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最後のその時まで  作者: 宙兵
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「ばか!!」


 話し終えると同時に背中のエルから拳骨が飛んできた。

 エルは精一杯の力だったみたいだが全然痛くなくほとんど意味をなしていなかったが。

 

「あなた一体何なんですの!! 何様のつもりですの!! なんで勝手に私の気持ちになったつもりで暴走しているんですの!!」

「だって……エルちゃん俺を避けてたじゃないか…………」

「うっ……それは話が別ですの!」

「別じゃないよ!」

「そ、それなら先に避け始めたのはヤーサ君が先じゃないかですか」

「それこそ話が別だよ!」


 お互い引き際がわからずにくだらない口論がなかなか終わらない。


「うっ……」


 しかしエルは少し忘れかけていたが色々と体調が悪くつらい身である。


「大丈夫!?」

「え、ええ、問題ありませんわ……」

「…………」

「…………」


 無言になる二人。

 やがてヤーサの方から口を開いた。


「ねぇ、ヤーサ君。なんでギルド員になんかなったんですの? ヤーサ君なら普通に冒険者やってた方が儲かるしむいてたんではないですの?」

「いや、この流れで今更問う質問?」

「え?」

「え?」


 もしやこれでいてなお自分からの好意が伝わってないのではとヤーサは不安になる。


「あのさ……エルちゃんさ、流石に俺の好きな人わかってるよね?」

「えっと、その……」


 両者ともに気まずい沈黙になる。

 でもこれでなんとなく自分の好意は伝わってると確信する。



「まぁ、そんなことよりさ、エルちゃん、最近昔よりも体が重くない?」

「……失礼ですわ」

「ん、なに――」


 すぐに言いたかったことがなんとなく食い違ってることに気付いた。


「いやいやいや、体重の話じゃないよ! 体重は前おんぶした時ただでさえ軽かったのにもっと軽くなって不安レベルの軽さだよ!」

「ヤーサ君は変態さんですの」

「話が飛んだよ!?」

「…………つーんですの」

「エルちゃん……うまくはぐらかしたつもりかもしれないけど話し戻すよ」

「ぷいっですの」

「……エルちゃん前おんぶした時より胸大きくなったね」

「はい!? 突然何言いだしてるんですの!」

「エルちゃんがはぐらかそうとするから……」

「方法が雑ですの!」

「エルちゃんが変態なんて言うから……」

「本当の変態さんですわよ! ってあれ?」


 ヤーサの発言に若干身の危険を感じ少し身を離そうとしたがさっきよりも全然力が入らず動けないエル。


「あぁ、ごめん。エルちゃん魔力の使い方が下手すぎて分配がおかしかったから節約のためにとりあえず生命活動と会話に必要な分を除いてシャットダウンしたから体動かせないと思うよ」

