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まだ動けるからとエルは仕事をやめようとはしなかった。
仕事場も同じで出勤時間退勤時間も同じだったため、それに常に目の届くところにいてくれた方が安心できたため強く反対することもなかった。
帰り道の事である。
二人は一つの長いマフラーを一緒に巻き、エルはいつかみたいにおんぶされて歩いていた。
「もうっ、ヤーサ君! さすがにまだ私歩けますわ!」
「でもこうしないと俺とエルちゃんじゃ身長差がありすぎてマフラーが一緒に巻けないよ?」
「……ずるいですの」
「ははっ、ずるくないずるくない」
二人がしているマフラーは実はヤーサが作ったものであり、こう使用することを前提の長さにしてあった。
マフラーを使っていることとは別の温かさが二人を包む。
「それにしてもヤーサ君は不思議ですの」
「ん? 何が?」
「あれだけ毎晩、その、……しているのにもかかわらずこう……おんぶのときに服越しに当たる胸に照れてお耳が真っ赤ですもの」
「そっそれは、寒さのせいじゃないかな! うん、べべべつに寒さで赤くなってるだけでおっぱいが云々の話は関係ないんじゃないんじゃないかな!」
「ふふっ、そういうことにしときますわ」
手強い反撃をくらったヤーサは火照る顔を何気なく上へとむけた。
そこで見えた景色にふと言葉を失った。
「どうかしました?」
つられるようにエルも上を見上げ言葉を失う。
そこには満天の星空と綺麗な満月があった。
「『月が……綺麗ですね』」
「あっ、それ師匠さんに聞いたことがあります。確か、『私――』」
「まった!」
「?」
「あんまりまわりくどいの俺好きじゃないや。――愛してます」
あの言葉の続きはたとえ話だとしても聞きたいものではないためヤーサは別の表現にする。
そんなヤーサにエルは苦笑しながら答えた。
「私もあなたを愛しています」
直球な表現にほんのりと赤面しながら再び歩き始める。
「ヤーサ君」
「どうかした?」
「また一緒に星を見ましょう」
「――うん。何度でも一緒に星を見よう」
「はい」