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最後のその時まで  作者: 宙兵
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 二人の子はヤーサが師匠より聞いた希望を意味するらしい『スミレ』と名付けられた。

 スミレを産んで以来エルの体調が急激に悪化した。

 立つのもしんどいレベルにまで。

 あの時言っていた三年という期限はすでにもうすぐそこまで来ている。


「けほっ、けほっ、すみませんヤーサ君。本当なら私がしなくちゃいけないことまで全部やらせてしまって」

「大丈夫だよ。エルちゃんは無理しないで」

「ほんとにすみませ……あっ」

「どうかした?」

「お、おはずかしながら……少し粗相を……」


 顔を赤らめてエルは恥ずかしそうにする。


「あぁ、そういうことか。大丈夫だよ」

「申し訳ないですの」

「わかってるわかってる、お口で綺麗にすればいいだね」  

「すみませんがおねが――えっ」

「じゃあ綺麗にするね――って冗談だからそんなに睨まないで」

「もうっ、ヤーサ君ったら!」


 最近エルはずっと申し訳なさそうな顔をしてすみません、ごめんなさいと少し暗い事ばかりいっている。

 ヤーサが度々冗談を挟み笑顔にはなるのだが堪えるものがある。

 

「ねぇ、ヤーサ君」

「なに?」

「茶化さずに聞いてほしいのですけれど」

「……」

「多分もう私は長くありませんの」

「……」

「終わりかけの今年が持つかどうかですの。お願いがあります」

「お願い?」

「仕事からの帰り道、また一緒に星を見に行こうって言っていたことを覚えてますか?」

「覚えているに決まっているよ」

「今年の終わり、その時に一緒に星が見たいですの」

「お安い御用だよ……」

「私も頑張りますわ。だからその……」

「……」

「泣かないでくださいまし」


 涙があふれて止まらない。

 なぜ中等部の頃から思いを告げなかったのか。

 なぜ話をよく聞いて昔から研究を進めなかったのか。

 後悔ばかりがあふれてくる。


「ヤーサ君は無き虫さんですの」


 ただ何も返す言葉がなくエルを抱きしめた。

 離したくない一心で力強く。


「私、本当に幸せですの」


 

















 時が流れていくのはあっという間なもので、エルは頑張り年末となった。

 もはや手を動かすこともできない。


「ヤーサ君、星を見に行きましょう」

「待って、そんな体調で外に出るのは……」

「大丈夫ですわ。と言ってももう自分じゃ動けないのでまたあの時みたいにおんぶして貰わないとですけれど」

「そんなことは問題じゃないよ!」

「ヤーサ君男らしくないですわよ」

「だって、だって」

「ヤーサ君は優しすぎるのが少し問題ですの。最後位笑ってまでとはいかなくても笑顔で見送ってほしいですの」

「そんなの無理だよぉ」

「最近のヤーサ君は本当に泣いてばっかですの」


 もうっとため息をつくエル。

 エルは運命を受け入れていて穏やかである。

 反対にヤーサは受け入れられなくて苦しんでいる。

 それでもエルの願いを叶えるためにエルの体を持ち上げた。

 スミレの防寒も済まし三人で星が綺麗に見えるところへと向かう。

 外に出て、下にビニールシートをひきエルを後ろから抱きしめるように座った。 


「綺麗ですの」

「うん……」

「暖かいですの」

「俺もだよ」

 

 腕の中のエルの体温は暖かい。

 もう限界だなんて信じられないほどに。


「ヤーサ君」

「なに?」

「呼んだだけですの」

「そっか」


 あんなに見たかったエルの笑顔を見ることが辛い。














「ねぇ、ヤーサ君。私、楽しいかったよ」


 ――やめてくれ。


「何もかもが」


 ――もう終わりみたいな言い方をしないでくれ。


「こうやって一緒に星を見たこと」


 ――またいつだって一緒に見ればいいじゃないか。


「意味もなく抱き合っていたこと」


 ――いつまででも抱き合って居ようよ。


「キスもいっぱいしましたね」


 ――まだしたりないよ。もっともっとしていようよ。


「最高の宝物も恵んでもらいましたの」


 ――まだこれからだよ。これから二人で見守っていこうよ。


「最後には苦労しか掛けませんでしたわね」


 ――あんなのは苦労じゃないよ。


 エルの言う通り最近泣いてしかいない。

 やはり笑ってお別れなどできるわけがない。


「エルちゃん、命を、命を分け合う魔法って知ってる?」

「やっと口を開いてくれたと思ったら、突然なんですのそれ?」

「都市伝説なんだけどね、愛し合う二人がお互いの寿命を足して平等に2で割る魔法なんだって」

「ふーん」


 興味がなさそうである。


「そんなものがあったとしても私は使いたくないですわ。ヤーサ君の時間を奪うなんて絶対に嫌ですの」


 エルはあったとしても拒絶するとはっきり宣言した。


「それに私、なんだかんだありましたけど運命の女神さまには感謝しているのですの。こんなにも幸せな人生は無いと思いますわ。ヤーサ君にこんなにも愛して貰ってヤーサ君の腕の中で逝ける、最高の人生ですの。だからそんなに悲しそうな顔をしないでくださいませ」


 ――無理。無理だよエルちゃん。



「ヤーサ君、今何時ですの?」





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