギア』によって私の性格や行動パターンが分析されていてデータとして再現されている……のかもしれない」
私が死んでいるとしたら今の私は私であって私じゃない。
WOFに再現されている私……だから私じゃない私にハヤト君を縛る訳にはいかない。
「じゃあ俺がループし続けている理由はなんだ!? 俺は何故この時間に――」
「ハヤト君から聞いたアイテムの名前……懺悔の涙……。もしかしたらハヤト君が後悔している事に区切りを打てたらループを抜け出せるのかもしれない……」
アイテムの事は分からないけど、懺悔の涙……ハヤト君が私の事で後悔しているのならそれを乗り越えれば戻れるのかもしれない。
今の私に出来る事はハヤト君に前を向いてもらう事――。
「俺の後悔? それはユーリを助け――」
「ハヤト君、それは残念だけどできないと思う。さっきも言った通り現実世界で人を生き返らせる方法なんてないし」
「でも! 俺はユーリを助けないと前に進めない!!」
ハヤト君……ハヤト君は優しいね。ちょっと一緒にいた私の事にそこまで責任を感じてくれるなんて。私この世界に閉じ込められて本当は怖かったし泣きたかったけど、性格上それが出来なくて強がっていた。
だから、モンスターに襲われた時は正直怖かったし助けてくれた時は嬉しかったしほっとしたんだ。そんな優しいハヤト君だから自分の夢を語ったのかな? まだ、ハヤト君がどんな人か分からなかったけど見た目やそっけない態度とは逆で実は雰囲気で優しい人って思ったんだ。だから私はハヤト君の事が気になって……。
私はフッと微笑んで口を開く。
「ハヤト君……もういいよ」
「――っ!?」
「ハヤト君はいろいろ頑張ってくれたんだと思う。私が死んだ時の事は分からない。でも今のハヤト君を見てたらきっとその時も頑張って助けようとしてくれたんだと思う。だから……ううん、ハヤト君が悪いんじゃない。この世界で力が足りなかった私が悪いの」
「違う!! 俺はユーリを守らなければならなかった!! 俺はその為にペアを組んだのにっ!! あの時にちゃんとユーリをもっと安全な場所にっ!! 俺は……俺は――っ!!」
そこまで私の事に責任を感じてくれるなんて……。
好きになった人にそこまで想ってもらえるなんてそれだけで幸せだよ?
私はハヤト君が好き。
でも私はもう一緒に歩くことは出来ない。
だから、ハヤト君をこんなところに縛る訳にはいかない。
「違うよ、ハヤト君」
「――っ!?」
「ハヤト君、それはハヤト君が責任を感じる必要はないよ。だって、ハヤト君はその時最善だと思う事をしてくれんたんでしょ?」
「それは……」
きっとハヤト君は最善の事をしてくれたと思う。だってハヤト君はいつもみんなの事を気にかけて助けようとしてたから。それでどうしようもない事が起きたらそれはハヤト君が背負う事ない。
「なら、仕方ない事じゃない? 安全な場所なんて戦場にはない。ハヤト君の知っている安全な場所は結果を知らなければ分からない。だからその時に安全な場所なんて分かるはずない。だって未来の分かる人間なんていないよ?それはこのゲームの世界が現実になっても一緒。だからどうしようもなかったんだよ」
「どうしようもないってそんな!? ユーリには夢があっただろ!? それが叶えられなくてもいいのか!?」
夢……夢はあったけど……それはもうどうしようもない。それはハヤト君が悪い訳じゃないし自分が未熟だったせいだ。だから、ハヤト君に責任を感じてもらう訳にはいかない。
そのせいでハヤト君が壊れていくなら私は……
「仕方……ないよね。それは残念だけど死んでしまったらそれをどうする事も出来ない。……だから仕方ないよ。……でも、仕方のない事……私の事に囚われてハヤト君が壊れて行く方が嫌なの!!!」
「――っ!?」
好きな人が私のせいで壊れていくのは嫌!! それにハヤト君は悪くないのにそれで責任を感じてハヤト君がハヤト君じゃなくなっていくのは耐えられない!!
