表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/39

過去から未来へ

 俺はユーリに真実をすべて話した。

 俺が未来から懺悔の涙というアイテムを使って過去に戻ってきていて何度もこの世界をループしている事、ユーリは俺がいた未来ではPKプレイヤーによって殺されていた事、俺はユーリを助けられなくてずっと悔んでいた事……それらの話をユーリは笑って否定することなく真剣な表情で聞いていた。

 そして、二人の間に沈黙が流れる。

 俺はユーリにこの事を話して良かったんだろうか? ただ単にユーリにショックを与えただけじゃ……。


「……そっか。私は死んじゃったんだ。残念だけど仕方ないよね……」

「――っ!? いや、ユーリは死なない! 俺はユーリを助ける!! その為に戻って来たんだ!」


 俺はユーリを救う為に戻って来た。今はループしているけどいずれこのループを抜けてユーリを助けて見せる。その為なら何度だってやり直してやる。

 しかし、俺の決意とは裏腹にユーリは目を瞑って首を左右に振る。


「……ハヤト君、あの悪夢の日に海道達也が言っていた言葉を思い出して。この世界での死が何を意味するのか――」


 海道達也が言っていた言葉? この世界の死は現実世界での死というあの話か?


「……この世界の死は現実世界での死」

「うん。あの時、映し出された映像には現実世界でWOFによって死者が出たと報道されていた。あの時にWOFの世界と現実世界は時間にして差がなかった」


 確かにそうだ。

 俺がログインした時にはあんな報道なかったし、アップデート以降に死者が出たとすれば現実世界とこのWOFの世界にタイムラグはほとんどないと考えられる。


「ハヤト君……よく考えて。ハヤト君のいう通り私が死んでいたしたら現実世界でも死んでいるんだよ? 現実世界に死んだ人間を生き返らせる方法なんてない……」

「あっ……」


 確かにそうだ。

 俺はそこまで考えが至ってなかった。……いや、俺は結局この世界は現実と一緒だと言っても所詮ゲームと思っているところがあったんだ……。

 でも、じゃあ今のこれは? 今目の前にいるユーリは何なんだ?


「で、でも! 今俺の目の前にはこうやってユーリがいる! それに俺はこのループの中で毎回人を殺しその感触をこの手で感じている! これが現実じゃなくて何なんだ!?」


 俺は認めたくないのと今の自分の状況に混乱してしまい、声を荒らげてしまう。


「私も分からない。でも、海道達也のいう通りこの世界が現実と一緒なら、人が生き返ることも……過去に行くこともできないと思う」

「――っ!? そんな……それじゃ……」

「ハヤト君のいう事が本当ならばきっとこれは夢……夢に近いものだと思う」

「いや! 夢にしては感触が――っ!?」

「気づいた? このWOFは『バーチャル・ギア』という脳に直接信号を送り五感を感じる事が出来る次世代型のゲーム機。だからこのWOFの世界もリアルに近い夢の中にいるような状態……だから仮想の事を感じたとしても不思議じゃないと思う」

「……」


 確かにユーリの言う事は理屈に合っている。ここでの死が現実世界での死ならばユーリが死んでから俺がこの懺悔の涙を手に入れるまでに時間がかかりすぎている。

 現実世界でそんなに長い期間空いて蘇生した人間がいるなんて聞いた事はない。

とすればユーリの言う通り、これは夢に近いものなのかもしれない。

 でも、俺は最初ユーリを救えなかった時には出会わなかった『漆黒の執行者』のリーダーやその幹部であるクライドの事も知った。

 これは……どういう意味だ?


「でも、俺は最初に知らなかった『漆黒の執行者』の事も知ったし今までと違う事も覚えた。これはいったい……?」

「それは私も分からない。ただ言えるのは私も何も知らないけど、今、私は私の意思で動いている……と思う。だから、良く分からないけど、『バ―チャル・ギア』によって私の性格や行動パターンが分析されててデータとして再現されている……のかもしれない」


 まさか!? ……いや、でもあり得る話ではあるかもしれない。


「じゃあ俺がループし続けている理由はなんだ!? 俺は何故この時間に――」


 あの懺悔の涙っていうアイテムはどういう意味が……? 俺はしている事の意味は……。

 俺はユーリを救う為に……。


「ハヤト君から聞いたアイテムの名前……懺悔の涙……。もしかしたらハヤト君が後悔している事に区切りを打てたら、ループを抜け出せるのかもしれない……」

「俺の後悔? それはユーリを助け――」

「ハヤト君、それは残念だけどできないと思う。さっきも言った通り、現実世界で人を生き返らせる方法なんてないし」

「でも! 俺はユーリを助けないと前に進めない!!」


 俺がそう言うとユーリはフッと優しく微笑んで口を開く。


「ハヤト君……もういいよ」

「――っ!?」

「ハヤト君はいろいろ頑張ってくれたんだと思う。私が死んだ時の事は分からない。でも今のハヤト君を見てたらきっとその時も頑張って助けようとしてくれたんだと思う。だから……ううん、ハヤト君が悪いんじゃない。この世界で力が足りなかった私が悪いの」

