笑う資格
「あっ、えっと……ハヤト……君? ……お久しぶりです!」
『蒼の迷宮』を攻略してから一週間、愛剣であった神剣エアリアルを手に入れてから俺はエアリアルを使いこなす為、より一層強くなる為、ひたすらモンスターと戦いレベル上げをしていた。
そして、天気が崩れそうになったのもあり、一度アイテムの補充をしようとレイクシティに戻ってきたところでばったりとノアに出会った。
ゲームの世界とはいえ次世代型のゲーム機『バーチャル・ドライブ』によって五感も感じるしもうこの世界は現実と一緒だ。天候が崩れて雨に濡れたり、足場が悪くなれば動きにくくもなるしリスクも増える。それでも得られる経験値は一緒だから無理する意味はない。まぁたまに天候の悪い日しか出ないモンスターとかもいるが今は特に狙っている訳でもない。そんな訳で一度レイクシティに戻ってきたけどタイミングが悪かった。
まさか、知り合いに合うとは……。
「あぁ、ノア久しぶりだな」
俺は無視する訳にもいかず、無難な言葉を返す。
ノアは遠征の時と違い、初めて出会った時と同じローブ姿だった。
最初にあった時と違うのはフードを被っていない事だろうか?
まぁ最初にあんな風に絡まれて怖い思いをしただろうし同じような過ちはしないよな。
でも今となっては、ノアは遠征隊の生き残り、そして実力者として街中でも噂を聞くくらいだから前みたいに絡む奴はいないだろうけど。
それにしても人は見かけによらないものだ。あの時見たノアの魔法は明らかに並のプレイヤーと違った。あれだけの威力のある魔法を使えるという事はきっとノアも俺と同じヘビーユーザーに違いない。
でも、そんなプレイヤーであり、俺達のチームで有名になりつつあるノアが俺の目の前で何故か顔を赤くしてもじもじしている。
どうした? どっか具合でも悪いのか?
「……大丈夫か?」
「えっ、あっ、はい! 大丈夫です! ……ハヤト……君こそ大丈夫ですか?」
ノアは俺を覗き込むような形で俺の顔を見ている。
俺? ……そうか……俺の事を心配してくれているのか。
「あぁ、大丈夫だよ」
俺はノアに嘘をついた。
正直俺はユーリの死から前に進めていないけど、それを口にすると余計な心配をかける。
それにサンドイッチを持って来てくれた時みたいに気を遣わせてしまうかもしれないし、それなら大丈夫と嘘をついて俺の事を忘れてもらった方がいい。
なんせレッドシティで一度絡まれていたところの間に入っただけの関係なんだから。
余計な心配をかけて気を遣わせて俺なんかと関わらないようにした方がいい。
「そうですか……でも無理しないでくださいね?」
一瞬、表情が緩んだけど、すぐに心配そうな表情に戻る。
うまく誤魔化し切れなかったか?
「あっ、この前のサンドイッチありがとうな。美味しかったよ」
話を誤魔化すように礼を言った.
するとノアは予想外の事だったのかキョトンとしたかと思うと徐々に顔が赤くなってあたふたしだした。
「あわわ! そ、そうですか!? お口に合ったみたいでよかったです!?」
両手をバタバタしながら言葉を口にするノア。
見ていてなんかおもしろいな。
「ふっ」
「あっ! 今笑いました!?」
「い、いや笑ってない!!」
俺は両手を振って全力で否定するが、ノアの言う通り確かに一瞬笑ってしまった。
でも、この俺が笑ったのか……? ユーリが死んで感情なんてなくなったと思ったのに。
ノアは赤い顔をしながらこっちを見てくる。
でも、なんだろう……なんで笑えたんだ? ユーリとは違うけどノアに対しても心を開きかけている俺がいるのか……? なぜ?