「今日のハヤト君は私の知っているハヤト君じゃなかった!! 何かを抱え込んで前より心を閉ざしていて……まるで今を生きていないようだった!! もし私の死んだ世界でもハヤト君が私の事で後悔して今を生きていないような人間になっているんだったら嫌っ!! ハヤト君は強い!! みんなを救える存在だと思う!! 私はもう先に進めないから!! だから私の分も前を見て進んで!! 」
私は感情が抑えられなくてハヤト君の胸へ飛び込んでしまった。
ダメ……こんな事したらまたハヤト君を縛ってしまう……。
私は思いとは裏腹に離れる事ができない。
「ユーリ……」
そんな私をハヤト君は抱きしめてくれる。
ハヤト君……。
「ユーリ……ごめん、ごめん……俺は……」
ハヤト君泣かないで。ハヤト君は悪くないの。だから責任を感じないで? ……そっか、私が泣いてるから。私が泣いちゃだめ。私がしっかりしないとハヤト君は前に進めない。
「……ねぇハヤト君、私は幸せだよ? こんな私の事をずっと考えてくれる人がいて。それだけで私は幸せだよ。私はここで終わりだけどハヤト君にはまだ未来がある。今のハヤト君が私の事考えてくれてるみたいに、ハヤト君の事を心配してる人もいると思う。その人達もハヤト君が前を向く事を願っていると思うよ」
そう、きっとハヤト君を心配している人はたくさんいる。
ノアちゃんとか……。
「……だからハヤト君は前を見て進んで? ハヤト君は強い……ハヤト君ならきっとこのばかげたゲームを終わらせられる。だから……私のような犠牲者を一人でも減らせるように前を向いて? それが私からのお願い」
こんなゲームは早く終わらせて欲しい。そして私みたいな犠牲者を一人でも生まないようにしてほしい。それが出来るのはきっとハヤト君みたいな強さと優しさを兼ね備えた人だと思う。ハヤト君ならこのゲームを終わらせられる。だから、死んでしまった私に縛られてちゃだめ。
私の身体がハヤト君から離れる。
「……あぁ、分かった。すまないユーリ。俺の勝手で辛い思いをさせて……」
「ううん……私は大丈夫。……へへっ、ちょっとキャラと違う事しちゃった」
良かった……ハヤト君が前を向いてくれた。
あと私に出来る事はハヤト君を笑顔で送る事。
「ユーリは強いな」
「そんな事ないよ。ただ、私はその瞬間瞬間をを楽しく、そして真剣に生きているだけ。あっ、死んじゃったから『生きてた』だっけ? ははは! ……あっ! またそんな難しい顔して!! そんな顔だったらノアちゃんに嫌われるぞ?」
「――っ!? なんでそこでノアの名前が出るんだよ!?」
「えっ? その反応怪しいぃ~?」
「おいっ!?」
「冗談冗談!! あははは! ……でも、ハヤト君、これからはいっぱいいろんな人と関わったりしてね? 人は一人では生きていけないから――」
「ユーリ……出来るか分からないけどやってみるよ」
「大丈夫! 出来る出来る!! 普通にしてたらいんだから。 そして、好きな人が出来たら恋もするんだぞ? 私が天国から見ててやる!」
あと少し……最後まで笑顔で送らないと……。
私はVサインしながら微笑む。
「……あぁ、ユーリみたいな素敵な女性が現れたらな」
「えっ!? ちょ、ちょっと!! からかわないでよ!!!!」
えっ!? そんな事言わないでよ……せっかく想いを断ち切ってるのに……。
でもやっとハヤト君らしくなったね。
「ん? これは……」
私とハヤト君の周りを白い光が覆い始めている。
もしかしてこれはアイテムの効果が切れかかっているの?
「……お別れだね」
私は周りを見てハヤト君に言葉をかける。
『別れ』
本当は言いたくない言葉。
でも、私はこの言葉を口にしないといけない。
私はもう死んでいるんだから……。
「そうだな……お別れだな」
「へへっ、なんか変な感じだね」
「そうだな」
徐々に私とハヤト君を包む光が強くなってくる。
なんとなく直感でハヤト君と言葉を交わすのが最後だって感じる。
本当は寂しいけど、本来はもう死んでしまった私がハヤト君と言葉を交わす事は出来ないのにこんな機会が出来た事に感謝しないといけないね。
「……」
「なんでハヤト君がそんな顔するのよ? 最後くらいちゃんと笑ってよ」
「あ、あぁ、ごめん……これでどうだ?」
「ぷっ、あははは!! 何その顔!! おもしろいぃ~~!!」
ハヤト君は無理やり作り笑顔をしてくれた。
その顔は笑っていないけどハヤト君の優しさを感じる。
やっぱりハヤト君は優しいね。
「そ、そんな笑わなくてもいいだろ!?」
「ははは!! でもいっか! 最後にハヤト君のおもしろい顔見れたし!」
「おもしろい顔って――」
その瞬間、私とハヤト君を包む白い光が一瞬強く光りその光が私たちを中心に収束し始める。
「……もう時間だね」
「あぁ」
「ハヤト君、元気でね」
「あぁ、ユーリとの約束必ず守るよ」
「うん……私ね、ハヤト君の事――」
『好き』
この言葉を最後に伝えたいけど、それはだめ。
また、ハヤト君を悩ませてしまう。
私はもうハヤト君と一緒の時間を過ごす事は出来ない。
だから、この言葉は言ったらだめ……。
私とハヤト君の周りの光は一気に収束し視界が白い靄に包まれる。
「ユーリなんだって!?」
「……私、ハヤト君の事応援してる!! 天国からずっと見守ってるから!! だから――」
『必ずこのゲームを終わらせてね』
私に出来るのは天国から見守って応援する事。きっとハヤト君には一緒に歩める素敵なパートナーが出来る。それは誰だろう? ノアちゃんかな? ちょっと悔しいけど私はもうハヤト君に想いを伝える事も出来ない。でも、ハヤト君には幸せになって欲しい。だから、私は天国から見守ってるよ。ハヤト君がこのゲームを終わらせて好きな人と現実世界で幸せに暮らしていくのを……。
私、応援しているから絶対このゲームを終わらせて幸せになってね、ハヤト君――……。




