足りない事
「ハヤト君大丈夫!?」
「あぁ、大丈夫。 ユーリこそ大丈夫か?」
黒いローブの男達が去った後、俺はユーリとノアの元に戻った。
俺が戻ってくると今回はが早かったからか、プレイヤーの被害も0ではないが以前よりもだいぶ少なかった。
もちろんユーリもノアも無事だ。
「ハヤト……君が、突然ユーリさんを連れて来た時はびっくりしましたが、無事に守れて良かったです! ……あっ! ユーリさん! 決して上から言ってるんじゃなくてあのその……っ!?」
ノアは自分でパニックになって両手をバタバタとしている
戦闘中はあんなに冷静なのに、戦闘以外の時は本当にこんなキャラなんだな。
「ははは!」
「あはは!! ノアちゃんおもしろーい!!」
俺とユーリは同時に笑い声を上げた。
いつぶりだろう……こんなに心から笑えたのは。
なんか世界が違って見える。
俺目の前ではユーリがノアを抱きしめて、子供の様に頭を撫でていて、それに対してノアが「やめてくだいよ! こう見えて十七なんですから!!」と言っている楽しそうな光景が広がっている。
俺はやったんだ。
ユーリを助ける事が出来たんだ。あの『漆黒の執行者』というPKギルド、そしてクライド、黒いローブの男……新たな課題は出来たけど俺はユーリを助ける事が出来た……それだけで満足だ。
「助けてくださ~い!!」
「なんで? ノアちゃん可愛いからこうしてるだけなんだからいいじゃん!」
この笑顔、そして俺を気遣ってくれていたノア。
俺は何があっても今度こそ誰も死なせない。
「ノア、観念しろ!!」
「えぇ!? そんなキャラでしたっけ!?」
俺はしばらくその光景を見て幸せを感じていた。
―――――
「今回の遠征の協力感謝する! みんなのおかげでレイクシティを拠点にする事が出来た! ……多少犠牲は出たが……しかし犠牲者を出さない為にもまた必要な時は力を貸して欲しい」
その後、俺達は以前と同じように何事もなくその日のうちにレイクシティに辿り着いた。
その間に俺はフライヤさんに『漆黒の執行者』について話してみたが、フライヤさんも聞いた事がないらしくこれから情報を集め警戒していくという事になった。
「では、これにて一度遠征隊は解散する!」
その一言で今回の遠征隊は解散となった。
さて、無事にユーリを助けられたしこれからどうするかな?
やっぱ『漆黒の執行者』って奴らに対抗できるように早い事、神剣エアリアルを手に入れに行くか。ん? 明日にでも行けばラウルの仲間も死なずにすむんじゃないか? なら、今日は早く寝て明日の朝早くに――。
「ヤト君…ハヤト君!!」
「うわっ! ……なんだユーリか」
「なんだって何よ!? なんだって事はないでしょ!?」
俺がこれからの事を考えてボーっとしていると、ユーリが俺の顔を覗き込んで呼んでいた。そして、今は頬を膨らませながら怒っている。
「ゴメンゴメン! ちょっと考え事してて……どうした?」
「考え事? ……まあいいわ。それよりどうする?」
「どうするって?」
「えっ!? 初めから聞いてなかったの!?」
いや、初めから聞いてなかったのって言われても……。
ユーリは「やっぱりやめとこうかしら……」とかぶつぶつ言いながら怒っていたけど、俺は謝り続けていると態度を軟化してくれた。
「もう言わないからちゃんとよく聞いてよ!」
「はいっ!!」
俺は背筋を伸ばして返事する。
「……ごはん作ってあげるって言ってるんだけど……どうする?」
「ごはん……?」
そう言えばレイクシティに来るまでにユーリと約束したな。
ユーリを助けたことですっかり安心して忘れてた。
「いらないならいらないでいいわよ!? 別に――」
「お願いします!!」
ユーリがそっぽを向いたので俺は全力で頭を下げる。
ユーリって機嫌が悪くなったら手を付けられなさそうだし、こういうのは誤解を与えない方がいいだろう。
俺も安心したらお腹空いたしな。
「そ、そこまで言うなら作ってあげるわよ。……じゃあついてきて」
「了解!」
ユーリも助けられたし今日はやるべき事をやった。
今日はご飯もらってゆっくりしよう。
俺はユーリについて歩き出した。
――――
「ごちそう様でした!!」
ユーリについて行ってついた先は宿屋だった。
そして宿屋に着くと、ユーリは宿屋の店主に交渉してキッチンを借りて料理を作ってくれた。
宿屋ではまだ時間が早くて使わないから、そのままキッチンで食事を作って食べていいという事で、俺はキッチンに置かれた椅子に座りながら、テーブル越しにユーリが料理を作っているところを見ていた。