「違う!! 俺はユーリを守らなければならなかった!! 俺はその為にペアを組んだのにっ!! あの時にちゃんとユーリをもっと安全な場所にっ!! 俺は……俺は――っ!!」


 俺は長い間抑えていた感情が爆発するかの如く、大きな声を上げる。

 俺があの時にちゃんとユーリを安全なところに連れて行けば――っ!!


「違うよ、ハヤト君」

「――っ!?」


 違うってなんだ? 俺がちゃんとユーリをもっと安全な場所に連れて行っていればユーリが死ぬ事はなかった。


「ハヤト君、それはハヤト君が責任を感じる必要はないよ。だって、ハヤト君はその時最善だと思う事をしてくれんたんでしょ?」

「それは……」


 確かにあの時はPKプレイヤーが出てくるなんて思わなかったから、あの熊型のモンスターを何とかしようとユーリを木にもたれ掛けさせたけど……でも、そのせいでユーリが……。


「なら、仕方ない事じゃない? 安全な場所なんて戦場にはない。ハヤト君の知っている安全な場所は結果を知らなければ分からない。 だからその時に安全な場所なんて分かるはずない。だって未来の分かる人間なんていないよ?それはこのゲームの世界が現実になっても一緒。だからどうしようもなかったんだよ」

「どうしようもないってそんな!? ユーリには夢があっただろ!? それが叶えられなくてもいいのか!?」


 しまった! 俺はなんて言葉を……。

 ユーリは少し悲しそうな顔をしたけどすぐに微笑んで俺に口を開く。


「仕方……ないよね。それは残念だけど死んでしまったらそれをどうする事も出来ない。……だから仕方ないよ。……でも、仕方のない事……私の事に囚われてハヤト君が壊れて行く方が嫌なの!!!」

「――っ!?」


 ユーリは目から大きな雫を流しながら叫ぶ。


「今日のハヤト君は私の知っているハヤト君じゃなかった!! 何かを抱え込んで前より心を閉ざしていて……まるで今を生きていないようだった!! もし私の死んだ世界でもハヤト君が私の事で後悔して今を生きていないような人間になっているんだったら嫌っ!! ハヤト君は強い!! みんなを救える存在だと思う!! 私はもう先に進めないから!! だから私の分も前を見て進んで!! 」


 ユーリはそう言って泣きながら俺の胸へと飛び込んできた。

 そして俺はそれを抱きとめる。


「ユーリ……」

 

 この感触は本物みたいなのに……本当にどうにもならないのか?

 でもユーリの言った通り、この世界が現実世界とリンクしている以上は……。


「ユーリ……ごめん、ごめん……俺は……」


 俺の目から自然と涙が溢れてくる。

 そうだ。死んだ人間は生き返る事は出来ない。

 それはおそらく頭のどこかでは分かっていた事だ。それに目を背けて俺は『ゲーム』として都合の良いところに目を向けた。

 その為に俺はこうやって死んでしまったユーリにまで辛い思いや悲しい思いをさせて……。

 ダメだ、俺が泣いたらダメだ……俺はしっかりしなくちゃいけないんだ!

 

 涙を流している俺にユーリは手の力を強めて抱き着いてくる。


「……ねぇハヤト君、私は幸せだよ? こんな私の事をずっと考えてくれる人がいて。それだけで私は幸せだよ。私はここで終わりだけどハヤト君にはまだ未来がある。今のハヤト君が私の事考えてくれてるみたいにハヤト君の事を心配してる人もいると思う。その人達もハヤト君が前を向く事を願っていると思うよ」


 俺の事を心配……?