「――――」


 エルの表情が険しくなったのは命が握られているせいか魔力の少ないことがばれているせいか性的な意味での不安のせいかはわからない。


「変態」


 そして発せられる言葉は純粋な罵倒になった。


「……俺さ、魔力視使えるんだ」

「変態」

「……前助けた時に異常が無いかを見るためにエルちゃんの体の魔力の流れを見ちゃったんだ」

「変態」

「……エルちゃん、昔からの付き合いなのに――」

「へんた」

「少し黙ろうか」


 魔力でエルの体を操り操り人形のようにして自分の手で口を塞がせる。


「むぐっ。むーうーうーうー」

「次は物理的に俺の口で塞ぐよ」

「…………」

「そこで黙られちゃうのもよっぽど嫌われてるみたいでなんだか悲しいなぁ」


 体の制御を元に戻す。

 おんぶの姿勢なので自分で言った言葉で照れてるなどという失態を見られずに済んでほっとしていた。


「昔から後先考えずに自己中に迷惑ばっかかけちゃってごめんねエルちゃん」

「……別に多少は迷惑でしたが感謝もしてますわ」

「ははっ、そういって貰えると多少楽になるよ。それでもさ、あの一件でやっと気づいて身を引こうと思ったんだ」

「っ! それが一番自己中心的で身勝手な考えですわ!!」

「……そうかもね。でもそれが最善だと思ったんだ」

「…………」

「でもさ、学園で今までの記憶を消した後もふと気が付いたらエルちゃんを目で追っていた」

「ストーカーさんですわ」

「ふふっ、そうかもね。エルちゃんの体が気になっていっつもハラハラしてたよ」

「言い方がまさしく変態ですわ」

「いや、そろそろ茶化すのやめようか」

「……」

「エルちゃん、真面目に答えてほしいんだけどさ、お医者さんにどれくらいって言われてる」


 しばしの沈黙の後、返答がきた。


「長くて、3年……ですわ」

「――――」

「別に驚くほどでもないと思いますわよ。見たのならばわかるはずです」

「――それでもっ」

「大丈夫ですわ」

「……エルちゃんの大丈夫は当てにならないよ」

「ヤーサ君の無茶な行動よりはましだと思いますの」

「…………」

「…………」


 再度沈黙が続く。


「エルちゃん、結婚してください」

「へっ?」

「エルちゃん、俺と結婚してください」

「はいっ!? えっ、ちょっ、いきなり何」

「ありがとうエルちゃん、大切にするね」

「待ってください、まだ私返事してませんわ!!」

「はいって言ってくれたよ?」

「あのはいは了承の意味ではなく驚いてついでちゃったはいですわ!!」


 突然の展開にエルは全くついていけない。

 慌てふためく様子を楽しみながらヤーサは話を続ける。


「身をひこうと思ったんだ。それでもエルちゃんを見かけるたびに胸が苦しくなって。エルちゃんの隣に自分じゃない男がいるだけでイライラしちゃう位浅ましくて。耐え切れなくなってさりげなく助けるだけとか自分を甘やかして近づいちゃって。それでいてエルちゃんがたまに『胸になんかぽっかりとした穴が空いてるようですの』とか呟く度


に罪悪感に押しつぶされそうになる位弱くて。自分で忘れさせといたくせに思い出して貰えたことに心の奥では喜びを感じてる位気持ち悪くて。結局今の今まで好きって気持ちを言葉に出来なかった位愚かで。今の今まで自分のとる行動に迷ってる位臆病で。……だけど無理ばっかするエルちゃんが心配で、3年とか聞いちゃって不安でいっぱいで抱きしめたくてたまらなくって」


 懺悔するような今までの感情をぶちまけるようなその姿は情けなかったかもしれない。 

 

「俺に君を守らせてください」


 だけどエルには誰よりも、何よりも素敵に見えた。


「……ずるいですの」

「え、何が?」

「体の自由を奪ったうえでの求婚とかげすの極みですの」

「……はっ」

「ふふっ、やっぱりヤーサ君はぬけてますの。おまぬけさんですの」

「ちょっとまって、弁明させて」

「やーですの」

「すみませんでした、お願いします、弁明させてください」

「……もうそんなことしなくても大丈夫ですの」

「えっ、それってどうい――」

「ヤーサ君、私も大好きです」

「――――」

「でも私なんかと結婚したって待ってるのは介護生活みたいな苦痛が多いと思いますわよ?」

「そんなものは苦痛にならない!」

「子供だってできないかもしれませんよ?」

「俺はエルちゃんさえ傍にいてくれれば他は望まない!」

「私一応貴族ですわよ」

「反対するのならば国だって落として見せる!」

「ふふっ、なんですのそれ?」

「信用してくれないなら一つ落としてこようか?」

「結構ですわ。それよりも体が少しも動かないってのは不便ですわね」


 本当なら大好きですのと言った瞬間に前へ回してる手に力を込めてギューとしたかったエルであった。

 もっともそんなことされていたらヤーサは萌え死んでいたかもしれないが。


「ヤーサ君、本当にこんなはずれな女でいいんですの?」

「エルちゃんがはずれなわけがないじゃないか。例えエルちゃんが突然男になろうとも俺はエルちゃんだけを見て入れるよ!」

「……その例えはなんか微妙ですわ」

「えっ」

「話戻しますけど、その、本当の本当に私なんかでいいんですの?」

「エルちゃん以外は愛せない」

 

