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神剣エアリアル

 俺は武器を手放し、片膝をつくプレイヤーの前に立つと守護神である吸血鬼型のモンスターを目で追う。

モンスターは俺が先頭に加わった事でどちらに攻撃するのか迷っているようだ。


「早くポーションを!!」


 俺がそう叫ぶと男は「す、すまねぇ。助かる」と言ってポーションを具現化させ口にする。そして、落としたバトルアックスを拾った。

 その間に吸血鬼型のモンスターは何度か襲い掛かってきたが、俺はレンに教えてもらった攻略法を元に攻撃を塞いでいた。


「助かった。サンキューな」

「礼はいい。……それよりこいつを倒してもいいか?」


 この守護神の部屋に先に入っていたのはこの男だ。

 人の獲物を許可なく奪うのはご法度だ。

 ……WOFの世界での死が現実の死となった以上、悠長な事は言ってられないが。

 それでも、守護神を倒して得られる武器はこの世界で生きて行く上でも重要になってくるし、後で揉めない為にも確認が必要だろう。


 男はハッとして一瞬考えるようなそぶりを見せたが首を左右に振りながら「あぁ、むしろ頼む」と言ってきた。

 その言葉を聞いて俺は剣を持つ手に力を入れる。


「それはそうとどうやってあんな素早い奴に攻撃を与えるんだ? まぁさっきも動きに対応できていたみたいだけどよ?」

「あぁ、それは――っ!?」


 俺は再度向かってくる吸血鬼型のモンスターを躱しながら一撃を入れる。


「今は説明している暇はない! とりあえず俺の言う通りにしてくれ」

「分かった! どうしたらいい!?」

「とりあえず俺の傍で待機しててくれ!」

「えっ!? それだけでいいのか!?」

「あぁ!」


 男は半信半疑のまま俺の傍で周囲を移動する吸血鬼型モンスターを警戒する。

 まぁ信じろったって無理か。

 俺も最初レンから言われた時は信じられなかったし。


 俺はさっきまでと同様にレンが教えてくれた攻略法を実行する為に赤く光る吸血鬼型のモンスターの目を追う。

 さっきはこっちからだったから次は……。


「こっちだろ!!」


 俺が一歩引いて猛スピードでつっこんできた吸血鬼型のモンスターを躱しながらカウンター気味に振るった剣は相手のスピードも威力に替え胸付近にあたりクリティカルヒットする。

 『ギャァァァァァァァアアアア』という声と共に吸血鬼型のモンスターのHPゲージが減っていく。

 この吸血鬼型のモンスターの最大の特徴はプレイヤーが反応出来ない程のスピードだ。レンが見つけた攻略法を知らなければどこから来るか分からない相手にそのスピードに翻弄され一撃も与える事が出来ずやられてしまう。

 それ以外のステータスに関しては他のボス級モンスターよりも低くなっている。

 一種の特殊モンスター扱いなのだろう。


 俺はレンの教えてくれた攻略法を元に吸血鬼型のモンスターの攻撃を躱しながらカウンター気味に剣を振るい続ける。

 右……左……左……右……。


 俺はその攻略法通りに吸血鬼型のモンスターの動きを読み、俺の傍にいる男にもモンスターの来る方向を教えながら攻撃を躱すよう指示を出す。

 それから、俺は素早く動く吸血鬼型のモンスターの攻撃を躱しながら、時に少し避けきれずダメージを受けながらカウンター気味の攻撃を続けた。男もなんとか避けたり、避けきれなくてもかするくらいですませながら戦い続け、戦闘開始から10分程で俺たちは吸血鬼型のモンスターを倒した。


「はぁ……はぁ……やったのか?」

 