 俺の脳裏に微笑むノアやラウル、フライヤさんの顔が浮かぶ。


「……だからハヤト君は前を見て進んで? ハヤト君は強い……ハヤト君ならきっとこのばかげたゲームを終わらせられる。だから……私のような犠牲者を一人でも減らせるように前を向いて? それが私からのお願い」


 ユーリの願い……俺が守る事が出来なかったユーリが俺に託した願い。

 ユーリを助ける事が出来なかった俺に出来る事……このユーリの願いだけは……。

 俺は一度ユーリを強く抱きしめると身体を離しユーリと向かい合って口を開く。


「……あぁ、分かった。すまないユーリ。俺の勝手で辛い思いをさせて……」

「ううん……私は大丈夫。……へへっ、ちょっとキャラと違う事しちゃった」


 ユーリはニコッと舌を出しながら笑う。

 

「ユーリは強いな」

「そんな事ないよ。ただ、私はその瞬間、瞬間をを楽しく、そして真剣に生きているだけ。あっ、死んじゃったから『生きてた』だっけ? ははは」


 そう言ってユーリはおどけて見せるが、俺の目からしたら俺の為に少し無理をしているように見える。


「あっ! またそんな難しい顔して!! そんな顔だったらノアちゃんに嫌われるぞ?」

「――っ!? なんでそこでノアの名前が出るんだよ!?」

「えっ? その反応怪しいぃ~?」

「おいっ!?」

「冗談冗談!! あははは! ……でも、ハヤト君、これからはいっぱいいろんな人と関わったりしてね? 人は一人では生きていけないから――」

「ユーリ……出来るか分からないけどやってみるよ」

「大丈夫! 出来る出来る!! 普通にしてたらいんだから。 そして、好きな人が出来たら恋もするんだぞ? 私が天国から見ててやる!」

 

 ユーリはVサインしながら微笑む。

 そうだ。

 俺はこの世界に来てこの笑顔に救われたんだ。

 ユーリには笑顔が一番似合う。この笑顔を崩さない為にも俺は前を向かなくちゃいけない。

 死んだ人間は生き返らない……なら最期はその人が笑顔で天国に行けるように……。

 

「……あぁ、ユーリみたいな素敵な女性が現れたらな」

「えっ!? ちょ、ちょっと!! からかわないでよ!!!!」

  

 ユーリはそう言って両手をぶんぶんとしながら怒っている。

 この反応はまるでノアみたいだな。


「ん? これは……」


 俺とユーリの周りを白い光が覆い始めている。

 これはまたループか? ……いや、今までのループではこんな事なかった。

 もしかして……。


「……お別れだね」

 

 ユーリは白い光を一瞥して俺に呟く。


『別れ』


 その言葉が俺の胸に突き刺さる。


 俺はユーリを助ける為にここへと来た。

 でも、結局のその目的は達成できるものではないと分かってしまった。

 一度失った命は取り戻す事が出来ない……命とはやり直しのきく物ではなく軽いものではない。誰もが一つしか持つことができないのだ。

 このゲームの世界は現実となりその命の重さは現実世界と一緒になった事によりユーリの命はもう帰ってくる事はない。


「そうだな……お別れだな」


 俺はその現実を受け止めなくちゃいけない。

 受け止めて前へ進む……そうしないとユーリは笑って天国へ行けない。

 俺に出来る事はユーリの最後の願い『このゲームを終わらせる事』だ。

 その為に俺は現実を受け止め前に進む。

 ユーリの最後の願いを叶える……それが俺にできる事唯一の事だろう。


「へへっ、なんか変な感じだね」

「そうだな」


 徐々に俺とユーリを包む光が強くなってくる。

 俺はなんとなく直感でこのループから抜け出すと感じた。

 そうすればユーリとは永遠に会えなくなる。


「……」

「なんでハヤト君がそんな顔するのよ? 最後くらいちゃんと笑ってよ」

「あ、あぁ、ごめん……これでどうだ?」


 俺は無理やり作り笑顔をする。


「ぷっ、あははは!! 何その顔!! おもしろいぃ~~!!」

「そ、そんな笑わなくてもいいだろ!?」

「ははは!! でもいっか! 最後にハヤト君のおもしろい顔見れたし!」

「おもしろい顔って――」


 その瞬間、俺とユーリ包む白い光が一瞬強く光りその光が俺たちを中心に収束し始める。


「……もう時間だね」

「あぁ」

「ハヤト君、元気でね」

「あぁ、ユーリとの約束必ず守るよ」

「うん……私ね、ハヤト君の事――」


 光は一気に収束し視界が白い靄に包まれる。


「ユーリなんだって!?」

「……私、ハヤト君の事応援してる!! 天国からずっと見守ってるから!! だから――」


 俺はユーリの言葉を完全に聞くことは出来ないうちに聴覚が失われた。しかし、最後の瞬間ユーリの口の動きは『必ずこのゲームを終わらせてね』と言っていた。

 必ず……必ずユーリの最後の願いは俺が叶える。

 俺はその光景を心に焼き付けながら決意した。

 そして俺は懺悔の涙を使用した時のように意識を奪われた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