俺は自分の中で自問自答している内容と目の前の光景のギャップがあってまた少し笑ってしまった。
「もう~! やっぱり笑ってるじゃないですか!? 笑わないで下さいよ!?」
「ち、違う!! ちょっとギャップが!!」
「ギャップ!? それってどういう事ですか!? 私こう見えて十七ですよ!? 料理くらいしますよ!!」
ノアはまたも赤い顔をしながら両手をバタバタさせて俺に抗議してくる。
てか、そういうギャップじゃないんだけどな。でも、十七? って事は……。
「じゃあ俺より一つ年下になるのか……」
「えっ!? ハヤト君って年上だったんですか!? すいません!? 私てっきり同じ年だと思って……だって受験生がゲームするなんて思わないじゃないですか!? それに顔も……あっ、いや、あの、そういう意味じゃなくて……すいません!!」
そう言っては赤い顔をしてバタバタしながらすごい勢いで頭を下げる。
さっきからよくまあそんなにバタバタしてるよな。
戦場で見たときは確か落ち着いて行動してたと思うのに。
戦闘になると人が変わるタイプなのか?
でも、確かに受験生なのに普通はゲームしないよな。まあこんな状況となったら受験とは言ってられないけど。
それに俺はよく中性的な顔って言われてたしな。そう考えると十八だとは思えないか。
「いいよ。なんか俺にもギャップがあったみたいだし」
「えっ!? ち、違うんです!! ハヤト君……いや、ハヤトさん? えっえぇっ!?」
俺は考えを一巡した後ちょっとノアを困らせるような言い方をしてみるとノアはよりパニックになってあたふたしている。
ちょっとからかってみたけど、これ以上いじめるのはかわいそうか。
「ハヤトでいいよ。それに分かってるから」
「えっ、えぇ!? 呼び捨てなんて……で、でもからかうなんてひどいです!!」
両手をグーにしながら俺をポカポカ叩いてくるけど全然痛さは感じない。
まるで子供みたいだな。
というか俺は何をやっている? なんでこんな和やかにしているんだ?
……俺には笑う資格なんてないのに。
「ごめん……悪かった」
「えっ!? いやそんな謝らなくても……えっ!? ハヤト君! どこ行くんですか!? 怒ってないですよ!? ハヤト君――っ!!」
俺の心にユーリが浮かび、俺はこんな風に楽しく会話していい人間ではないと思い、ノアから離れて歩き出した。
ユーリはもうこうやって誰かと言葉を交わすことも笑う事も出来ないのに俺がこんな風に楽しく過ごしていい訳がない。
俺はただ強くなって誰とも関わらずに一人でも犠牲者の少ないようにしてこのゲームを終わらせる……それがユーリを守れなかった俺が唯一出来る罪滅ぼしだと思うから……。
こんな事したってユーリが帰ってこない事は分かっている……でも俺に出来る事は限られている。一人でも犠牲者を少なく……そして、向こうのチームと俺たちのチーム、プレイヤー同士が殺し合わないですむような方法がないか探す。今の俺には全く何も考えが浮かばないけど。レンなら……いや、人に頼ってはダメだ。俺は一人で……俺一人で解決してみせる。その為にはもっと強くならなければならない。もっと……もっと強く……。
後ろからノアが呼ぶ声がするけど俺は振り返らない。
俺には誰とも仲良くなる資格なんてないし俺みたいな奴と一緒にいるのはノアにとってもよくない。ノアはこんな俺を気遣うような優しい人間だ。俺は人を殺したというのに……。仕方がなかったとはいえ、最後は感情のままに人を切り罪悪感も感じてなかった。今でこそ罪悪感はあるが……。
優しい心の持ち主であるノアには俺なんかと関わらず光のあるところにいて欲しい。
誰かノアの事を守ってやってくれ……。
「さて、アイテムを補充するか」
気持ちを切り替える為に一人呟いた時、俺の複雑な心を表すかのように空から雨が降り出した。
その雨の中、俺は自分のやるべき事に心を切り替えて店に向かって歩いた。