 男は吸血鬼型のモンスターのスピードについていくのに疲れたのか、それとも戦闘が終わった事に安堵したのか脱力しながら呟く。

 俺は呟く男をよそに最後の攻撃を与えた俺の目の前に浮かんだ報酬のウインドウを確認する。

 …………あった。


 続いて俺は手に持っていた剣をコマンドを操作してアイテムボックスへとしまい、リストからそれを具現化させる。


「それが神剣エアリアル……」


 男はそうやって呟きながら俺の愛剣『神剣エアリアル』を見つめる。

 俺は男が見つめる中、神剣エアリアルを振るい感触を確かめる。

神剣エアリアルはシンプルな造りながら、刀身が青白く光っており、剣を振るった後の剣の残像が黄緑色の風のように残る。

 ……よし、感触に変化はない。


 愛剣エアリアルの感触に変わりがない事に安堵した俺は少しニヤリとして剣を背にしまい男の方へと向き直る。


「大丈夫か?」

「あぁ……助かったよ」


 男はそう言い安堵の表情を浮かべたかと思うと次の瞬間には表情を曇らせた。


「くそっ! まさか守護神があんな強いなんて……俺のせいで……俺のせいで仲間は……」


 そっか……この男はここで仲間を失ったのか。

 男が拳を握りしめ俯く姿に俺はまるで自分を見ているような気持ちになる。

 自分の行いを悔い、自分の無力さに悔いる……この男も俺と一緒か。


「……それは残念だった」


 俺はそれ以上かける言葉が見つけられずに視線を外す。

 俺もまだあの時から前に進めていないから……。


「……なんでおまえは動きが分かったんだ?」


 男は仲間の事を思い出すのが辛くなったのか仲間を殺した吸血鬼型のモンスターの事を詳しく知りたいのか、それとも誰も知らないはずの攻略法をなぜ俺が知っていたのかが気になったのか分からないけど俺に問いかけてきた。


「……昔、親友と一緒に……攻略したから……」


 俺も空気が気まずかったのが苦痛だったのか、昔レンと攻略した時の事を思い出し感傷的になっていたからか、分からないが自然と口から言葉が出た。


「なに!? じゃあお前はまさか二人で攻略したという奴の片割れか!?」

「……あぁ」

 

 男は驚きの表情を浮かべのけ反る。


「マジか!? ここでそんな奴に会えるとは……それに同じチームか。……で、もう一人は?」

「……敵チームだ」

「――っ!? ……そうか。……それでいったいあの吸血鬼型のモンスターの攻略方法はなんだったんだ?」


 男は俺に対して複雑そうな表情を見せ話を変えてきた。

 共に行動していたプレイヤー同士が敵になる……それがどういう意味になるのか不憫に思ったのかもしれない。


「あぁ、それはあの吸血鬼型のモンスターが攻撃対象のプレイヤーに対してプレイヤーを三角形の一つの頂点にして行動するんだ」

「三角形……? 頂点……?」

「あぁ、例えばモンスターが一度プレイヤーに攻撃したとする。するとそのプレイヤーを頂点にして次に行動を変えた場所が二角目、その次に行動を変えた場所が三角目……つまりそこからプレイヤーに襲いかかる」

「そんなパターンが……なるほど……じゃあさっきの指示は……」

「そうだ。モンスターはどのプレイヤーを攻撃対象にするか分からない。だから、一カ所に集つまって一つの角を限定したんだ」


 俺もまさかこんなパターンがあるなんて思いもしなかった。

 でも、レンは戦闘の中冷静に観察しその攻略法を見つけた。そうだ。レンはいつも冷静で頭の回る奴だったな。


『ハヤト、相手の動きを良く見ろ。あいつはプレイヤーを頂点にして次に行動を変えた場所が二角目、その次に行動を変えた場所が三角目……つまりそこからプレイヤーに襲いかかってるんだ。だから、下手に体の向きを変えると分からなくなる。身体の向きは変えずあの赤い目見て軌道の変化を見極めろ』


 レンはあの猛スピードで動くモンスターを前にして冷静に観察し突破口を見出した。

 俺はあいつの事を凄いと言ったけどあいつは『まぁゲームだし何か攻略法はあるはずさ。それに目がさらに赤くなるってのは何か意味がありそうだったからな』って言ってニカッとしやがった。あいつはとんでもない事をさらっとしてしまう奴だったな。


「そんな単純な事だったのか……そのせいで仲間は……くそっ!」


 俺の話を聞いた男は聞けば簡単な攻略法を見抜けずに仲間を失った事を悔いる。

 もう少し俺が早く着いていれば……。


「……すまない」

「えっ、あっ、いや、あんたは悪くないよ。全部俺が悪いんだ。俺の下調べが不十分だった……あんたは関係ないよ。むしろ命を助けてもらって感謝している。ありがとうな」

「いや、そんな感謝されるような……」


 俺は感謝されるような人じゃない。自分が守らなければならない人も守れなかったんだから……。


「いや、俺の命はあんたに助けてもらったおかげである。礼を言う……」

 

 男はそう言うと俺に向かって頭を下げる。

 やめてくれ……俺はそんな事をされる人じゃ……。

 いたたまれなくなった俺はその場を去ろうと出口へと向かう。


「お、おい! あんた名前は!? 名前を教えてくれ!!」

「……ハヤト」


 俺は立ち止まり振り返ることなくそう言うと足早に出口へと向かった。


「俺はラウル……ラウルだ!! ハヤトまたどっかで会ったら礼をさせてくれ!」


 出口から出る直前、男がそう叫ぶのが聞こえた。

 ラウルか……俺と同じように目の前で仲間を失ったおまえはどうして生きていくんだろうか。この世界で生き残った者が背負う十字架を俺はどうしていいのか分からない……ただもっと強く……強くならないと。

 俺はラウルを助けてしまった事でラウルにも俺と同じように十字架を背負わせてしまったかもしれないと思いながらその場を後にした。


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