08
「……ッ……」
「ユア姉、笑うんやったらちゃんと笑ってくれへん?
堪えられると余計傷付くわ」
「いや、だって…
小さいだろうとは思ってたけど…!!」
堪えきれず、優亜が吹き出した。
彼女の目の前には、丈の全く合っていないジャージを着た健斗。
女性のフリーサイズでも、彼にはやはり小さかったようだ。
「ま、急に泊まる事になったから、今日はそれで我慢してよ」
「(男物がなかっただけ良かったけど…)」
「さて、お風呂も入ったし、健斗君の服も確保出来た。
後は寝る場所だけかー…」
それが今日一番の問題である。
急な転勤のため、客用の布団などは勿論ない。
あるのは、僅かな予備の掛け布団だけだ。
「仕方ないか。
健斗君、そこのベッド使って。
私リビングで寝るから」
「えっ!?いやいや!!
ユア姉の部屋やねんからユア姉が使いや!!
俺リビング行くし!!」
首を思い切り振る健斗に、ビシッと優亜が指を突き付ける。
「健斗君は部活もあるし、リビングで寝て風邪でも引いたら、私が怒られるの。
一応お客様なんだから、家主の意見には従いなさい」
大人としての自分の役割だ。
「…分かった」
「よし」
満足気に笑った。
「――――……」
深夜2時を過ぎ、優亜のベッドに横になっていた健斗は静かに起き上がった。
「(ユア姉もやっと寝たみたいやな…)」
先程まであったPCの起動音は今は聞こえない。
ドアを開けると、健斗の予想通り、そこにはpcに突っ伏して寝息をたてる優亜の姿。
「本間…ユア姉が風邪引くっちゅーねん…」
呆れたように笑う。
優亜を抱えてそのまま寝室のベッドへ寝かせた。
身長は抜かした。
力だって負けない。
けれど、年齢の差だけは、どんなに頑張っても縮まらない。
チラリと見えたテーブルの上の書類は、高校生の健斗にはただの文字の連なりにしか見えなかった。
「(早く…大人になりたい…)」
この人の傍にいてもおかしくないような。
この人が遠慮しなくても良いような。
この人が、好きになってくれるような。
優亜の額に唇を落とす。
まだ、気付かれませんように。
どうか、俺のこの想いだけは。