 即答のヤーサにエルは嬉しさがこみ上げてくる。


「ヤーサ君、大好きです」

「エルちゃん、大好きだよ」

「私と一緒に生きてください」

「喜んで」


 エルをおんぶの状態からお姫様抱っこの状態へと持ち替えてキスをした。

 そして甘い甘い雰囲気を堪能した後はお互いに恥ずかしくなって相手の顔を見辛くなっておんぶの状態へと戻すのであった。






「ヤーサ君」

「ん?」

「私風邪ひいてるみたいですけどそんな時にキスするなんて迂闊ですわよ」

「あぁ、僕魔力操作うまいから大丈夫」

「失礼ですわ」

「あはは」

「もうっ……。そういえば話は変わるのですけれどヤーサ君、中等部の頃私を避けていた時期がありましたわよね?」

「うっ……いやぁ、そんなわけないじゃん」

「嘘ですの」

「そんなことないですヨ?」

「嘘つきは嫌いですの」

「すみませんでした。俺が悪かったです。」

「わかればいいですわ」


 雰囲気的には胸を張る場面だが体の制御が効かないせいで何もできない。

 色々な疲れも一気に来たのか言葉にかかる力もさっきに比べて弱弱しい。


「それで、なんで避けてたんですの? 何か私しましたっけ? 結構あの頃ショックでしたのよ?」


 ヤーサはショックでしたで罪悪感に押しつぶされそうになり少し言葉に詰まった。


「その……笑わない?」

「わかりませんわ。とっとときびきび話なさい」


 実はヤーサがエルを避け始めるようになったのは周囲にからかわれたりしたからだけなどではない。


「……が始まったんだよ」

「? よく聞こえませんわ」

「……うが始まったんだよ」

「もっとはっきり言ってください」

「だから精通がはじまったんだよ!!」

「……せいつー?」

「これ以上はセクハラだよっ」


 意味をやっとこさ飲み込めたエルはすぐに赤面した。

 その間ヤーサはぶつぶつと師匠に対する恨み言を呟いていた。


「師匠が無駄に変な知識ばっか教えるからいけないんだ。そのせいであの頃は女の子が何かを食べてるのを見るだけでもドギマギしちゃったし……。変なシチュエーションば


っか詳しくなっちゃって若干周囲からも浮きかけちゃったし」


「あの、そ、それでは要するにヤーサ君は私をその……せ、性的な目で見始めるようになっちゃったから避けていたということでよろしいですの?」

「……はぃ」

「へぇ……」

「……」

「ふ~ん……」

「……」

「へ・ん・た・い」

「すみませんでしたぁぁぁああああ」


 耳元で囁かれるエルの本気で責めるのではなく艶かしくいじめるかのような物言いにヤーサは耐え切れなかった。


「ふふっ、冗談ですの」

「……そっちの性癖には目覚めないでくれるとありがたい」

「性癖?」

「何でもないです気にしないでください」

「? おかしなヤーサ君ですの」

 

 無事流せたことに安堵した。


「それでヤーサ君、精通が始まったって具体的にはどんなことをしたんですの?」

「それよりも俺はエルちゃんが俺を避け始めた時の理由の方が知りたいかなっ!!」


 流せていなかった。


「……笑わないでくださいね?」

「無理」

「じゃあ話しませんわ」

「それはずるい」

「ずるくなんかありませんわ。まぁ、ヤーサ君がどうしても聞きた――」

「聞きたいです」

「――早いですわ。」


 はぁ、とわかりやすくため息をついてから再び話し始める。


「簡単な話ですの。サンがフラれたって聞いてほっとしちゃった自分が嫌だったからですの」

「それって」

「これ以上は自分で解釈してください」

「エルちゃん抱きしめていい?」

「……どうぞご勝手にですの」



 その後も思い出話や暴露話はエルの家につくまで続いた。





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