なんというか女の子が料理している姿を見るというのは新鮮で不思議だったから、俺はじっと黙って見ていたら「そ、そんな黙ってじっと見てないで喋ってよ!」と怒られたので、じっと黙って見つめるのを止め、それからはあの悪夢の日からレイクシティに着くまでのいろんな話をした。
ユーリは話しながらでも、手慣れた感じで料理を作っていて俺はそれを見て感心した。
ちなみにユーリが作ってくれたのはハンバーグにシチューだ。
ハンバーグは現実世界で作る食材とは違い、モンスターの肉をひき肉にして作ったものだったが、焼いてる時からおいしそうな匂いがして、食べてみても現実世界のハンバーグと同じ……いや、それ以上に美味しかった。
シチューも現実世界と似たような食材を使って作られていてとても美味しかった。
まさかWOFの世界で食事の美味しさ、感動を再認識するとは思わなかったけど。
「ハヤト君どう? 美味しかった?」
ユーリが覗き込むような恰好で聞いてくる。
うっ、目のやり場が……。
今はレイクシティの中の宿屋という事もあって、戦闘着から着替えて私服になっている。WOFの中にも私服は充実していて、専用で売っているショップがある。
当初は一種の娯楽みたいな感じで導入されたようだけど、現実世界ではお金の問題があって、なかなか買えない服でも、WOFの中ではモンスターを倒すことでお金が得られるので、ゲームの中でオシャレをするプレイヤーも増えてきていた。
今となってはここが現実みたいなものだけど。
俺もお金は余るほどあったので、一応一通りの私服はある。これは悪夢の日でアイテムが初期化されても残っていた。
私服は一応コマンドに『私服』とあったのでアイテムとは別管理されていたからだと思う。
俺は今、黒のロンTにデニムといった恰好で過ごしているのに対してユーリは髪を後ろでくくり、上は白に黒いボーダーの入った首元のゆったりとしたセーターにデニムといった服装でその上から白いエプロンをしている。そんな恰好なので、覗き込むような格好をされると首元から胸元が見えそうでどこに視線を向けていいか分からず、俺はそっと横を向きながら「美味しかった」と答えた。
「良かった!」
そう言って笑顔になるユーリ。
そうだ。俺はこの世界に閉じ込められて最初、この笑顔に救われたんだ。
「あっ、ハヤト君」
「ん?」
笑顔になったかと思うとユーリは真剣な表情になった。
なんだ? 俺なんかいけない事したか?
「あのね、私今日ハヤト君が助けに来てくれて嬉しかった。あの熊型のモンスターの攻撃を受けた時はもうダメかと思った……その時ハヤト君が助けに来てくれて嬉しかった」
「ユーリ……俺もユーリが助けに来てくれた時嬉しかったよ」
「へへっ、何かしんみりしちゃったね! 私片付けするからハヤト君はゆっくりしてて!」
「あぁ、ありがとう」
ユーリはテーブルにあった食器を持って水場へと向かう。俺はその後ろ姿を
俺は一度救う事が出来なかった。だから今回は必ず助けると誓った……本当にユーリが生きててくれて良かった。
はぁ~何かそう思うと眠くなってきたな……少し寝ようかな……。
そして俺は襲ってきた睡魔に勝てず意識を手放した。
―――
目が覚めると見た事ある光景が目に入ってきた。
なんだこれは……夢か?
それは熊型のモンスターの後ろからバトルアックスの男が加勢するがモンスターがユーリを狙っていたかと思ったら急に標的を変え不意をついた一撃で男は吹き飛ばされると言った場面だ。
これは……どういう事だ? 夢か?
俺が思案している間に熊型のモンスターは右、左とユーリに向かって熊型モンスターは攻撃を繰り出すが、ユーリはショートダガー使いである利点のスピードを生かしてそれを躱してはショートダガーで切り付ける。
なにがどうなっている!?
状況が把握できないまま目の前の光景は俺が知っている通りに動き出す。
「きゃあ!!」
「ユーリィィィイイイイッ!!!」
違う! これはまた時が戻っているんだ!!
目の前の光景はあまりにリアルで俺の身体もその時のようにいう事を聞かない。
これはまた時を戻っていると考えるほうが自然かもしれない。
それにこのまま何もしなかったらユーリが死んでしまう。
くそっ! 何が……何が足りなかったんだ!?
俺はこの場面をやり直す事になった理由……何が足りなかったのかを考えながら戦いの中に身を投じた。




